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トップ > 特集 選ばれる企業になるために デジタル時代の顧客深化論 > P2
コミュニケーションツールとしての 「デジタル」の役割がいよいよ大きくなっている。より豊かで、より深く、より継続的な関係を顧客と結ぶために、デジタルでできることとは何か──。デジタルコミュニケーションの最新事例を探る!
自分たちの会社の「顧客」とは誰か──。この問いに明確に答えるのは簡単ではない。事業を拡大し、会社を成長させるには、新しい顧客を開拓し続けなければならない。しかし、その新しい顧客が誰であり、どこにいるかを特定することは常に困難である。
大阪・守口市の三郷金属工業が4年ほど前にぶつかったのは、まさに「自分たちの新しい顧客とは誰か」という問いだった。経営企画グループのリーダー、村上 郁さんは説明する。
「それまでは、大手のナショナルメーカーとの取引が弊社の仕事のほぼ全てでした。その取引が今後減っていくことが明らかになって、私たちは新しいお客さまを開拓しなければならなくなりました。ではどうすればいいか。それが分かる人はいませんでした」
自社商品がなく、店頭などのコミュニケーションチャネルを持たない同社が「まだ見ぬ顧客」との接点をつくる方法として、その時考えられたのはホームページしかなかった。2012年に初めて自社サイトを立ち上げ、アクセスの内容を解析しながら、最適なサイト構成を手探りで探求していくことから始まった。
次第に分かってきたのは、技術情報とFAQへのニーズが高いということだった。それを受けて、薄板溶接をはじめとする独自の技術を紹介するコンテンツを増やし、「よくある質問」を次々に追加した。さらに、「溶接問題解決ブログ」によって、課題に対する解決法を具体的に示していった。
技術力をアピールするには、これまで手掛けてきた事例を紹介するのが最も効果的だが、顧客のインナー情報を含む事例を外に出すことはできない。そこで、生活の中にある身近なものを使って、サンプルをつくり、会社の最大の資産である高い技術力をアピールする工夫をした。
Web専任チームをつくるのではなく、経営企画を中心に、開発、技術、営業など、それぞれの現場担当者が関わってサイトを運営する体制にしたのは、伝えるべき具体的な情報を持っているのはまさしく現場の社員にほかならないからだ。
コンテンツを徐々に拡充し、検索連動型広告なども活用することによって、サイトへのアクセス数は確実に増加していった。しかし、それだけで「顧客が誰か」を特定できるわけではない。
「サイト来訪者との具体的な接点をつくるためには、問い合わせ件数を増やすことが必要だと考えました」(村上さん)
「アルミ」「溶接」といったキーワードで検索した人が、そのテーマに該当するコンテンツを読み、会社情報などを見た上で、電話かメールで問い合わせをする。その見込み顧客を営業担当者が訪問し、要件をヒアリングし、「顧客が誰か」を見極める──。この一連の動線の起点となる見込み顧客との「出会い」を創出しているのがデジタルというわけだ。
顧客訪問の際は、製造現場の社員が営業担当に同行することも多い。自社の技術を求める人に直接会い、生の言葉を聞くことによって、何をすべきかがリアルに分かるからだ。開発グループのリーダー、平永宏二さんも、工場の外に出るようになって視野が開けた一人である。
「お客さまの悩みや思いを直接伺うことがモチベーションにつながっていると実感しています」と話す。
Webからの問い合わせ件数は、過去数年は月に数件程度だったが、現在は20件まで増えている。つまり、月に20件の具体的な「出会い」があるということだ。 この数をキープすることが現在の目標である。そのためには、よく読まれているコンテンツが何かを把握して強化することに加えて、「お客さまの言葉で語ること」が必要であると村上さんは言う。
「技術畑の人間は、どうしても専門用語で語ってしまうところがあります。しかし、それでは弊社の技術力や経験が伝わりません。お客さまの言葉で、いかに分かりやすく説明するかが大事です」
見込み顧客とデジタルで出会う形はこの4年である程度完成した。今後は、見込み顧客を真の顧客へと深化させていくことが大きな課題だ。現在、会社全体の売り上げのおよそ4割は、ホームページ開設後の新規顧客によってもたらされている。この割合を今後どれだけ増やしていけるか。三郷金属工業の挑戦は続く。