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SDGsがビジネスを変える!

2015年の国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」。近年、この言葉が企業経営のキーワードとして急速に浸透している。今、日本企業がSDGsに取り組むメリットとは何なのか。また、SDGsを効果的に導入するポイントはどこにあるのか。いち早くSDGsに取り組んできたフロントランナーに、その核心を尋ねた。

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  • 2020.06.24

SDGsがビジネスを変える!

ケーススタディ1
すべての人が「しあわせ」を感じられる、インクルーシブで豊かな社会を実現する
丸井グループ

「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」。このビジョンの下、SDGsの理念に呼応した独自のサステナビリティ経営を推進し、国内外で高い評価を得ている丸井グループ。その取り組みを、サステナビリティ部の村上奈歩さんと永井英男さんに聞いた。

顧客との"共創"を通じてあらゆるニーズに応える

新宿マルイ 本館 外観 インクルーシブなモノづくりの一環として誕生した「ラクチンきれいシューズ」 インクルーシブなモノづくりの一環として誕生した「ラクチンきれいシューズ」。一般的なサイズ展開は22.5~24.5cmで、顧客カバー率は約70%だが、同商品は19.5~27cmまで揃えることで、ほぼ100%のカバー率を達成している

丸井グループのサステナビリティ経営では、"誰も置き去りにしない"を意味する「インクルージョン(包摂)」というキーワードを掲げている。この考え方を通じて顧客や社員、パートナー企業などのすべてのステークホルダーの利益が重なり合う領域を広げていくことを、経営戦略の要にしている。

そのための取り組みの一つが「インクルーシブなモノづくりと店づくり」だ。多様化する顧客のニーズを、ひとつとして取りこぼさないことを目指している。

「"信用はお客さまと共につくるもの"が、創業時から続く丸井グループの共創理念。商品やサービスにもお客さまの声を直接反映することを大切にしています。例えば、『自分にぴったり合うサイズのシューズがない』という声から、19.5~27cmまでの幅広いサイズに対応するレディスシューズを開発しました。最近では、高齢者や体の不自由な方でも着脱しやすく、長時間着ていても疲れないユニバーサルデザインのパンツも発売。これも、車いすを利用するお客さまの声を参考にしてつくったものです」(村上さん)

前出のシューズは、発売以来累計で560万足を売り上げるヒット商品へと成長。売れ筋以外のサイズも軽視しない方針が実を結んだ。

同様に、店づくりでも顧客の生の声を重視し、顧客との座談会(お客さま企画会議)を実施している。時にはテナントなどの取引先企業も交えた三者面談形式で、双方にメリットがある新しいサービスをつくり上げているという。

「例えば、神奈川県川崎市のマルイファミリー溝口で新しいフードホールをオープンする際、お客さまから『ラーメンのハーフサイズがほしい』というご要望をいただきました。テナントさまからは、半量になることで売り上げが減るのではないかという懸念の声も上がりましたが、お客さまと対話しながらハーフサイズを含むさまざまなアレンジメニューを採用。すると、これまで1品のみの注文だったところが1.5品になるなどのケースが増え、双方に喜んでいただける結果になったのです。こうした気づきを他店舗とも共有しながら、より満足度の高い店づくりに努めています」(村上さん)

その他、一人客や仕事帰りのビジネスパーソンなど、これまでとは異なる層にフードホールの利用を促すメニューやフロアづくりにも注力。こうした施策が功を奏し、同店では従来よりも300万人多い、年間1700万人の来店者数を見込んでいるという。

大胆なエネルギー戦略は"将来への投資"

丸井グループでは「エコロジカル・インクルージョン」という重点テーマも掲げ、環境保護に対しても積極的な取り組みを見せている。

「グループ全体で排出する温室効果ガスの8割は電力によるものです。そこで、気候変動に対して当社が最も貢献できる部分は省エネ化だと考え、以前から省エネ設備の導入などに努めてきました。現在は電力の中身そのものを変えていこうと『2030年までに100%再生可能エネルギーに置き換える』という目標を立てています。昨年度までに23%を達成し、今年度には50%を達成すべく、急ピッチで置き換え作業を進めています」(永井さん)

再生可能エネルギーの積極的な調達は、コストアップにつながる。しかし、それを「将来への投資」だと捉えるのが同社の考え。大胆な改革に踏み込めるのは、サステナビリティ戦略を会社の最上位概念と位置づけ、全社が同じ方向を向いているからこそだ。

新しいことに挑戦しやすい社内カルチャーを育む

こうした意欲的な取り組みの数々は、丸井グループが時間をかけてつくり上げてきた「イノベーションが生まれやすい環境」が後押ししているという。

「リーマンショック後の危機感の中で、社員一人ひとりがもっとオーナーシップマインドを持って仕事に取り組むべきだという想いから、『手挙げ制度』を導入しました。これは研修やグループ横断のプロジェクトには、自発的に挙手した社員だけが参加できるというものです。また、個人の成長と多様性を促す目的で『職種変更』という人事制度も採用しています。こちらは、共通の人事制度の下、グループ会社間を異動して、さまざまな職種を経験するものです。これらの仕組みを通じ、社内で新たなチャレンジへの意欲が向上した社員が増える中で、サステナビリティ戦略も浸透してきたのです」(村上さん)

新しい挑戦に対して、社員が"やらされ感"を抱くのではなく、「わくわく」しながら前向きに取り組めることが、SDGsやESGへの取り組みを成功させるポイントだといえるだろう。

「今後、力を入れていきたいのは、サステナビリティ経営について社員から経営陣に提言できる場を充実させることです。その一環として、グループ横断のイニシアチブを5つほど立ち上げました。それぞれ『廃棄物ゼロの実現』や『新しい共働きの形(共働き2.0)』、『人生100年時代の働き方』など、まさに今考えるべき新しい課題を掲げています。これらに対して、経営陣と社員がこれまで以上に頻繁に対話を行いながら、経営課題として共に解決に取り組むことを、しっかり実践していきたいですね」(村上さん)

画像:お客さま企画会議

テーマとなる商品を設定し、少人数のグループでざっくばらんな意見交換を行う「お客さま企画会議」は、各店舗で随時実施。マルイファミリー溝口では、2017年から500回以上開催され、2700人以上の顧客、38社の取引先が参加した

画像:HARA8(はらっぱ)

マルイファミリー溝口にオープンしたフードホール「HARA8(はらっぱ)」。「お客さま企画会議」での意見を反映し、ハーフサイズのほか、アレンジできるメニューやトッピングなども採用。客層を広げている

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    日本ならではのSDGsで
    ビジネスチャンスを生み出せ
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    次世代の"当事者"たちの考えを
    経営に反映させる
    「ユーグレナ」

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