カテゴリーを選択
トップ > 特集 平成時代のマーケティングから次世代のヒントを探る > P1
急速に情報化が進み、消費者ニーズが多様化。平成が幕を閉じようとしている今、有識者に話を聞き、ヒット商品とITの目線で平成を振り返り、次世代につなぐヒントを探る。
平成は、1989年に平成景気とともに始まりました。昭和の終わりに、バブル崩壊の遠因ともいわれる株価の大暴落が起きましたが、平成に入り、94年までは1世帯当たりの平均所得は伸びていました。その後、消費は落ち込むばかりだった印象があるかもしれません。一方でマーケティング業界ではデジタル技術の発達とともに、消費者の購買行動を読んだ販促や、より細かなニーズに応えるための商品開発といったテクニックを使えるようになり、大きく変革した時代でもありました。
象徴的な存在として興味深いのが「お茶飲料」です。お茶飲料はその時代ごとに、各社がターゲティングを巧みに変えながら、成長してきました。今でこそ、水やお茶を当たり前のように購入していますが、かつてはお金を払って買うという習慣があまりありませんでした。そんな中、89年に伊藤園が日本で初めて缶入り緑茶「お〜いお茶」を発売。ターゲットは主にコンビニでお茶と弁当を買う人でした。当時は脂っぽい弁当が多く、それらをすっきりと流し込める飲料として一大人気商品に。その後、96年にペットボトルのリサイクルに対する取り組みが軌道に乗ると、各社が利便性も兼ね備えたペットボトル飲料へと移行。2000年にキリンが生の茶葉の風味を感じさせる「生茶」を発売し、04年にはサントリーが「伊右衛門」を発表しました。こちらは、京都の老舗ブランドとコラボし、歴史とプレミアム感をPRしたことで、それまで「ペットボトルのお茶なんて」と考えていた消費者にも響き、市場拡大につながりました。こうして開発合戦を繰り広げる中、巻き返しを図ったのが、16年発売の「新生茶」。それまでお茶飲料は、男性をターゲットにしたものが多かったのですが、新生茶は徹底して若い女性だけを狙ってヒアリングを行い、パッケージや味わいなど洗練されたイメージ戦略で同年のヒット商品になりました。現代では、消費者の多様化が進んでいるため、より細かなターゲティングがヒットにつながるというマーケティング手法への移り変わりをよく表している事例といえるでしょう。
お茶が庶民的なものからプレミアム感のある商品へと変遷したように、"プレミアム"も景気低迷が続いた平成ならではのキーワードです。96年を境に生産年齢人口は減少に転じ、消費も冷え込み始めました。そこへ「180円スニーカー」や「280円牛丼」など、節約やエコをうたった商品がヒットしますが、節約一辺倒では消費者は飽きてしまう。そして2006年以降、節約疲れを癒やすように台頭したのが「プレミアムビール」や「プレミアムシャンプー」。これらの商品は、"日常にちょっとした特別感を与える"というコンセプトの下、市場をにぎわせるようになります。
その流れに乗ったのが、ローソンが10年に発売した「プレミアムロールケーキ」です。「コンビニスイーツはクリームがまずい」という概念を覆す商品を開発。このヒット以降、より顧客に近い位置で膨大な顧客データを持ったコンビニが、ヒットの仕掛け人として頭角を現すようになりました。メーカーから流通へのプレーヤーチェンジも、平成の動向として見逃せません。