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トップ > 特集 特別対談「創像する力」弘兼憲史さん×坂田正弘 > P2
会社員生活を経て漫画家デビューし、40年以上第一線で活躍する弘兼憲史さん。代表作の『島耕作』シリーズは昨年、連載開始から35周年を迎えた。長年にわたり世の中に支持され続ける作品の裏には、どんな秘密があるのか。また、形のないモノ(像)を創出する上で大切な要素は何なのか。キヤノンマーケティングジャパン代表取締役社長 坂田正弘と熱く語り合った。
坂田
漫画家として第一線でご活躍を続けていく上で、ポリシーにしてきたことなどはあるのでしょうか。
弘兼
一つは、絶対に締め切りを守ることです。これは大学卒業後3年間勤めた会社員時代にたたき込まれた仕事の基本ですが、仕事とは必ず相手があるもの。ですから納期を厳守することは自分の中での最低限のルールにしてきました。「締め切りまでに仕上げるには、1日当たり8ページ描く」といったスケジュールを立て、どんなに忙しかろうが「三日徹夜してでも締め切りを守る」と徹底してきました。もう一つは、情報収集を怠らないことですね。特に『島耕作』シリーズの場合は、リアリティーを追求したエンターテインメント性だけでなく、情報性を高めることも重視してきました。
坂田
納得です。作品を読むと、「これは現実の一般的な企業でも毎日のように起きている」とうなずけることが多いですし、ストーリーの前提となるビジネスの動向にも違和感がありません。
弘兼
現在進行形の国内外の社会情勢を作品に反映するには、常に最新の情報をキャッチしていなければいけません。日々のニュースチェックはもちろん、専門的な経済誌を読んだり、気になるキーワードはメモをして担当の編集者に資料を集めてもらったりしています。ありがたいことに、情報収集に協力してくださる方はたくさん居て、ネットワークを駆使しながら、ビジネスの当事者でしか知り得ない旬の情報を集められています。
坂田
そういった地道なリサーチが、唯一無二の作品の魅力になっているのですね。われわれが事業戦略を練る上でも同様に、情報収集は重要です。
弘兼
今の時代、情報は膨大にありますから、いかに取捨選択するかも大切になりますよね。坂田社長はどのように情報と向き合っているのですか。
坂田
実は、私は"メモ魔"でして、事業に関連しそうな情報を得ると、すぐにメモ書きをしてデスクの見えやすい位置に貼っておくのが習慣なんです。常に視界に入る場所にキーワードを並べておくことで意識付けができますし、時々見返して整理することで、優先順位を判断する材料にもなります。
弘兼
私もメモ帳を持ち歩いて、何でも書き留めていました。不思議なもので、自分で書いた文字というのは、記憶に深く刻まれるんですよね。最近は、頭の中に情報の引き出しが整理されてきて、「あれとこれを組み合わせたら、こういうストーリーができるかな」と構成できるようになってきました。
坂田
情報の見方もだんだん変化してきたように感じます。やはり社長という立場になってからは、より視座を高く、会社全体のバランスの中で情報を位置付けるようになりました。会社の中にはさまざまな事業部があり、政治経済の動向一つが与える影響は、事業部によっても異なります。その違いを整理しながら俯瞰し、会社全体における影響度はどの程度なのか、会社として打つべき手は何なのか、そんな視点で考えることが多くなりました。
弘兼
なるほど。会社組織というのは、階層が上がるごとに事象を捉える観点が変わっていくということですね。
坂田
はい。ところで、先ほど作品のリアリティーを追求する上で、入念なリサーチを行っているというお話がありました。そのリサーチ結果をどのように作品に反映していらっしゃるのですか。
弘兼
まず、漫画はフィクションですが、得られた情報は極力忠実に反映しています。これまで企業の社長にも数十人、取材をしてきましたが、やはり実際にビジネスの最前線で戦う方々の言葉には説得力があります。おっしゃった言葉をそのままセリフとして使わせていただくことも多いですね。また、作品の舞台を海外にする場合は必ず現地取材に行くのですが、その時はカメラを肌身離さず持って、街の風景を隅々まで撮っています。
坂田
どういうシーンを撮るんですか。
弘兼
いわゆる観光写真ではなく、街角のポストや交番、警官の服装まで撮っています。細部の描写が作品の世界観を決めると思うので、実際の風景を忠実に再現できるよう、写真を縮小コピーして漫画のコマのサイズに合わせ、トレースして描き起こしています。場所によっては、現地の担当者のご好意で通常は見られない所まで取材させてもらっています。報道写真では見られないシーンまで描けていることもあるので、ある意味読者はおトクですよ(笑)。そこで、いつもリサーチをしながら感じるのは、ビジネス環境は加速度的に激変しているということです。
坂田
おっしゃる通りです。社長就任から4年を迎えますが、ここ1年ほどで「モノよりコト消費」の傾向はより強くなったと感じます。モノが売れなくなったといわれて久しく、ある市場でトップシェアを獲得しても、商品自体の差別化が非常に難しくなっています。近年は特にBtoBの事案も増えており、その中で私たちが今やるべきことは何かと追求したときに出てくる答えは、やはり「お客さまから見て価値のあるソリューションを提供できる真のパートナーになる」という姿勢です。これは「顧客主語」という言葉で、社内で共有しているポリシーでもあります。