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不確実な時代だからこそ、意思を持って勝ち抜く ニューノーマル時代のストラテジー

新型コロナウイルス感染症の影響により、今後は「ニューノーマル(新常態)」と呼ばれる時代の到来が叫ばれている。さまざまなことが"不確実"とされるこの時代において、どのような戦略を立て、ビジネスチャンスをつかんでいくべきなのか。企業やビジネスパーソンがコロナ禍をポジティブに考え、勝ち抜いていくためのヒントを探る。

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  • 2020.12.01

不確実な時代だからこそ、意思を持って勝ち抜く
ニューノーマル時代のストラテジー

general remarks不確実で正解のない時代だからこそ、ビッグチャンスが眠っている

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、社会環境は大きく変わりつつある。コロナ禍の後にやって来るとされる"ニューノーマル(新常態)時代"は、大きなリスクと同時に、ビジネスチャンスをもたらすものでもあるはずだ。このような時代に企業はどういった戦略を取るべきなのか、早稲田大学ビジネススクール 教授の入山章栄さんに聞いた。

"しがらみ"を断ち切れる企業こそが生き残る

写真: 入山章栄さん 「企業も個人も、正解を求めず自らの意思をきちんと持って未来のビジョンを描くことが大切です」 入山 章栄(いりやま あきえ)
早稲田大学ビジネススクール 教授
1996年慶應義塾大学経済学部卒業。98年同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で勤務後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院にて博士号を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授、早稲田大学ビジネススクール准教授を経て、19年より現職。

コロナ禍は企業にとっても厳しいものですが、実はコロナ禍前後で、企業が直面する課題はほとんど変わっていません。昨今の企業を取り巻く環境はもともと不確実性が高く、そんな時代ゆえ企業は絶えず変化しイノベーションを起こさなければ、存続が危ぶまれる状況でした。

ただ、コロナ禍によってより不確実性が増したため、本当に先が見えなくなってしまった。こんな時代に「正解」などありません。だからこそ、イノベーションを起こす力がますます必要となり、新たな価値を生み出す重要性がさらに高まっていることは間違いありません。

コロナ禍の影響はネガティブに考えがちですが、もっとポジティブに捉えるべきでしょう。なぜなら、今こそ、日本企業が平成の30年間に変革できなかった最大の理由である、「経路依存性」を断ち切れる絶好のチャンスだからです。

経路依存性とは、過去に行った決断が、もはや現状と合致しなくなっているにもかかわらず、制約を及ぼし続けることです。企業は多様な仕組みがかみ合って成立しています。効率的にかみ合っているからこそ回っていく面も確かにあるのですが、逆にいえばどこか一つの要素だけ変えようとしても他の部分が抵抗となり、なかなか変えることができません。ダイバーシティ経営を推進するに当たり、新卒一括採用や評価制度などが壁となり、なかなか進まないのもその一例です。

この経路依存性が変革を阻害したため、平成は"失われた30年"になってしまった。その点、働き方改革を背景に、長年浸透しなかったリモートワークなどの仕組みを、半ば強制的に導入せざるを得なかったコロナ禍は、全てを一気に変えられる奇跡的な大チャンスなのです。

2021年以降は大副業・転職時代になり、従来の働き方や、新卒一括採用、終身雇用、評価制度などあらゆるものが急速に変わっていくはずです。経路依存性という"しがらみ"を解き放ち、変革できる企業こそが、ニューノーマル時代に新たな価値を生み出し、生き残ることができるのです。

トップの決断と効果的な発信が、社員の「腹落ち」を生む

不確実性の高い時代に企業を変える原動力となるのは、やはりトップです。経営者のリーダーシップがこれまで以上に重要になっていきます。現状で変革が進んでいる企業は、コロナ禍前からリーダーシップが有効に機能しており、コロナ禍をむしろ成長のチャンスと捉えています。例えば資生堂は、ライバル会社を含め外部から大量の人材を引き入れて組織変革を実行。さらに、23年までに広告費の90%以上をデジタルにシフトするという、思い切った改革を発表しました。また、東芝も経営危機時に外部から招聘したトップが、サイバーフィジカルシステム(CPS)の考え方を前面に出した、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとしています。

この2社は世界的な大企業ですが、トップがなすべきこと自体は、大企業も中小企業も変わりません。未来を見つめて自社の存在意義を明らかにし、進む方向性のビジョンを示して社員に「腹落ち」させるのが、経営者の役割なのです。

ここで見つめる未来とは、5年や10年ではなく、30年くらい先の未来に設定すべきです。というのも、10年程度のビジョンを掲げた場合、現状の延長線上で捉えようとして、自社の既存リソースを基に未来を「当てにいく」姿勢になりがちです。そうすると、ビジョンが想像の範囲内でとどまってしまう可能性が高く、結果的にイノベーションは起こせません。

正解などない不確実な時代では、当てにいくのではなく、まず自分たちが何をしたいのか、30年後にどう在りたいのかを考え、自ら未来を「つくっていく」べきです。そして、その長期ビジョンに対し、社員が共感し、腹落ちしてもらうことが重要になります。

ニューノーマル時代の社員マネジメントは、「管理型」から「共感型」へと急速に変化すると予想されます。リモートワークが進むと、従来の管理型マネジメントでは労務管理が難しくなりますし、社員のエンゲージメントも落ちていきます。変化とイノベーションには社員のエンゲージメントが必須ですから、それを高めるためにも、会社の存在意義や長期的方向性への共感を生み、腹落ちを促すマネジメントが必要になるわけです。そして、社員の「共感」と「腹落ち」を生むために最も重要な役割を果たすものこそが、トップのリーダーシップであり、メッセージの発信なのです。

※サイバーフィジカルシステム(CPS):現実世界の情報をコンピューターの仮想空間(サイバー)に取り込み、分析を行った上でそれをフィードバックして、現実世界における最適解を導き出すシステム

新時代のキーワードは「デジタル」と「ブランド」

ニューノーマル時代には大きなビジネスチャンスが眠っています。それをつかむためのキーワードは二つあります。

一つは「デジタル」。これは、企業が真っ先に取り組むべきことです。日本企業はデジタル競争の1回戦には敗れましたが、それはスマートフォンという全く新しい更地で戦ったからで、そこではしがらみのないGAFAに優位性がありました。しかし、これからのデジタル競争は、IoTをめぐる2回戦に突入します。IoTはモノとモノがインターネットで直接つながることですから、ベースとなるモノの重要性が高まる。モノに強い日本にもチャンスが出てきます。

もう一つは「ブランド」。日本の、特に地方の中小企業は、伝統工芸や食べ物をはじめ数多くの強みを持っています。ただ、残念ながら今はそれらがブランド化されていません。加えて、日本は30年間にわたりデフレに慣れてきたため、価格設定が低いという問題もあります。今後はブランディングに注力し、価値と価格を上げていくことが必要です。こちらも日本のポテンシャルは大きく、ビジネスチャンスにつながると考えています。

ニューノーマル時代のビジネスチャンスのキーワード

画像:ニューノーマル時代のビジネスチャンスのキーワード

自分自身の「意思」を表現する重要性

前述したように、ニューノーマル時代は正解がない時代です。企業のトップはもちろん、社員も正解を求めてはいけません。企業が存在意義やビジョンを描くように、社員一人ひとりも「何をしたいか」「どう在りたいか」、つまり自らの「意思」を見つめ直し納得して、発信することが重要。この意思こそが、日本に最も足りないものです。

そもそも日本には、明確で強い意思を持った企業が少なく、個人も正解を出すための教育が主流だったせいか、自分がやりたいことを考え、それを形式化(言語化)することが苦手です。正解のない時代だからこそ、誰かに聞いても答えは得られません。企業も、個人も、自分がやりたいことを考えて表現し、自分自身で腹落ちした上で取り組んでいくべきだと思います。これはトップか一般社員かを問わず、今後全てのビジネスパーソンに不可欠なスキルとなるでしょう。

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