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トップ > 特集 未来のカタチが見えてきた 来たる!キャッシュレス社会 > P1
社会のキャッシュレス化が世界的な流れとなっている。今後も増えてくるであろう訪日外国人観光客を見据え、日本でも対応を急いでいる。世界はなぜ急激に現金から電子決済にシフトしているのか。そこにどんなメリットやビジネスチャンスがあるのか。
キャッシュレス社会が描く未来を探る。
世界ではキャッシュレス化の動きはどのように進行しているのだろうか。
また、キャッシュレスの仕組みが整備されないことによって、どのようなリスクが発生するのだろうか。『キャッシュフリー経済』などの著書で知られる野村資本市場研究所 研究理事の淵田康之さんに、キャッシュレス決済のインフラ構築が急がれる理由を聞いた。
日本でクレジットカードが使われるようになったのは1960年代から、交通系、流通系などの電子マネーが使われるようになったのは2000年代からです。そう考えればキャッシュレス決済の歴史は長いともいえますが、現在、世界で進行しているキャッシュレスの動きは、これまでとはまったく質の異なるものであると見るべきです。
その推進役が、スマートフォン(以下、スマホ)などのモバイルです。モバイルを使った個人間送金と、その仕組みを応用した中小規模店舗での決済。それが現在世界で進んでいる「決済革命」の柱です。
これを先進国に先んじて実現したのは、実はケニアでした。クレジットカードや電子マネーの利用率が低いだけでなく、銀行口座すら持たない人が多いケニアですが、モバイル端末は普及していました。そこで、通信会社がショートメールによる個人間送金サービスを導入したところ、それが短期間で広まっていったのです。
ケニアでは、モバイルの使用料金を通信会社の窓口で前払いするシステムになっています。その前払い金を送金にも充てることができるのがこの仕組みの特徴で、相手の電話番号かメールアドレスさえ分かれば、いつでもどこでもお金を送ることができます。
その送金先が店舗になれば、すなわち「支払い」ということになります。店舗で商品を買ったり食事をしたりした後で、その店舗の決済用アドレスにモバイルから送金すれば現金を使う必要がありません。2015年ごろにはモバイルを使ったキャッシュレスの買い物がケニア中に広く普及しました。その後、アドレスをいちいち入力せずにすむQRコードを読み取る仕組みが広がり、現在の「モバイル+QRコード」が主流になりました。
この仕組みが画期的だったのは、銀行口座やクレジットカードといった従来の金融サービスを一切使わずに送金や支払いができる点です。もっとも、その仕組みが普及したのは、金融サービスの利用者が少ないという事情がケニアにあったからでしょう。欧米やアジアでは、ケニアの成功例を踏まえながら、従来の銀行口座、クレジットカード、電子マネーといったサービスを「モバイル+QRコード」と組み合わせて利用していくことを、政府や銀行界が主導して進めています。
キーワードは「ユビキタス」です。ユビキタスとは、「多様なものがつながって、いつでもどこでも同様のサービスを使うことができる」といった意味です。さまざまな企業が提供しているデバイス、インターネットサービス、決済サービスなどが、標準化・共通化した仕組みによってつながる。それによって、モバイル一つで、大規模店舗だけでなく、雑貨屋でも、八百屋でも、ラーメン屋台でも現金なしで支払いができる。それがキャッシュレス化の本質であると私は考えています。
日本にはモバイル決済の標準的な仕組みはまだありません。それは今後、大きなビジネスリスクにつながると考えられています。特にリスクが大きいのが、インバウンドシーンにおいてです。
日本政府は以前、2020年の訪日観光客数の目標を2000万人としていました。しかし、この数年の観光客の伸びは予測を大きく上回り、16年には2400万人まで増えています。そこで政府は、20年に4000万人という当初の倍となる目標値を掲げました。
現在の観光客数の伸び率を見れば、おそらくこの数値は達成されることになるでしょう。しかし、決済という点で見ると、多くの観光客を迎え入れるインフラができていないのが日本の現状です。キャッシュレス決済に慣れた外国人は、現金しか使えないことに大きなストレスを感じ、キャッシュレス決済ができない店舗での購買を控えることになるでしょう。結果として、売り上げの機会損失が数多く発生する可能性があります。
20年に向けて、いかにキャッシュレスの仕組みを整備していくか。それが現在の日本の大きな課題といえるでしょう。
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