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SDGsがビジネスを変える!

2015年の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」。近年、この言葉が企業経営のキーワードとして急速に浸透している。今、日本企業がSDGsに取り組むメリットとは何なのか。また、SDGsを効果的に導入するポイントはどこにあるのか。いち早くSDGsに取り組んできたフロントランナーに、その核心を尋ねた。

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  • 2020.06.24

SDGsがビジネスを変える!

general remarks日本ならではのSDGsでビジネスチャンスを生み出せ

「貧困」「エネルギー」「気候変動」など、2030年までに各国が取り組むべき17の目標と169のターゲットを掲げた「SDGs」。世界中の企業が今、その担い手となることを求められている。SDGsへの取り組みが必須となりつつある今、具体的な取り組み方に悩む企業が知っておきたいことを、一橋大学大学院 経営管理研究科 客員教授の名和高司さんに聞いた。

なぜ今、SDGsへの取り組みが急務なのか

写真: 名和高司さん 名和 高司(なわ たかし)
一橋大学大学院 経営管理研究科
客員教授
1980年東京大学法学部卒業後、ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事の機械グループ(東京、ニューヨーク)に約10年間勤めた後、マッキンゼーのディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年6月より現職。

20世紀は、消費文化が牽引する「欲望経済」の時代でした。しかし、その価値観を引きずったままでは世界が立ち行かなくなるという危機感が急速に広がっています。例えば、2050年までに地球の人口は100億にまで増えると予測されていますが、そうなったときに全員が現在のアメリカ人の平均的な生活レベルを維持しようと思うと、地球5個分の資源が必要になる計算になります。

かといって、これから成長しようという新興国の人々に「成長を諦めろ」というのも酷な話です。これからの時代、ある意味"正しく"成長しながら、健全な環境を維持し、誰もが幸福な暮らしを実現するにはどうすればいいのか――この問いに向き合うことが、今待ったなしで求められているのです。

SDGsは、2050年を見据えた"中間点"としての2030年を期限とした目標です。今から10年のうちに大きく舵を切り直さないと、2050年を待たずに取り返しのつかないことになるという発想が根底にあり、これに対しミレニアル世代が強い共感を寄せています。

ミレニアル世代とは今の30代であり、すでに組織の中堅クラスに入ってきている人々です。その彼らが、SDGs的な価値観を世界中で共有し始めました。これが企業の中でもしっかり共有されていないと、彼らが"反乱"を起こします。例えばGoogleのような大企業でも、政府のためにドローンを開発するという経営判断に対して「自分たちの手で監視社会をつくるつもりなのか」と社内から突き上げがきたりします。こうした声に経営陣がきちんと向き合わないと、組織が内側から崩れてしまう恐れがあります。

SDGsができるまで

画像:SDGsができるまで

資本主義経済の弊害が明らかになり始めたのが、20世紀の後半。2000年代になり、SDGsの前身となったMDGs(ミレニアム開発目標)の実施や企業の環境・社会・ガバナンスに対する取り組みを考慮するESG投資の広がりを受けて、SDGsが誕生した。

大手より中小企業の方がSDGsに強い理由

SDGsの重要なポイントは「ビジネスで社会貢献を行う」ということです。例えば、台風・地震のような災害などに対しても、土日を使ってボランティアをするというような話ではなく、あくまで「ウイークデーの本業の中で貢献できることはないか?」と考えるのが、SDGsの発想です。そういった意味では、従来「CSR(企業の社会的責任)」の観点から行われてきた社会貢献とは、全くの別物といえます。

企業がSDGsに取り組むにあたっては、あくまでも利益が回らなくてはなりません。SDGsへの取り組みを本業のど真ん中に位置づけ、そこから得た利益を再投資することによって、世の中に対する影響を拡大していく。その循環を維持しながら、社会を変えていくイメージです。

ここでポイントになるのが、自分たちのビジネスがSDGsの目標にどう貢献できるのかという「ストーリー」をいかに語るかということです。これからは「共感経済」の時代。社会の共感を呼ぶストーリーを語ることができれば、その取り組みは自然と世に拡散されていき、結果として企業の価値と発信力は大きく高まっていくでしょう。

そのカギとなるのが、「わくわく」「ならでは」「できる」という、三つの合言葉。

一つ目の「わくわく」は、自分たちの志をどこまで"ぶっ飛んだ"レベルで語れるか。地味な話では、社会はもとより社員の共感を得ることもかないません。

二つ目は、その会社「ならでは」のストーリーを描けるかどうか。SDGsの「17の目標」をベースに考えると、どうしても他の企業と似たような話になりがちなので、いかに差別化を図り、競争力を生み出すようなストーリーを描けるかどうかがポイントになります。

三つ目は、そのストーリーが単なる夢物語ではなく、現実的に「できる」と思えるようなものであること。ストーリーが壮大であるほど、一足飛びに実現することは不可能ですから、"小さく産んで大きく育てる"道筋がイメージできるようでなくてはなりません。

こうしたストーリーを語る上で、私は大企業よりも中小企業にアドバンテージがあると考えています。大企業の場合、多岐にわたる事業が絡むため、ストーリーが複雑になりがち。その点、中小企業の多くは事業内容がシンプルなので、純粋なストーリーを描くことができますし、持ち味も限定されているため、「ならでは」のストーリーを打ち出しやすいのです。

画像:SDGsの取り組みステップ

SDGsの取り組みステップ
SDGsの取り組み方を5つのステップに分けて解説した「SDGコンパス」。SDGsに取り組むにあたって大事なのは、まずは社員全員がSDGsを理解すること。社員がSDGsを理解し、それぞれが自分事化して業務に取り組むことが最初の一歩となる。

今こそ「日本型SDGs」を発信するチャンス

SDGsからどのようなストーリーをつくり上げるかは、経営者の腕の見せどころ。その際、経営者の志をただ語ればいいというものではなく、社員も巻き込んで、ワークショップのような形で「自分たちは何をしたいんだろう?」と問い直すアプローチが重要です。特に、新しく入ってきた社員は「この会社でこんなことをやりたい」という強い想いを持っています。彼らの声に耳を傾け、会社の未来に求めることを掘り下げれば、さらに力強いストーリーが生まれるでしょう。

SDGsの17の目標は、会社が本業を通じてどのように社会貢献できるのかを考えるヒントにはなりますが、「17の中のいくつに取り組んでいるから偉い」というようなものではありません。むしろ、たくさん並べすぎると主張がなくなるので、一点突破で大いに結構です。

もっと言えば、17の目標にとらわれる必要すらありません。実際、17の目標にとらわれないビジョンを掲げている企業は少なくありません。三菱ケミカルホールディングスは「KAITEKI」というオリジナルのコンセプトを掲げていますし、花王は昨年から「Kirei Lifestyle Plan」という表現を採用しています。「快適」も「きれい」も、単純に「クリーン」や「ビューティフル」という英語には置き換えられない、多義的な日本語です。それを彼らは、日本発の新しい価値観として世界に発信しようとしているわけです。

こうした日本ならではのSDGsは大きな可能性を秘めています。例えば、日本は世界で2番目に無形文化遺産の登録件数が多い国です。各地に眠っている伝統工芸などを掘り起こし、現代的な価値観にアップデートして発信すれば「過去のものを未来につなげる」というストーリーに乗せることもできます。これから開催される東京2020大会や2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)は、新しい日本型SDGsを世界にデビューさせるまたとない好機。そこに向けて、今から独自のストーリーをつくっていただきたいと思います。

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