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キヤノンが「想像を超える高画質」を実現し、映像表現の新しい可能性と価値を提供するため、「EOS Rシステム」を世に送り出してから約1年。多くのユーザーにこれまでにない撮影体験をもたらす新しいイメージングシステムとして迎えられた。この新システムの中核として開発された「RFレンズ」に携わる担当者たちは、いかにして大きな革新を起こしてきたのだろうか。

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  • 2019.12.01

Episode.27 「RFレンズ」

理想を追い求めた「RFマウント」

写真:滝 慶行 キヤノン(株)のイメージコミュニケーション事業本部で「RFレンズ」の光学設計を担当する滝 慶行

一般的にミラーレスカメラは、小型・軽量なカメラを作れることが特徴だといわれる。だが、キヤノンでカメラ用交換レンズの光学設計を担当する滝 慶行は、「EOS Rシステム」がミラーレス構造を採用した理由は異なると話す。

「『EOS Rシステム』は、決して小型・軽量なカメラを作るためにミラーレス構造を採用したわけではありません。『想像を超える高画質』を実現できる新しいイメージングシステムを追求した結果、ミラーレス構造に行き着いたのです」

キヤノンの「EOSシリーズ」と「EFレンズ」は、登場から30年以上たった現在でも第一線で通用するシステムだ。だが、その間にデジタル技術や光学技術は大きく進化し、写真を取り巻く環境は変化した。次の30年を見据えたとき、新しい技術やニーズを取り込んだ、新たなイメージングシステムが必要なタイミングが来たと判断し、「EOS Rシステム」のプロジェクトはスタートした。

「想像を超える高画質」を実現する新たなイメージングシステムの姿を描くにあたって、光学技術者が譲れない条件として提示したのが、「RFマウント」の特徴である大口径マウントとショートバックフォーカスだったという。

滝が技術的な背景を説明する。

「カメラのレンズは、複数の凸レンズや凹レンズを組み合わせて構成されます。被写体を拡大・縮小したり、ピントを合わせたりするのがその機能ですが、実はもっと根本的な機能があります。それが立体物である被写体を平面の写真に写すことです。三次元のものを二次元に変換するわけですが、その過程で『収差』と呼ばれる、歪みや色のにじみなどが発生します。この収差が少ないほど人間の目で見たものに近い自然な写真になるため、レンズを設計する光学技術者は『どうしたら収差を少なくできるか』を常に考えています」

デジタル技術の進化によって、電子的な処理で収差を補正することも可能になってきたが、キヤノンでは光学技術の粋を集め、可能な限り収差の少ないレンズを生み出すことを目指している。

「収差の少ないレンズを設計する、大切なポイントは三つです。一つ目は、レンズを通る光が緩やかに曲がる構成にすること。光の曲がり方が急になるほど、収差が大きくなるためです。二つ目はレンズの対称性が高いこと。三つ目は、大きなレンズと小さなレンズをバランス良く配置することです。仮に完全に対称な配置であれば、前側で発生した収差を後側で打ち消すことができます」

この条件を満たしたレンズが理想だが、実際にはサイズや重さといった要因から実現は難しい。そこでさまざまな素材や加工技術を活用したり、レンズを加えたりして、収差の少ないレンズを目指すことになる。ここで重要になるのが、マウントの大きさと、一番後ろのレンズとCMOSセンサーとの間隔を指すバックフォーカスの距離だという。

「マウントの口径が小さい場合、CMOSセンサーの四隅まで光を届けるために、一番後ろのレンズで光を急に広げることになります。そうすると収差が大きくなり、それを打ち消すために、レンズを追加するなどの調整が必要になります。逆にマウントが大口径であれば、光は緩やかに広がるため収差を少なくできます。また、バックフォーカスは、短いほど、光学設計の自由度が高くなります。一眼レフではミラー機構があるためバックフォーカスが長くなり、後側にレンズを配置する際の制約になります。一方、ミラーレスであればミラー機構はありませんから、一眼レフでは不可能なレンズの配置や構成が可能になります」

「想像を超える高画質」を実現する理想のレンズに近づけるためには、大口径マウント、ショートバックフォーカスが不可欠であり、それを可能にするのがミラーレス構造だった。だから「EOS Rシステム」はミラーレスカメラなのだ。

画像:「収差の少ないレンズ」を設計するには

「収差の少ないレンズ」を設計するには
キヤノンではできる限り画像の歪みや色のにじみなどの「収差」が少ないレンズの実現を目指している。そのための判断基準として、レンズの前側と後側で光学系の対称性が高いこと、大きいレンズと小さいレンズがバランス良く並んでいること、光の屈折が緩やかであることが挙げられる。

画像:「大口径マウント」と「ショートバックフォーカス」によるメリット

「大口径マウント」と「ショートバックフォーカス」によるメリット
ミラーレス構造の「EOS Rシステム」を象徴する「RFマウント」は、大口径マウント、ショートバックフォーカスを新たに採用している。大口径マウントにより収差の少ないレンズの構成や配置が可能になる。一方、ショートバックフォーカスによってレンズの構成や配置の自由度が高くなるため、従来は不可能だったスペックや高画質の追求、小型・軽量化といった多彩なレンズ設計を行うことができる。

画像:同クラス世界最短・最軽量を実現した「RF70-200mm F2.8 L IS USM」

同クラス世界最短・最軽量を実現した「RF70-200mm F2.8 L IS USM」
大口径マウントとショートバックフォーカスという特徴を生かすことで、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」は世界最短・最軽量(※)を実現。「EF70-200mm F2.8L IS III USM」と比較して約27%短く、約28%軽くなっている。
※35mmフルサイズの撮像素子を搭載したレンズ交換式カメラ(一眼レフカメラ・ミラーレスカメラ)用の焦点距離70-200mm F2.8の交換レンズとして(2019年10月24日発表時点/キヤノン調べ)

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