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選ばれる企業になるために デジタル時代の顧客深化論

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  • 2016.09.01

選ばれる企業になるために
デジタル時代の顧客深化論

デジタルで「川上」と「川下」をつなぐリンナイ

写真:福本啓史さん 亀島直人さん 「リンナイスタイル」を運営するeビジネス推進室の前室長・福本啓史さん(右)と、この4月から室長となった亀島直人さん。サイト立ち上げからの10年間、2人で力を合わせてサイトを成長させてきた

つくる人がいて、売る人がいて、買う人がいる。買う人と顔を合わせ、声を聞くのは売る人であり、つくる人が買う人とじかに接する機会はほとんどない──。それが物販ビジネスの基本的なあり方である。電子商取引(EC)の仕組みによって、そのあり方を大きく変えたのが、総合熱エネルギー機器メーカーのリンナイだ。

同社がECサイト「リンナイスタイル」を立ち上げて、エンドユーザーとの接点づくりに着手したのはちょうど10年前。「インターネットで何かをやってみなさい」という社長からの指示を受けてサイト立ち上げに乗り出したのが、eビジネス推進室の前室長・福本啓史さんと、現在の室長・亀島直人さんら数人のメンバーだった。そうして立ち上げたサイトのひとつがリンナイスタイルだ。

「このサイトの目的は、エンドユーザーであるお客さまにリンナイブランドの価値を直接伝えることと、交換部品などの商品を直接販売することでした」と福本さんは振り返る。

メーカーがエンドユーザーに商品をじかに売ること、つまり商流の「川上」と「川下」をダイレクトに結ぶことは、一般に禁じ手とされる場合が多い。販売者である流通事業者の利益を損ねることになるからだ。にもかかわらずリンナイスタイルのようなメーカー直販サイトが成立し得たのは、商材を交換部品に限定したことと、トップ直轄の経営企画部で運営する体制をつくったことが大きかった。

「リンナイスタイル」のトップページ。機器の型番から交換部品が探せるなど、ユーザーの使い勝手が徹底的に考えられている

「ガス給湯器などの製品ではなく、あくまでその部品を販売するという方針にしたため、流通事業者の利益を損ねず、むしろ部品交換対応の手間を省くことになりました。また、お客さまと直接つながることがトップの意思であることを社内に示すことによって、サイトの安定的な運営が可能になりました」(福本さん)

こうして生まれたユーザーとの接点が、その後大きく成長していくことになる。サイトオープンの2年後くらいから、販売するアイテムを部品だけではなく、掃除用品やお手入れグッズなどにも広げていった。同時に、主要な取扱製品の主なユーザー層に響く掃除や料理などをテーマにしたコンテンツも拡充した。

特に画期的だったのは、会員システムによって、ユーザーの生の声をくみ上げることに成功したことだ。

「メールマガジンの登録をしてくださったお客さまにアンケートをお願いすると、1回当たり5000件を超える回答が寄せられることも珍しくありません。弊社の製品に関する細かなご意見を書き込んでくださるお客さまも多く、その声が商品の改良や新商品の開発にダイレクトに生かされています」(亀島さん)

  • インターネット限定販売のステンレスコンロ「バーモ」。「リンナイスタイル」に寄せられた顧客の声をもとに開発された製品だ
  • コンロで使えるダッチオーブン。ユーザーの声を反映して、改良を加えている。独自に編集したレシピブックも人気を集めている
  • 仕入れアイテムの中には、ユーザーの声をもとにしてパートナー企業とともに独自開発したものも多い。土鍋は売れ筋商品のひとつ
自社製品に関連するアイテムを他社から仕入れて販売しているのもこのサイトの特徴。特にキッチン・調理用品の人気が高いという

ユーザーのリアルな声は、製品開発者にそのまま届けられる。開発者はその声をもとに製品に磨きをかけ、新製品のアイデアを練っていく。ネット限定で販売しているステンレスコンロ「バーモ」などは、そうして生まれた製品だ。

現在の会員数は約43万人。仕入れ取り扱いアイテムは約8000点。ECでの売り上げは、08年から右肩上がりで伸び続けている。しかし、重要なのは、そういった数字そのものよりも、むしろ、このサイトによって生まれたユーザーとの「関係」であると福本さんは言う。

「製品開発だけでなく、営業戦略や広報戦略など、さまざまな場面にお客さまからのデータや生の声を生かすことができるようになりました。メーカーである私たちは、以前は完全にBtoBの会社でしたが、現在はBtoCの目線でビジネスを考えられるようになっています」

こちらは、型番の調べ方をガイドするページ。機器ごとにどの部分を見れば型番が記載されているか、ひと目で分かるようになっている

ガスコンロなどの製品の買い替えスパンは平均10年ほど。その間、エンドユーザーとの関係を継続していくにはデジタルの力が欠かせない。今後、IoT(モノのインターネット)が普及していけば、利用状況を示すデータが製品から直接得られるようになるだろう。製品の実利用データが集まり、それをこれまで蓄積してきた顧客データと組み合わせることができれば、さらに正確な顧客像が得られるようになる──。それが福本さんや亀島さんが現在抱いているビジョンだ。

「エンドユーザーのお客さまとの関係をいっそう深め、何を提供すればもっと喜んでいただけるかを模索し続ける。それがメーカーである私たちの役目であると考えています」(亀島さん)

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    デジタルを介して「まだ見ぬ顧客」と出会う
    「三郷金属工業」

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