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ITのチカラ Vol.25 迫りくる「2025年の崖」を乗り越え、DX推進のための必須の取り組み

経済産業省が「DXレポート」を発表してから数年が経過し「2025年の崖」が2年後に迫る。日本企業は同レポートで示されたレガシーなITシステムに関する課題をどこまで克服し、DXを推進できているのか。残念ながらDXの本質がビジネスモデルの変革であることを理解しておらず、前段階のデジタライゼーションでとどまっている企業が少なくない。「2025年の崖」を乗り越えるためには何が必要なのか、東京理科大学 経営学部 国際デザイン経営学科 教授の飯島淳一さんに聞いた。

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  • 2023.06.01

[Vol.25]迫りくる「2025年の崖」を乗り越え、DX推進のための必須の取り組み

既存システムの複雑化、ブラックボックス化がDXを阻んでいる

写真:飯島淳一 さん 「DXを実現するためには、断片化したシステムの解消と事業や業務を理解したIT人材の育成が求められます。」 東京理科大学
経営学部 国際デザイン経営学科 教授
飯島淳一 さん
東京工業大学大学院・社会理工学研究科教授などを経て、2021年より東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科教授を務める。エンタープライズエンジニアリング、システム理論、デザイン経営などが研究テーマ。東京工業大学社会人教育院長、IT戦略本部電子行政に関するタスクフォース臨時構成員、日本ビジネスプロセス・マネジメント協会副会長などを歴任。

――あらためて「2025年の崖」とはいかなるものか、教えてください。

「2025年の崖」という言葉は、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」の副題にある「~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」の中で示されたもので、その骨子は次のようなものとなっています。

多くの経営者は、将来にわたる自社の持続的成長や競争力強化のため、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出または柔軟に改変するデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性について理解しています。

しかし、既存システムが事業部門ごとに構築されており、全社横断的なデータ活用が進んでいないのが現状です。また、システムの導入時や改修の際の過剰なカスタマイズにより、複雑化・ブラックボックス化しています。

経営層がこうしたレガシーシステムの弊害を解消し、DXを推進するため、業務自体の見直し、すなわち経営改革を求めても、事業部門などの現場サイドからは変化に対する強い抵抗を受けることも少なくありません。

こうした課題を克服できない場合、企業は25年以降、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告を発したのが「DXレポート」における「2025年の崖」です。これは、全社横断的なデータ分析・活用ができていない現状に対する指摘だと私は受け止めています。DXの進展どころか、DXの前提条件すら整っていないことが、問題の本質なのです。

DXで目指すべきはビジネスモデルの変革であり、デジタル化はその前提

――飯島さんご自身は、DXはどうあるべきと考えますか。

DXについては、さまざまな定義がなされています。例えば、「デジタル技術と業績改善のためのビジネスモデルの利用による組織の変化である」(Michael R. Wade, 2015)、「既存のプロセスを改善するためのデジタル技術の活用と、潜在的にビジネスモデルを変えることができるデジタルイノベーションの探求の両方を含んでいる」(Sabine Berghaus et al., 2016)、「プロセス、顧客体験、価値を根本的に変えるために、新しい技術を適用することを意味している」(IDC, 2019)などです。

これらの定義に共通するのは、DXの本来の目的はデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革にあるということです。私も全く同じ考えを持っています。また、DXを実現するためにはデータやプロセスのデジタル化が前提となることは、言うまでもありません。

単なる業務の置き換えや機器のリプレースだけではなく、ビジネスのリデザインが必要

――日本企業におけるDXの取り組み状況をどう捉えていますか。

アイルランドのIVI※1が開発した評価指標として知られるDRA※2に基づくコロナ禍前の調査結果では、日本企業のデジタル活用は、特定の業務プロセスをデジタル化するデジタライゼーションのレベルにとどまっており、米国や欧州の後塵を拝していることが明らかになりました。

先に述べたとおりDXの目的はデジタル技術を活用した変革であり、ビジネスモデルそのものの再定義・再設計に当たります。単に業務をITで置き換えたり、老朽化した機器を新たな機器にリプレースしたりするというリエンジニアリングではなく、リデザインを行うことが必要なのです。

ところが多くの日本企業は、その前提となるデジタイゼーションやデジタライゼーションを実施しただけで、DXに取り組んだ気になっているのではないでしょうか。いま取り組んでいることが本当にリデザインに当たるのかどうか、あらためて熟慮すべきです。

――見方を変えれば、DXの前提となるデータやプロセスのデジタル化が中途半端なことで、ビジネスモデルのリデザインという発想が生まれにくいという実態もありそうです。

多くの日本企業において依然として紙と電子が混在した環境下で業務が進められており、データの統合や連携も不十分です。

強く訴えたいのが、"一度入力したものは、再度入力させない"という原則を常に頭において考えることです。ところが、これに反する情報システムはいたるところで目にします。繰り返しになりますが、原因は業務や部門ごとに分断された情報システムのサイロ化にあり、この状態を放置したままでは、業務の全体像がますます見えなくなってしまいます。

※1 IVI:Innovation Value Institute

※2 DRA:Digital Readiness Assessment

「2025年の崖」に向かう日本の現状(編集部作成)

画像:「2025年の崖」に向かう日本の現状
  • ① 「DXレポート」が警鐘を鳴らす「2025年の崖」

    経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、2025年までにITに関する経営面、人材面、その他の指標が改善されなければ、年間最大12兆円の経済損失が発生すると指摘している(※1)
  • ② レガシーシステムの更新状況

    基幹システムにどの程度のレガシーシステムが残っているかを聞いたアンケート結果によると、更新が進む一方で、取引システムなどの基幹システムにおいては約6割の企業が未だに旧来のシステムを利用していると回答している(※2)
  • ③ IT投資で解決したい短期的な経営課題

    短期的なIT投資の目的についても、未だに「業務効率化」が最も多く、次点においてもテレワーク、ペーパーレス化などの「働き方改革」となっている。DXの本質である「ビジネスモデルの変革」や「商品・サービスの差別化・高付加価値化」との差を見るとDXにはほど遠い(※2)
  • ④ DX推進上の課題

    DX推進上の課題として「人材・スキルの不足」と回答した企業が47.1%と最も多く、DXにおいて必要不可欠な人材を確保できていない企業の苦しい状況が調査結果からも分かる(※2)
  • ⑤ 国内ITサービス市場の年間平均成長率の予測

    「DXレポート」では2025年までにITサービス産業の年平均成長率が6%となることを「2025年の崖」回避の指標の1つとしているが、IDCによる発表によると、国内ITサービス市場は緩やかに伸びてはいるものの、2022~2027年の年間平均成長率は2.9%と予測している(※3)
  • ※1 経済産業省/「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」より作成
  • ※2 日本情報システム・ユーザー協会/「企業IT動向調査報告書2022 ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向」より作成
  • ※3 IDC Japan/「国内ITサービス市場予測を発表」(2023年4月4日)より作成

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