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特別対談「役割を為す」宮本慎也さん×坂田正弘

19年間所属した東京ヤクルトスワローズのみならず、日本代表チームのリーダー的存在だった宮本慎也さん。
彼はまた、「職業としての野球」に地道に取り組む一流の仕事人でもあった。
長い現役生活を終えて3年。仕事、組織、リーダーのあり方について、キヤノンマーケティングジャパン代表取締役社長、坂田正弘と語り合った。

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  • 2017.03.01

特別対談「役割を為す」
宮本慎也さん(野球解説者)×坂田正弘(キヤノンマーケティングジャパン株式会社 代表取締役社長)

写真:宮本慎也さん 2012年5月、プロ通算2000安打を達成。当時41歳5カ月での達成は、落合博満氏の41歳4カ月を抜く最年長記録だった。また9月には、史上3人目となる通算400犠打を達成した。2000安打した打者では初となる快挙だった
© 写真:ベースボール・マガジン社
写真:宮本慎也さん 「厳しいプロの世界で長くプレーできたのは「基本的なこと」に飽きなかったからです」

坂田

現役を引退されて丸3年になりますね。生活はずいぶん変わりましたか。

宮本

19年間ずっと緊張してきましたから、それがなくなったのが一番大きな変化ですね。知り合いからも、顔つきがずいぶん変わったと言われます。

坂田

現役時代は「野球は仕事」ということをいつも意識されていたそうですね。

宮本

野球は本来娯楽なのですが、プロとなればそこは厳しい世界です。駄目なら即辞めなければなりません。ファンの皆さんにお金を払って観戦していただかないと成立しないし、それに対していいプレーを見せなければならない。その点でも野球は明確な仕事であるということを、プロに入った当初から強く意識していました。

坂田

私は社長になる前、営業の前線で30年以上働いてきました。現場で長く仕事を続けるのは大変なものです。19年間も現役を続けられた秘訣は何だったのでしょうか。

宮本

プロ野球選手は10年続けられたら成功といわれています。その世界で20年近くプレーできたのは、「基本的なこと」に飽きなかったからだと思います。僕の周りで長く野球を続けられていた人はみんな、基礎的で地道な練習にコツコツ取り組んでいました。僕もそれができていたということだと思います。

野球に限らず、最近は個性が重んじられる傾向がありますが、基本があってこその個性です。若い選手を見ていると、地味なことを飽きずに続けられる人は、わりと少ないんですよ。僕はプロの世界に入ってすぐに、野村克也さんから基本の大切さを教え込まれました。それが良かったんでしょうね。

坂田

われわれの仕事も同じですね。日々の基本的なことをないがしろにする人は成長できないものです。特に営業のような仕事の場合は、最初の10年間にいかに地道にコツコツとスキルを積み重ねることができるかによって、その後の仕事人生が決まると言っても過言ではない。「初めの10年間は会社に貸しをつくるつもりで必死にやれ」と、私はよく部下に言ったものです。

宮本

一方で、長く続けるには変化を受け入れることも必要だと思います。プロの世界に入ってくるのは、十代の頃にエースで4番を打っていたような人ばかりですから、みんな自分のスタイルに強いこだわりを持っています。しかし僕の見てきたところでは、年齢とともにスタイルを変えられない人は駄目になっていくケースが多いですね。

僕が比較的変化に柔軟でいられたのは、それほどすごい選手ではなかったからです。これも野村さんの教えですが、「変化する勇気を持つ」ということをいつも意識していました。

坂田

ショートからサードにコンバートされたこともありましたね。

宮本

本音を言えばずっとショートを守っていたかったし、若い頃は「ショートから外されたら野球を辞めてやる」くらいに思っていましたが、「サードを守れ」と言われるということは、それがその時の僕に対する客観的な評価だったということですから、それを受け入れるしかないと思いました。

野球選手にとっては、チームに必要とされる存在であることが何より重要です。チームの中で自分の役割を果たすために、変化が必要なら変化を受け入れていく。そんな姿勢が大切だと思います

坂田

変化への柔軟な対応は、まさしくビジネスでも最も重要なことの一つです。経済環境はどんどん変化しているし、お客さまのニーズも日々変わっています。それに対応できない企業は、退場していくしかありません。

もちろん、変化は個人にも求められます。昔は一度ある部門に配属されれば、その分野の専門知識さえ磨いていれば良かった。しかし近年は、事業分野の垣根がどんどん低くなってきていて、複数の領域に関係する仕事が増えています。だから、自分の枠に固執せず、専門領域を柔軟に広げられるようでなければならない。まさしく「スタイルを変える」ということです。やはり、スポーツとビジネスには共通点がありますね。

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