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トップ > Cのキセキ Episode.30 「EOS R5」 > P3
「撮影領域の拡大」のためにチャレンジし続けてきたキヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D」シリーズ。2020年7月、時代を切り拓いてきた「5」という数字を冠した、フルサイズミラーレスカメラ「EOS R5」が登場。「5」という数字に込められた想いを探った。
では、キヤノンのレンズ交換式カメラの企画・開発に関わるメンバーは、「5」という数字が持つ意味や力をどのように考えているのだろうか。キヤノンの企画部門で、「EOS R5」の商品企画を担当した松島 寛が話す。
「商品企画には『EOS 5D Mark Ⅲ』のプロジェクトがスタートしたころから携わっていますが、その時点ですでに『EOS 5D』シリーズはキヤノンを代表するカメラでした。それだけに、『5』について考えることは『キヤノンのカメラはどうあるべきか』を考えることだという意識がありました」
キヤノンMJをはじめ世界各地の販売会社と連携しながら導入戦略を検討する小林正博も、「5」という数字には挑戦の意思が込められていると話す。
「これまで『EOS 5D』シリーズに初めて搭載された機能の多くが、その後に登場したカメラにも搭載されてきました。ラインアップとしては『EOS-1D』シリーズがフラッグシップですが、『EOS 5D』シリーズも別の意味で頂点にあるカメラだと感じています。ユーザーの期待値を超え、その先を見せて、標準を作っていくカメラ。まさに『撮影領域の拡大』の軌跡。それが『EOS 5D』シリーズという存在です」
松島の口から語られた、興味深いエピソードがある。
「次に開発するカメラが『EOS R5』という名前になると決まったとき、認識を共有するために、開発チーム内でキャッチフレーズを考えました。それは『やっぱりキヤノン。やっぱり5』。これまで『EOS 5D』シリーズを使ってきたユーザーが、このカメラを手にしたとき、構えてファインダーをのぞいたとき、シャッターを切ったとき、撮れた写真を見たときに、『やっぱりキヤノンだよな』『やっぱり5だよな』と思ってくれる。その言葉に合う機能や性能を惜しむことなく投入しよう。そういう想いをメンバー全員で共有して開発を進めました」
18年に発売した「EOS R」でフルサイズミラーレスカメラという新しい世界に足を踏み入れたキヤノンは、20年を次のターゲットに定めてこれまでにないカメラを作るという意識を開発チーム全員が持っていた。しかし、そのカメラが「5」という数字を背負うと決まってからは、全員の目の色が明らかに変わったという。
「例えばCMOSセンサーや電子ビューファインダーのように、製品カタログで取り上げられるような部分はもちろんのこと、端子の位置やケーブルのカバーなど小さな要素一つひとつにまで、『5であるならば、こうあるべき』という意見が出てくるようになりました」
一つの製品を世に送り出すには、開発の過程で乗り越えなければならないハードルが数多くある。要素技術の選定、パーツのサイズや形状、耐久性やバッテリー消費量、ソフトウエア開発、そして時間とコスト。最適なバランスを実現するには難しい選択を迫られることもある。だが、キャッチフレーズが、そうした判断の際の指針となり、「EOS R5」が目指すべき方向性がブレることはなかったという。
「自分たちで考えた『やっぱりキヤノン。やっぱり5』という言葉のおかげで、開発のハードルは上がったかもしれません。ですが、そういう環境でこそキヤノンの開発者は力を発揮するのです」