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ビジネスの重要キーワードを読み解く マーケティングトレンド2022

新型コロナウイルス感染拡大の影響で「新しい生活様式」に対応していく年だった2021年。社会のトレンドや需要においては、大きな転換の年になったといえるだろう。では、2022年はどんなトレンドが予測され、どのようなマーケティングを行っていけばいいのか。ニューノーマル時代のトレンドキーワードと、それにまつわる先進事例、有識者へのインタビューから読み解いていく。

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  • 2022.03.01

ビジネスの重要キーワードを読み解く
マーケティングトレンド2022

ケーススタディ1
ファンベースマーケティングを実践、熱量の高いファンがUGCを生み新たなファンを呼ぶ
ヤッホーブルーイング

ファンを起点にしたマーケティングで、圧倒的な支持を集め成長を続けるヤッホーブルーイング。ターゲットを絞り込んだ個性豊かなクラフトビールを開発し、その魅力や世界観、つくり手の思いをファンと共有。熱量の高いファンが新たなファンを呼ぶという好循環が生まれている。同社の取り組みの中で注目を集めているのが、購買動機につながるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の存在だ。CRM設計・CXデザインユニットの責任者、佐藤 潤さんにその秘訣を聞いた。

写真:株式会社ヤッホーブルーイングの商品
写真: 佐藤潤さん 佐藤潤(さとう じゅん)
株式会社ヤッホーブルーイング
よなよなピースラボ ラボ長
(CRM設計・CXデザインユニット 責任者)

「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」など、個性豊かなクラフトビールを世に送り出しているヤッホーブルーイング。1997年に創業、99年には創業前から続いた地ビールブームが去り、8期連続の赤字を経験した。この苦しい時期にもコアなファンに支えられながら、ECサイトなどで新しい顧客を開拓し、業績が回復。そして、2021年には19期連続の増収を達成した。

これまでファンと歩んできた経験があるからこそ、今も迷うことなくファンベースマーケティングを加速できていると、よなよなピースラボのラボ長を務める佐藤 潤さんは語る。

「大切なのは、ファンのことを深く知り、ファンと共に楽しいビール文化をつくりたいという思いです。その上で、コアなファンの"好き"や"応援したい""盛り上がりたい"という気持ちの熱量を上げていくことが肝になります」

UGCが自然発生するファンベースの活動

こうしたファンを起点にしたマーケティングから派生したのがUGCだ。SNSのコメントや写真、動画など、ユーザーが自らの意思で発信するコンテンツのことで、マスマーケティングにはないリアリティーがある。ファンの投稿を製品ページに組み込んだり、公式アカウントで拡散(リツイートなど)したりすることで訴求効果が高まると注目されている。

「最近では、クチコミを調べてから店頭に向かう消費者が7~8割にも上るといわれており、ユーザー発信のコンテンツの影響力がますます高まっています。そこで前提となるのは、お客さまがその製品や企業を理解し、好きだと思ってくださること。そういった感情がなければUGCは生まれません」

実際に口にした顧客がまさに自分にピッタリのビールだと感じ、共感してほしくてSNSでつぶやく。それを製品ページにひも付けることで、新たな顧客の目に留まる。この好循環が魅力なのだ。

同社の強みは社員一丸となってファンから愛されるブランドづくりに取り組んでいる点。そしてその軸になるのが"徹底的なターゲットの絞り込み"である。

例えば、猫が描かれたパッケージの「水曜日のネコ」は、30代前後のキャリア女性に向けて開発したベルギー発祥のホワイトエールだ。フルーティーな味わいが特徴で、疲れがたまってくる週の半ばの、心と体をふっと緩めたいタイミングで飲んでほしいと願って開発した。

「私たちの製品開発は、究極のトレードオフ(取捨選択)によって成立します。100人中1人に深く刺さるようにターゲットを絞り込み、仕様を決めます。結果、製品もマーケティング施策も深く刺さりやすくなり、熱量の高いファンを増やすことに成功しています」

年2回の調査を基にファンの熱狂度を定量化

図:ファンの熱狂度を高めるための理解・共感ポイント ファンの熱狂度とその購入金額には相関がある。その年間購入金額の差は数万円にも及ぶ。それゆえ、同社の活動のKGIは「熱狂度を高めること(ブランドに対する愛情を深めてもらうこと)」としている

同社のマーケティング施策の起点になるのはファンの声だ。年2回実施するブランドロイヤルティーに関する調査をはじめ、各SNSのユーザー調査、UGCの効果測定などから声を拾い、変化に目を向ける。ファンの"熱狂度"は高まっているか、ファンとの関係性は健全かどうかなどが検討ポイントになる。

このファンの熱狂度を高めるためのポイントは、ブランド(製品)への理解・共感を軸として4つに分かれている。興味の入口に当たるのは、デザインやネーミングなど「ブランドの世界観」。次に、味や香りといった「ブランドの機能的ベネフィット」や、癒やしなどに当たる「ブランドの情緒的ベネフィット」がある。そして「ブランドを支えるつくり手(企業)の価値観」へ理解や共感が進むほど、熱量が高まっていくという。

この熱量の高いファンをいかに増やしていくかに重きを置いているのが、同社のファンベースマーケティングだ。なぜなら、この層の熱狂度が他のファン層にも好影響を及ぼすからだ。

「こうした定期的な調査は、ファンとの関係性をみる健康診断と位置付けています。取り組みに対しファンがどう感じているかを知り、その成果や事業へのインパクトを定量的に示していきます。また、NPS(Net Promoter Score)の推奨意向度も大切な指標です。弊社では数年前から熱狂度×NPSの数値を基に売り上げ予測を立てており、データから戦略を決めることも可能になりました」

10年以上続けるイベントは、ファンのニーズを満たすことを目的に開催している。そこで提供できる同社の価値は"学び""交流""共創"だ。醸造所見学ツアーは"学び"の場、試飲イベントはファン同士、もしくはつくり手と"交流"する場になっている。今では約5000人が集まるまでに成長し、コロナ禍でオンライン開催したところ、約1万人に達した。

そして3つ目に挙げた"共創"の場に当たるイベントは、ファンと共に同社の未来を考え新製品などをつくっていくというものだ。その一つ「よなよな これから会議」は、熱量の高いファンと一緒に中期経営計画を考える場で、経営戦略の共有、理想と現実の課題を伝え、ファンと共に何ができるかを考えていく。

「ファンイベントは、製品の良さやつくり手への理解を促し、いい思い出を持ち帰っていただくための重要な施策です。製品に愛情を持ち続けていただき、ファンの皆さまが弊社のミッションである『ビールに味を!人生に幸せを!』を実感していただけることを目指しています。これからも社員一丸となって常にファンの声に耳を傾け、どう喜んでいただけるかを考え形にしていきます」

※ NPS:アンケートベースで顧客がイメージする企業やブランドに対するロイヤルティーを算出する指標

  • 写真:醸造所見学ツアー 醸造所見学ツアーでは、こだわっている製法の説明や製造現場の見学、クラフトビールの飲み方セミナーなどを開催。製品に親しみを感じてもらう機会であり、学びの場として位置付けている(コロナ禍以前の様子)
  • 画像: 自社ECサイト「よなよなの里」キャプチャ自社ECサイト「よなよなの里」。2021年にスタートしたサブスクリプション(1~2カ月に一度届く定期購入サービス)も好調で、オススメの5種類をお試しで購入することができる「クラフトビールはじめてセット」などがある

* 写真提供はヤッホーブルーイング

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    general remarks
    デジタル活用で消費者の嗜好をつかみ、
    真のニーズを見つける企業が進化する
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    ケーススタディ2
    製品やサービスを通じた顧客体験(UX)を創造し、
    顧客との"絆"を強化する
    「花王」

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