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ITのチカラ Vol.13 模倣品被害の実態とIT活用による対策の必要性

近年、サプライチェーンのグローバル化やECの普及による物流網の複雑化、スマートフォン向けフリマアプリなどによるCtoC市場の拡大などを背景に、「模倣品」によるさまざまな被害が拡大している。その実態や、企業が取り組むべき効果的な対策、ITソリューションが果たす役割について、デロイト トーマツ コンサルティングの羽生田慶介さんに話を聞いた。

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  • 2019.06.01

[Vol.13] 模倣品被害の実態とIT活用による対策の必要性

模倣品リスクのインパクトは地政学的リスク、人権リスクや環境リスクに並ぶ

写真:羽生田慶介 さん 「模倣品による被害やリスクの中には人命に関わるものもあるため、消費者に対する模倣品被害の啓発も重要な取り組みです。」 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
パートナー/執行役員
レギュラトリストラテジー リーダー
羽生田(はにゅうだ)慶介 さん
経済産業省でFTA・EPA交渉に従事した後、キヤノン、A.T.カーニーを経て現職。企業競争力や収益力に直結するルール(規制・標準)をてこにして、戦略策定や渉外支援に取り組む。多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所長も兼任。

――近年、模倣品による被害への関心が高まっています。その背景を教えてください。

まず押さえておきたいのは、現代社会において、模倣品被害は非常に大きな問題だということです。サプライチェーン全体に関わるリスクで、近年になって顕在化してきたリスクが三つあります。米中貿易摩擦やブレグジット(※1)に代表される地政学的リスク、環境や人権に係るリスク、そしてもう一つが模倣品リスクです。

模倣品が近年になって大きな問題となっている背景には、新興国における技術力の進歩があります。従来の模倣品問題は、新興国の業者がブランド力や技術力のある先進国企業の製品をまねて作り、主に先進国の企業や消費者が被害を受けるという構図でした。しかし、近年は新興国と先進国の技術レベルの差は小さくなってきています。特に「世界の工場」となった中国の製造に関する技術力は先進国の水準に近づいており、それによって模倣品のレベルも上がっています。

技術レベルの差が大きければ、正規品と比較して外見や機能が明らかに劣るため判別は容易ですが、技術力が向上したことで判別が難しくなっています。また、新興国が経済的に豊かになってきたことで「本物志向」が高まり、被害を受ける消費者が、先進国だけでなく新興国にも拡大してきているのです。

もう一つ、近年の模倣品問題の背景にあるのが、EC(電子商取引)による流通の複雑化です。BtoB向け、BtoC向けのEC市場の拡大に加え、オークションサイトやフリマアプリの普及で、CtoC市場も拡大しています。ECサイトによっては、出品者数や商品数を増やすために出品基準や対策が緩くなる場合もあり、正規品と並んで模倣品も売られる状況が発生しています。

BtoC市場の拡大で個人輸入が増加していることも、解決を難しくしています。BtoBであれば、同一製品が積まれたコンテナなどで輸送されますから、税関での抜き取り検査で模倣品の流入を防げる場合が多くあります。一方、個人輸入では小包で送られる場合が多く、抜き取り検査のような手法はあまり効果がありません。個人輸入の増加によって税関の業務量も増えており、水際でせき止めることが難しくなっています。

模倣品による損害は企業、消費者、行政機関にまで及ぶ

――模倣品による被害について詳しく教えてください。

OECD(※2)の推計では、2016年時点で世界の模倣品被害額は5090億ドルにも上っています。

企業が被る被害には、主なものとして、模倣品によって正規品の販売数量が落ちること、安い模倣品が出回ることで正規品に値下げ圧力がかかること、模倣品への対応コスト、模倣品で起きた事故などで正規品の信用に傷がつくこと、長期的なブランドの毀損(きそん)が挙げられます。

消費者からすれば、模倣品と正規品を誤認して購入してしまうと、期待した機能や性能、品質が確保できませんし、模倣品による事故で損害を被るケースも考えられます。行政機関が取り締まりや回収にかけるコストも、被害の一部だといえるでしょう。

模倣品被害は、雑貨、玩具、アパレル、電子・電気部品、化粧品など、幅広い業界で発生しています。例えば、日本企業の製品では、ブレーキパッドやエンジンオイル、エアバッグなどの自動車部品でも、多くの模倣品が出回っています。外見からは正規品との違いが分かりにくいものも多いのですが、価格を下げるために、安全性に関わるテストや評価プロセス、機能を省いているものも少なくありません。そうした模倣品は、急ブレーキのときに効きにくかったり、事故の際にエアバッグが開かなかったりなど、人命に関わるトラブルにつながる可能性があり、大きな問題です。

「模倣品でも十分に使えるから問題ない」と考える人もいるかもしれませんが、模倣品の利用には重大なリスクが潜んでいるため、消費者ももっと注意を払うべきでしょうし、そのための啓発活動も必要です。消費者が、模倣品対策に取り組んでいる企業によるブランドや商品、あるいはECサイトなのかどうか認識できるようにするための評価の仕組みも求められます。

模倣品・海賊版に関する被害の実態とその背景

画像:模倣品・海賊版に関する被害の実態とその背景
  • ① BtoC-ECとBtoB-ECの市場規模

    2013年に約276.5兆円だったECの市場規模は、2017年には約333.7兆円にまで拡大している。中でもBtoC-EC市場の伸びは大きく、BtoB-EC市場の約20%に対して約47%の伸び率を示している(※3)
  • ② ネットオークションとフリマアプリの推定市場規模

    一般消費者の購買の傾向に変化があり、ネットオークションやフリマアプリによる消費者同士のCtoC取引が増加している。中でもフリマアプリ市場は、1年で約58%市場規模が拡大している(※3)
  • ③ 日本企業の模倣品の販売地域

    日本企業の製品は、自動車部品や医療器具から衣料品、玩具まで幅広い業界の模倣品が出回っているが、その生産国はおおむね中国に集中しており、そこから世界各地へ輸出されている(※4)
  • ④ 海外現地生産比率(製造業)

    内閣府の調査によると、製造業における海外現地生産比率は年々増加しており、2017年度の製造業全体では23%を超え、2022年度には約25%まで増加するとの見通しが示されている(※5)
  • ⑤ 模倣品・海賊版に関する相談案件の割合(判明している模倣品の製造国・地域)

    政府模倣品・海賊版対策総合窓口への問い合わせのうち、模倣品の製造国・地域が判明しているものの7割以上が中国(香港を含む)に関するもので、2004~17年の通算でも6割以上を占めている(※6)
  • ⑤ 模倣品・海賊版に関する相談案件の割合(商品分野別)

    政府模倣品・海賊版対策総合窓口への問い合わせを商品分野別に見ると、雑貨が約半数を占めるが、電子・電気機器、繊維、運輸・運搬機器など、幅広い分野で模倣品被害が発生している(※6)
  • ⑥ 知的財産侵害物品の輸入差止実績

    財務省によると、2017年に税関で差し止められた知的財産侵害物品の輸入差止件数は30627件となり、3年ぶりに3万件を超えた。その背景の一つに「越境EC」の普及が挙げられる(※7)
  • ※1 Brexit:Britain(英国)とExit(離脱)を組み合わせた造語で、2016年に実施された国民投票の結果を受けたイギリスのEU(欧州連合)離脱問題のこと
  • ※2 Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構。自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長、貿易自由化、途上国支援に貢献することを目的とした国際機関。2019年5月現在の加盟国は36カ国
  • ※3 経済産業省/平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
  • ※4 経済産業省/我が国模倣品被害の課題分析及び課題解決のための方策検討に関する調査
  • ※5 内閣府/平成29年度企業行動に関するアンケート調査結果
  • ※6 経済産業省/模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告 2018年6月
  • ※7 財務省/平成29年の税関における知的財産侵害物品の差止状況

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    技術は保護してもブランドを守る意識が低い企業はまだ多い
    人手で取り締まるには限界
    ITソリューションによる模倣品対策に期待

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