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トップ > ITのチカラ [Vol.11] ITの進化と活用で「医療」はどう変わるのか > P2
日本における少子高齢化が進む中、医療の質をどのように維持・向上していくかが問われている。日本の医療現場では、過疎化した地域での医療サービスの低下や医師の絶対数の不足に加え、診療科ごとの医師の偏りなど、多くの課題を抱えている。解決策や今後期待される医療の進化について、インテグリティ・ヘルスケアの武藤真祐さんに話を聞いた。
今回のポイント
ソリューションレポート
――より質の高い医療サービスを受けられる環境づくりという観点で、ITを活用できるポイントを教えてください。
企業ではITの活用により「見える化」が進んでいますが、日本の医療の分野ではまだこれからだと思っています。
例えば、高血圧だと診断されて降圧薬を服用している人でも、診察を受けた日の血圧データしかありません。毎日どう推移しているのかを医療機関は把握できていないのです。自宅で血圧を計っている患者もいますが、測定方法が一定かどうかも医師が確認できませんから、正しい把握という点では足りません。
こうした問題は、血圧だけに限った話ではありません。症状や日々のデータが「見える化」されない中、診察や検査の際、ある時点のデータだけを取り、医師の経験に基づいて診療しているのが今の医療なのです。
IoTデバイスが進化・普及し、体の状態を継続的にモニタリングしてクラウドにデータを蓄積するなどの「見える化」が進めば、それらを基にした質の高い医療の提供が可能になるでしょう。
効率化という観点では、医療機関の受診前にオンラインで問診を完了するシステムを導入すれば、診察時には医師がそれを踏まえて必要なことだけを尋ねれば済むようになるでしょう。さらに、AIが問診結果を基に的確な質問ができるようになれば、医師が患者の状態をより理解した上で診察することも可能になるはずです。
あるいは、医師による糖尿病患者の指導についても、食事の写真を撮って送るだけで医師に代わって指導してくれるシステムなども、AIによって実現できるかもしれません。ITを活用し、医師と患者がスムーズに最適な行動や意思決定ができるようになれば、医療を効率化できる可能性は十分にあります。
医療の領域ではさまざまなITの活用法が考えられますが、医療サービスの質を向上させるだけでなく、「糖尿病が改善した」「脳卒中の発症が減った」といった具体的な結果につなげ、そのメリットを訴求していくことも重要でしょう。
――医療の分野へのIT導入の課題はどのような点にありますか。
大規模な医療機関ではIT化が進んでいますが、地域開業医は電子カルテの導入すらあまり進んでおらず、約7割の開業医は紙のカルテを使っています。
IT化を阻んでいるのは、コストの問題やメンタルバリアです。IT化には業務の効率化などさまざまなメリットがありますが、導入にはコストが掛かりますし、ITスキルの問題で新しいシステムの導入に慎重な医師もいます。「電子カルテは入力が面倒だから手で書いた方がいい」と考える医師は少なくないのです。
IT化を進めていくためには、コスト低減のほか、システムの使い勝手を改善してオペレーションの負担を減らす工夫も必要でしょう。もちろん、疾患の管理に役立ち、患者の症状改善などにつながることも重要です。
それにより「医学的により正しいアプローチが可能になる」「行動経済学的にも理にかなう」といった多角的な評価を積み上げていけば、より多くの医療機関や医療従事者へと利用シーンが広がっていくのではないでしょうか。