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トップ > 特集 特別対談「勝てる組織」佐々木則夫さん×坂田正弘 > P2
女子サッカーの代表チームを率いてチームを「勝てる組織」に育て上げた佐々木則夫さん。
体格やパワーで劣る日本人女性がなぜ世界に伍して戦うことができるのか。そして、そこで監督やリーダーが果たしている役割とは──。
名将・佐々木監督と、キヤノンマーケティングジャパン代表取締役社長坂田正弘が、「強い組織」のあり方をめぐって熱く語り合った。
坂田
私は、昨年の3月末に社長という立場になってから、強い組織を支えるのはやはり「個」の力であるということをあらためて感じました。個の力を強くするためには、社員に「任せる」ことが必要になります。任せることで個の力を引き出していかなければならない。しかし、任せっぱなしでは放任になってしまいます。「まかせてまかせず」という松下幸之助さんの言葉がありますが、任せた上で、社員がどんな働き方をしているかを遠くから見て、必要があればアドバイスをしていく。そんなスタンスがトップには必要だと考えています。
佐々木
会社であれば社員、スポーツチームであれば選手をトップが常に「見る」。それは非常に重要なことだと私も思いますね。私は比較的大雑把な人間だと周りからは思われていて、おおむねその通りなのですが(笑)、こと選手を「見る」ということに関しては、非常にきめ細やかにしているつもりです。一人ひとりの選手を観察し、適切なタイミングで声を掛け、適切なアドバイスをすることを常に心掛けています。それから、声の掛け方も相手によって変えています。若い選手の場合は、欠点を指摘するよりもまず褒めることを優先します。一方、ベテラン選手であれば、必要なことをできるだけストレートに伝えるようにしています。
坂田
サッカーは、まさしく選手に「任せる」場面が多いスポーツですよね。
佐々木
試合中に指示を出しても、ほとんど聞こえませんからね。ハーフタイムに簡単な指示を出すほかは、選手交代のカードを切るくらいしかわれわれにはできません。ピッチ上の判断の多くは、選手が自ら行わなければならない。それはビジネスと同じではないでしょうか。商談の現場にその都度トップが出て行って指示を出すわけにはいかないですよね。
坂田
そうなんですよ。それゆえに個の力が現場では求められるわけです。必要なのはまず、お客さまに適切なアプローチをし、お客さまのニーズや思いをヒアリングできる力です。もう一つは、問題が起こったときに、それが現場で解決できることなのか、会社に持ち帰って組織的な対応が必要なことなのかを判断する力です。後者はとりわけ、課長や課長代理といった現場の責任者クラスに求められる力です。現場責任者が判断力を磨いておかないと、ちょっとしたほころびが会社を揺るがすような大きな問題になりかねません。
佐々木
サッカーの場合、実際にピッチに立てば、チームの要素は4割5分、個の要素が5割5分だと私は思っています。まさに個の力が求められるわけですが、個の力は選手が自分一人で高められるものではありません。練習の中で問題が見つかったら、選手同士で話し合い、互いにコーチングし合い、工夫し、実戦に生かしてみる。その繰り返しによってそれぞれの個が高まっていくわけです。ですから私は、サッカーの基本は「ソーシャル」だといつも言っています。人と人とのつながりの中で、個を高め、集団的な知性を磨いていく。それが、サッカーの本質だと思います。