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トップ > 特集 未来のカタチが見えてきた 来たる!キャッシュレス社会 > P4
社会のキャッシュレス化が世界的な流れとなっている。今後も増えてくるであろう訪日外国人観光客を見据え、日本でも対応を急いでいる。世界はなぜ急激に現金から電子決済にシフトしているのか。そこにどんなメリットやビジネスチャンスがあるのか。
キャッシュレス社会が描く未来を探る。
現金を持ち歩かずに、簡単に決済ができる。
それがキャッシュレス化のシンプルなメリットだが、もちろん利点はそれだけではない。
家計簿サービスで知られるマネーフォワードの取締役執行役員であり、社内Fintech研究機関の責任者でもある瀧 俊雄さんに、キャッシュレス化がもたらすメリットを分かりやすく解説していただいた。
キャッシュレス化が人々にもたらす最大のメリットは、お金の用途が全て記録されて残ることである。そう私は考えています。現金での支払いは、レシートなどを保管していなければ、何をどこで買ったかを記録することができません。しかし、買い物が全て電子取引になれば、支払い情報が常にデータとして残るので、収支を一元的に管理できるようになります。それによって日々のお金のやりくりがしやすくなるし、節約もできるようになる。それが、消費者にとってのキャッシュレス化の大きな利点です。
一方、店舗側のメリットは、個々の顧客情報と購買行動が結び付く点にあります。誰が、どの商品を、どの時間帯に買ったかが分かる、つまり、顧客IDと商品IDがひも付くので、効果的なCRMを実現することが可能になります。
例えば、毎朝決まった時間に決まった商品を買う人がいれば、その時間にはその商品を棚から切らさないようにする、あるいは、その人だけに向けたスペシャルなクーポンを発行するといったことができるようになるのです。
飲食店の場合なら、優良顧客に対して特別メニューや特別席を用意するといったことも可能になるでしょう。また、席の予約の際に料金の一部を電子マネーなどで前払いしてもらうことで、予約取り消しのリスクを回避することもできます。
さらに、将来的に現金がほとんど使われなくなれば、店舗での人手を介した会計やレジ締めの仕事の必要がなくなります。これは、今後労働人口が減っていく日本において、人手不足に対応する一つの重要な方法と考えられます。もちろん、結果として店舗維持のコストも大幅に下がることになるでしょう。
キャッシュレス化はまた、さまざまな社会コストの削減にもつながります。例えば、人々の収支の透明性が高まれば、税金の徴収をより公平かつスピーディーに行うことが可能になるはずです。徴税に費やしている多大なコストが必要なくなるわけです。
日本は海外諸国と比べてキャッシュレス化が遅れているとしばしば指摘されます。その最大の要因は、現金利用の満足度の高さにおいて、日本が世界でトップクラスにあることです。ほとんどの国民が銀行の口座を持っていて、あらゆる所にATMがあって、治安が良いために現金を持ち歩くリスクも低い。こんな国は世界にはほとんどありません。
とはいえ、そんな日本でもキャッシュレス化は確実に進んでいくでしょう。さまざまなメリットがあるというだけでなく、人々の新しい消費スタイルがキャッシュレスの仕組みを求めるようになっているからです。
例えば、ECサービスの多くでは、商品の「選択」「決済」「デリバリー」が極めて短時間で完了します。それが可能なのは、現金決済のプロセスがないからです。もし現金での支払いが必要であれば、ECのスピード感と利便性は大きく損なわれることになるでしょう。
いいか悪いかは別にして、人々は「欲しいものがすぐに手に入る」ことにすでに慣れてしまっています。その流れを戻すことはできません。この消費スタイルは、今後、物流改革やIoTの普及などによってさらに進化すると考えられます。進化する消費スタイルに決済方法を適合させようとするなら、おのずとキャッシュレス化せざるを得ないのです。
キャッシュレス化が進めば、銀行の在り方も変わっていくでしょう。現在、銀行が選ばれる基準は主に三つ、「ATMが近所にあること」「経営が健全であること」「全国展開していること」です。このうち、一つ目と三つ目の基準はキャッシュレス化によって意味がなくなります。おそらく今後は、顧客にとって有用な情報をどれだけ提供していくことができるかが銀行の価値を決めるようになるのではないでしょうか。