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ITのチカラ Vol.11 ITの進化と活用で「医療」はどう変わるのか

日本における少子高齢化が進む中、医療の質をどのように維持・向上していくかが問われている。日本の医療現場では、過疎化した地域での医療サービスの低下や医師の絶対数の不足に加え、診療科ごとの医師の偏りなど、多くの課題を抱えている。解決策や今後期待される医療の進化について、インテグリティ・ヘルスケアの武藤真祐さんに話を聞いた。

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  • 2018.12.01

[Vol.11] ITの進化と活用で「医療」はどう変わるのか

若年層の社会保障負担増、医師の不足や診療科の偏りが医療の大きな課題

写真:武藤真祐 さん ITの活用で、業務の効率化を図り医療資源不足に対応することに加え、症状の改善や発症予防などの結果につなげることが重要です。 株式会社インテグリティ・ヘルスケア
代表取締役会長
循環器専門医 医学博士
武藤真祐 さん
東大病院、三井記念病院にて循環器内科に従事後、宮内庁で侍医を務める。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年に在宅医療を提供する医療法人社団鉄祐会を設立。東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 臨床教授

――少子高齢化の進行で社会保障費の増大が問題になっています。現状と課題解決の方向性についてどう見ていますか。

社会保障費は、団塊の世代が75歳を超える2025年から40年がピークで、それ以降は減少に転じる見込みです。しかし少子高齢化の進展により、若年層の負担が重くなることは間違いありません。

一般によく挙げられる解決策の一つは、風邪薬や湿布薬を保険適用外にする、あるいは現在は無料になっている小児の医療費を有料にするなど、社会保障費を一律にカットする方法です。日本の医療制度は諸外国と比較して保障が手厚く、削減の余地があるのは確かでしょう。また、社会保険料や税金の負担を増やす、高齢者の医療費負担の割合を引き上げるといった方法も議論されています。

これらの方法には一定の効果はあると思いますが、医療現場の取り組みによって社会保障費を抑制する方法も同様に検討されるべきでしょう。17年にシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞しましたが、彼の「行動経済学」の理論によれば、仕組みを変えることで人々の行動を変容させることが可能と考えられます。また、医療や介護において、糖尿病患者の血糖コントロールが改善する、要介護者の介護度が下がるといった「結果」を評価する制度を導入すれば、結果を出すための医療・介護サービスの提供を促すことになり、それが社会保障費の抑制につながるのではないかと思います。

――他に日本における医療が直面している課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

まず、医師の絶対数が不足していることは間違いありません。一方、都市部への人口の集中、過疎化する地域が増える中、医師が都市部により集中してしまう傾向も見られます。

さらに、外科や脳外科、循環器科など医師の負担が大きい診療科を選ぶ医師が減少傾向にあり、診療科による医師の偏りも課題です。地方では、さまざまな診療科を網羅的に提供するのは難しくなるでしょう。逆に医療機関が多い都市部では、診療科によっては医師が余る可能性もあります。つまり、医療資源が不足しているところと過剰なところの差が開いていく傾向があるわけです。

日本の医療機関は約8割が民営のため、都市部への医療機関の集中を国が統制するのは現実的ではありません。また、医師個人の職業選択の自由を守るという観点では、診療科の偏りを防ぐのも難しいでしょう。医師の偏在は解消しにくい問題といえます。

地方での集住促進、ITを活用した医療の提供が、課題の解決策に

――考えうる解決策はありますか。

過疎化が進む地方では、インフラが整った各地方の中心部へ集住を促すような施策が検討されています。電車やバスが廃線になり移動手段が失われるといった不便さを受け入れるのか、それとも移住するのかという選択を迫られる人も出てくるでしょう。その選択の際に、医療インフラの整備状況を理由に移住する人も多いのではないかと思います。

ITを使った医療の提供も、解決策になりえると考えています。例えば通信機能を搭載した血圧計などのIoTデバイスとクラウドにより、血圧や血糖値など体の状態を遠隔監視できるようになれば、定期的な通院の頻度は低下するでしょう。日々の体調や病状などの管理についても、ITを活用したオンライン診療で医師に診てもらい、必要に応じて医療機関を受診するという使い分けも考えられますし、地域の医療機関が連携して医療を提供する仕組みの構築も進んでいます。

限りある医療資源を効率良く活用するという観点では、まず「対面でなければ提供できない医療」と「オンラインで代替可能な医療」を定義する必要があります。それに加えて、ワークシェアリングの観点から「医師や看護師などの医療従事者でなければ提供できないこと」と「医療従事者以外がトレーニングを受ければ代替可能なこと」も定義し、「リアルとサイバー」「ワークシェアリング」の掛け算をすべきです。

オンラインによる代替とワークシェアリングを両面で推し進めて掛け合わせることができれば、医療資源が不足していく中でも解決できることは増えるはずです。

日本における医療サービスに関する課題とIT活用による解決案

日本における医療サービスに関する課題とIT活用による解決案
  • ① OECD(※1)加盟国の臨床医数(人口1,000人当たり・上位5カ国+日本・2015年)

    OECD加盟29カ国の臨床医数において日本は人口1,000人当たり2.3人で26位。1位のオーストリアは5.0人、OECD加重平均は2.8人となっている(※3)
  • ② 二次医療圏(※2)ごとの医師数(人口10万人対・2014年)

    近年医師の絶対数は毎年4,000人程度増加しているが、二次医療圏ごとに見ると人口10万人に対する医師数には差がある(※3)
  • ③ クラウドを使った地域医療連携ネットワーク

    総務省は、地域の病院や診療所などをネットワークでつなぎ、健康・医療・介護などのデータを共有・活用する「地域医療連携ネットワーク(EHR)」を、クラウドを活用して高度化、標準化、相互接続化することを進めている(※4)
  • ④ 地域医療連携ネットワークの参加率

    全国には約250の地域医療連携ネットワークが存在しているが、一定のコストを負担してまで参加するメリットを感じにくいことから、参加率は低い(※4)
  • ⑤ 情報通信機器を用いた遠隔診療システムの診療形態

    情報通信機器を用いた遠隔診療には、大きく分けて、特定領域の専門知識を持つ医師と連携する「医師 対 医師」のものと、医師が患者と離れた場所から診療を行うものや、患者の情報を遠隔モニタリングする「医師 対 患者」のものがある
  • ⑥ 遠隔診療ニーズ調査(有効回答者:939)

    「患者が受診の際に困っていること」に関するアンケート結果からも、遠隔診療に対するニーズが存在することが分かる(※5)
  • ⑦ 遠隔診療システム導入施設数(2014年)

    遠隔診療システムには遠隔画像診断、遠隔病理診断、遠隔在宅医療などがあるが、導入している医療施設は病院、診療所ともに一部に限られている(※6)
  • ※1 Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構。自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長、貿易自由化、途上国支援に貢献することを目的とした国際機関。2018年12月現在の加盟国は36カ国
  • ※2 二次医療圏:手術や救急などの一般的な保険医療を一体の区域として完結して提供できる、都道府県内を3〜20程度に分けた複数の市町村で構成されるエリア
  • ※3 厚生労働省「第55回社会保障審議会医療部会(2017年11月)
  • ※4 総務省「総務省が推進する医療ICT政策について」(2017年10月)
  • ※5 厚生労働行政推進調査事業「遠隔医療技術活用に関する諸外国と我が国の実態の比較調査研究」(2011年3月)
  • ※6 厚生労働省「平成29年版厚生労働白書 ―社会保障と経済成長―」(2017年10月)

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