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トップ > ITのチカラ [Vol.15] 「2025年の崖」をいかにして超えるか > P2
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」では、その中で指摘された「2025年の崖」に注目が集まった。日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応が遅れており、このままでは2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生まれるというものだ。目を向けるべき課題と取り組むべき施策について考える。
今回のポイント
ソリューションレポート
――レガシーシステムが使われ続けることで、どんな影響があるのでしょうか。
場当たり的に改修を続けたソフトウエアは最適化とは程遠く、維持管理に多大な手間とコストがかかります。ハードウエアに関しても、サポートの終了や後継機種が開発されず置き換えができないといった事態が発生しかねません。新しい技術に移行しようにも、ソフトウエアが対応していなければ、古いハードウエアを使い続けるしかありません。そして、ソフトウエア同様、古いハードウエアの維持管理は手間とコストがかかります。
日本企業のIT予算の内訳をみると、バリューアップ(システム新規開発)とランザビジネス(システムの維持・運営)の比率は2対8です。つまりIT予算のうち、企業が新たな付加価値の創造に回しているのは1~2割にすぎず、多くの資金はシステムの維持・運営に費やされているわけです。このように維持・運営だけで莫大なIT予算が必要なシステムを「技術的負債」と呼びます。
経済産業省は、この技術的負債を解消しなければ、2025年以降、最大で年12兆円の経済的損失が発生すると警鐘を鳴らしています。これがいわゆる「2025年の崖」問題です。
――「2025年の崖」を乗り越えるために重要なポイントは何でしょうか。
まずはレガシーシステムの刷新です。日本企業には、独自のシステムを持つことが競争力につながると考える傾向があり、既存のシステム製品を使う場合も自社向けにカスタマイズすることを好みます。しかし、企業が個別にシステムを作ったりカスタマイズしたりしていては、レガシーシステムの刷新は進みません。
経済産業省もガイドラインで示している通り、自社のコアコンピタンスではない領域で使うシステムは、共通プラットフォーム化していくことを検討すべきです。例えば、複数のITベンダーが連携して各企業のシステム刷新を取りまとめ、共通プラットフォームとして提供すれば、システム構築で失敗するリスクやコストの低減が見込めます。
実は、多くの企業のIT担当者やITベンダーは、この状況に気付いています。しかし、経営層の理解が得られずに刷新を進められないことも多いのです。経営層がDXの重要性を認識し、率先してDX推進に取り組むことが重要です。
経済産業省でも「経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門など、関係する者が現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげていくことが不可欠」として、認識を共有するために「DX推進指標」を策定しました。これは自己診断を基本として、各指標項目について経営層、事業部門、DX部門、IT部門などで議論しながら回答することを想定したものですが、その中には経営層が自ら回答すべき指標も盛り込まれています。経済産業省は、経営トップがDXやITシステムについて現場や事業責任者と会話して状況を把握し、主体的に取り組んでほしいと発信しているわけです。
米国では、ITシステムの状況は、株価などの企業の評価にも影響するようになっています。そのため、CEO(最高経営責任者)はCIO(最高情報責任者)と対等に議論し、自社のITシステムの状況を情報開示するのも一般的になりつつあります。日本企業がDXを推進するには、こうした体制づくりも必要です。「ITのことは分からない」というような経営トップでは、これからは生き残れないと認識すべきでしょう。