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特別対談「創像する力」弘兼憲史さん×坂田正弘

会社員生活を経て漫画家デビューし、40年以上第一線で活躍する弘兼憲史さん。代表作の『島耕作』シリーズは昨年、連載開始から35周年を迎えた。長年にわたり世の中に支持され続ける作品の裏には、どんな秘密があるのか。また、形のないモノ(像)を創出する上で大切な要素は何なのか。キヤノンマーケティングジャパン代表取締役社長 坂田正弘と熱く語り合った。

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  • 2019.03.01

特別対談「創像する力」
弘兼憲史さん(漫画家)×坂田正弘(キヤノンマーケティングジャパン株式会社 代表取締役社長)

得意を伸ばし、手本を示すリーダーシップ

弘兼

ところで、坂田社長はずっとキヤノンマーケティングジャパンでキャリアを積まれてきたのでしょうか。

坂田

はい。私は新卒で当社に入社して以来ずっと営業畑を歩んできました。お客さまのご要望にどう応えようか、日夜頑張ってきましたら、いつの間にか今の役職に就いていたという感覚です。

弘兼

現場で着実に実績を積み上げていった結果、トップへの階段を上っていた。なんだか島耕作に似ていますね(笑)

坂田

とんでもない。私は島耕作さんのように、さまざまなステージで新しい分野を切り拓くようなドラマチックな経験はしていませんから。ただ、決して言葉は多くないものの仲間の信頼を集める島さんのリーダーシップは、目標にしています。弘兼さんご自身が考える理想のリーダーシップとはどういうものですか。

弘兼

私も小さなプロダクションを経営する社長でもあるので、リーダーシップについては日々模索する立場なんです。今は10人ほどのスタッフが働いてくれていますが、やはり重要なのは「長所を伸ばす」育成法ではないでしょうか。例えば、何を描かせてもいまひとつだけれども、唯一、自動車はうまく描けるA君がいるとします。この時に、できない部分を叱って「もっと木や建物をうまく描けるように練習しろ」と言ってもなかなか上達しない。そうではなく、「君は社内で一番、車を描くのがうまいんだからメカ系は全部頼むよ」と、得意な部分を任せるといいんです。

坂田

本人のやる気を引き出すんですね。

弘兼

そうですね。得意な分野で力を発揮できるとものすごくやる気が出るので、結果として、一緒に仕事をしている他のスタッフのモチベーションも刺激するんです。すると全体の技術力向上につながり、会社のアウトプットの質が底上げされていく。さらには、いつの間にかA君の木や建物を描く技術まで上達しているんですよ。この方式がいいのだと気付いてからは、長所を伸ばす育成法を続けていますね。特に今の若い人たちには合っているんじゃないでしょうか。

坂田

『島耕作』を読んでいると、リーダーにもさまざまなスタイルがあるのだと気付かされます。

弘兼

業種や会社の規模によっても違うかもしれませんし、リーダー自身の個性によっても大きく変わります。私もいろいろなリーダー像を描いてきましたが、優れたリーダーに共通しているのは、「隗(かい)より始めよ」の姿勢だと思います。まず、トップに立つ者が手本となる行動を示し、組織全体の方針を伝えていく。坂田社長はご自身がどんなタイプのリーダーだと思われていますか。

坂田

自分ではなかなか断言しにくいのですが、最近強く意識しているのは「簡潔な言葉でビジョンを伝える」ということです。先ほど"メモ魔"と申し上げた通り、私は本来かなり細かいタイプの人間なのですが、あまりたくさんのことを言っても相手の心には残らないだろうと。枝葉を削ぎ落とし、極力シンプルな言葉だけで印象付けて伝えることを心掛けています。その方が、役員から現場まであらゆるステージに立つ社員1万7000人の一人ひとりが、個々に解釈を広げて行動に反映できると考えているからです。

弘兼

確かに、人間は一度に多くのことを言われても理解できませんからね。

坂田

弘兼さんがおっしゃった「隗より始めよ」という点も非常に共感します。

弘兼

島耕作も決して口数多く語るわけではなく、声が大きいタイプでもない。それは、彼がサラリーマン社長だからです。サラリーマン社長はオーナー社長のように大勝負に出ることはなかなかできないもの。だから、皆の英知を集めて決断し責任を引き受けるという方法で組織を率いるんです。強力なカリスマ性ではなく、皆の意見を広く聞き、方針を決める力が評価され、トップまで上り詰めたのが島耕作なんです。この「英知を集める」というスローガンは、最近いろんな会社が掲げるようになっていますね。

坂田

まさに私が目指したいリーダー像ですね。

弘兼

実際のサラリーマン社長の方々にお話を聞くと、「最初から社長になろうと思っていた」という人は案外少ないです。昇進欲があった人よりも、「地道にコツコツやってきて、いつの間にか押し上げられていた」と話す方が多い。

坂田

私もそういうタイプだと思います。打診されて意外に感じたほどでしたが、一方で、私に期待されている役割というのは理解できました。つまり、会社を推進する流れを、お客さまのニーズに合わせて変えながら、新たな挑戦をしていく。われわれが長らく主力商品としてきたカメラや複写機といった分野をさらに磨いていくのはもちろん、これからはセキュリティやITインフラ、クラウドサービスといったITソリューション分野でよりお役に立てる企業へと成長していかなければなりません。私はBtoB分野で長くキャリアを積み、その時々のお客さまの課題解決に携わってきました。その経験が今後のお客さまとのパートナーシップを築く上で生かせるものだと確信しています。当社は昨年、創業50周年を迎えたこともあり、"第2の創業"というステージに立つ気持ちで挑んでいきます。最後に、弘兼さんのこれからの「チャレンジ」についても教えていただけますか。

弘兼

とにかく、皆さんに楽しんでいただける漫画を描き続けたい、ということに尽きます。出版社から「もう描かないでくれ」と言われるまでは、自分でゴールを定めずに挑みたいですね。島耕作は会長になって6年ほどたちますが、法的には定年もないので、100歳まで働くかもしれません。ただ、私と同い年に設定しているので、私が入院でもしたときには、『入院 島耕作』を描きましょうか(笑)

坂田

それはそれで興味深いですね。引き続き作品で描かれるビジネスの最新動向も、さらにアップデートされていくのだろうと期待しています。

弘兼

会長になってからの島耕作の役割は、経済団体活動を通じて日本の社会を良くすることで、これまで農業や漁業、介護などのテーマを取り上げてきました。今描いているのは、岩手県で実際に誘致しようとしている「国際リニアコライダー計画」です。半歩先の未来を描いていくことも、私の役割だと思っています。

坂田

技術の進化をどのように生かして世の中をつくっていくのか。メーカーとしても非常に重要なテーマだと思います。これからも豊かな学びと感動をいただける作品を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

  • 写真: 現地取材
    ©弘兼憲史/講談社
    作中で舞台にする場所には、必ず取材に行く弘兼さん。『会長 島耕作』で島耕作が日本酒造りに挑むエピソードでは、故郷の山口県岩国市の旭酒造を取材してモデルに。2018年の西日本豪雨で同酒造が被災した際にはラベルを寄稿し、復興支援を目的にした商品『獺祭 島耕作』の販売も支援した
  • 写真: 弘兼憲史さん×坂田正弘
弘兼 憲史(ひろかね けんし)
1947年山口県生まれ。大学卒業後に3年間のサラリーマン生活を経て漫画家に転身し、74年に『風薫る』でデビュー。その後、『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、『課長 島耕作』で第15回講談社漫画賞、『黄昏流星群』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞など、数々の賞を受賞。2007年には紫綬褒章を受章する。代表作の『島耕作』シリーズは、18年に連載35周年を迎え、現在は『会長 島耕作』が好評連載中。
坂田 正弘(さかた まさひろ)
1953年東京都生まれ。77年キヤノン販売(現・キヤノンマーケティングジャパン)に入社。大手法人直販部門を経て、2002年に金融営業本部長に就任。早くから「ソリューション型ビジネス」を展開することに注力し、グループ間の連携等に努める。その後、03年ビジネスソリューションカンパニーMA販売事業部長、06年取締役、13年専務執行役員、ビジネスソリューションカンパニープレジデントを経て、15年3月より現職。
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