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不確実な時代だからこそ、意思を持って勝ち抜く ニューノーマル時代のストラテジー

新型コロナウイルス感染症の影響により、今後は「ニューノーマル(新常態)」と呼ばれる時代の到来が叫ばれている。さまざまなことが"不確実"とされるこの時代において、どのような戦略を立て、ビジネスチャンスをつかんでいくべきなのか。企業やビジネスパーソンがコロナ禍をポジティブに考え、勝ち抜いていくためのヒントを探る。

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  • 2020.12.01

不確実な時代だからこそ、意思を持って勝ち抜く
ニューノーマル時代のストラテジー

ケーススタディ1
新しい施策を次々と打ち出し、今までにない店舗の形を実現
メガネスーパー

コロナ禍で小売業が苦戦を強いられる中、店舗改革によって業績を伸ばしているのが、ビジョナリーホールディングスが運営するメガネスーパーだ。その好調の理由と今後の展望を、2013年の就任以降、抜本的な経営改革を行ってきた代表取締役社長の星﨑尚彦さんに聞いた。

丁寧にビジョンを共有し経営危機を脱する

星崎尚彦さん 星﨑尚彦(ほしざき なおひこ)
株式会社メガネスーパー
代表取締役社長

8年間赤字が続く深刻な経営危機から、見事V字回復を果たしたメガネスーパー。その立役者となったのが、同社の代表取締役社長の星﨑尚彦さんだ。2013年に就任後、「眼鏡をただ売るだけではなく、眼の健康をサポートするアイケアカンパニーへの脱皮」を宣言。会社の今後のビジョンを共有するため、全国約400店を巡るキャラバンを毎年実施し、社員一人ひとりとの面談を通じて、じかに意識改革を行ってきた。こうした積極的なコミュニケーションが社員の士気を高め、業績回復の後押しにもなったという。

「社員に対する情報やメッセージの発信は、経営者として大切にしていることです。会社が赤字でも可能な限りトップが表に出て、『われわれは元気だ!』と社内外にPRする。そうすれば、社員も自信を持てるようになり、会社も良くなっていくと実感しています」

従前、模索してきた店舗改革がコロナ禍で加速

そんな改革の最中に起こったのが、コロナ禍だった。未知のウイルスの恐怖が社会を取り巻く中でも、星﨑さんの決断は速かった。眼鏡やコンタクトレンズ、補聴器は、顧客にとっては体の一部。こうした商品を扱う企業は、"社会的インフラ"であるとの理由から、「社会貢献を考えれば営業を続けるべきだが、皆はどう思うか」というメッセージを、すぐに社員へと投げ掛けた。

「『出社可能な人は衛生安全対策を行った上で営業しよう』と語り掛けました。すると、約2000人の社員のほとんどが、『必要とされているなら働き続けたい』と言ってくれました。現在の社員は、苦しい時代を乗り越えてきたことで、危機に敏感で変化に強く、機動力もあります。そんな仲間だからこそ、このコロナ禍でも共に闘えたのだと思います。社員一丸となり営業を続けた結果、4~7月こそ既存比の業績を割ったものの、8月以降は回復しています」

環境に応じた数々の施策を素早く実行したことも、コロナ禍における同社の好調を支えた理由だ。例えば、20年初めから運用を開始した車両型移動式店舗。高齢者など来店がしづらい人でも、最大52項目もの細密な眼科検査を受けた上で眼鏡を作る、店舗同様のサービスが受けられるものだ。また、各店舗で予約制を導入し個室で接客するほか、リモート視力検査システムで、自宅からでも度付き眼鏡を作れるようにした。

「実は、こうした施策はコロナ禍前から、高齢化時代の地域密着型サービスとして考えていました。6月に始めたお買い物代行サービスも、高齢者施設への出張訪問サービス時に着想を得て、以前から準備を進めていたものです。『移動式店舗』『予約』『個室』……これらがコロナ対策のキーワードに合致したこともあり、急いで推し進めたのです」

新しい施策をスピーディーに断行する同社のスタイルは、トップダウン型の経営を連想させる。だが、同社の経営戦略は、全て合議制で決まるという。

「反対意見があれば、意見を徹底的に戦わせる。なぜなら、自分たちで考えて決めたことであれば、皆が腹落ちして実行できるからです。ただ、これまでは直接会って意識の共有を図ってきましたが、コロナ禍で企業の求心力を保ちづらくなったのは事実です。オンライン上で社員の意見を聞く機会を設けるなど、社員との近い距離感を維持する努力も、より必要だと感じています」

画像:車両型移動式店舗

コロナ禍でも安全にサービスを提供できる、車両型移動式店舗。アイケアサービスや補聴器の測定を含むサービスが車の中で受けられるため、高齢者など来店が困難な人に好評を得ている

画像:リモート視力検査システム

今夏に眼鏡チェーン初のリモート視力検査システムを導入。自宅に送られた検査キットとZoomを使用して、検査専任コンシェルジュのサポートに従い、眼鏡作りに必要な視力検査を実施。その場でレンズとフレームのオーダーまで可能に

ニューノーマル時代も生き残れる小売店を目指す

トップである星﨑さんの経営力に加え、社員が主体的にビジネスに関わる姿勢も、メガネスーパーの強みだ。これを養ってきたのが、社員が複数の業務を担当するマルチファンクション制度。買い物代行のように、新規プロジェクトを立ち上げる際のメンバーは、社内公募で決められ、その社員は現業務に加えて新たな業務にも取り組む。

「今いる人員で、仕事の数を増やす。この制度は経営側のコスト削減の意味もありますが、社員が自ら手を挙げて新しい業務に挑戦できる意義もあります。各人の適性を把握し、能力を最も発揮できる場で働くチャンスを与えることにもつながっています」

コロナ禍以降、同社には働き方の面でも大きな変化があった。時短営業によって従来の交代制を廃止し1シフト制に。また、残業禁止も徹底させた。営業時間の短縮は、売り上げ減少のリスクも含むが、結果的に残業代のコストが年間4億円も縮減されるという。

「短い時間の中で、サービスのクオリティーを追求した結果、時短営業でも顧客満足度の高い接客が可能になり、売り上げも落ちませんでした。これは、コロナ禍が気付かせてくれた利点ですから、収束後も続けていきます」

社会が変化した今、小売業も変革を迫られている。そんな中で同社が重視するのは、多売ではなく付加価値だ。

「われわれの合言葉は、『槍が降ってきても生き残れる企業』です。ニューノーマル時代が到来しても、いずれ新たな危機は訪れるでしょう。それに耐えるには付加価値で強みを創出し、売る側も自らの提案を、自信を持って主張できる存在になっておくべきなのです。その上で、顧客ニーズに応えられる小売店の在り方を、ゼロベースで見直していきたいと思います」

画像:星ちゃんねる画面

星﨑さんは、社内限定のYouTubeチャンネル「星ちゃんねる」を開設。毎日配信を行い、社員からの質問等に答えるなどして、積極的なコミュニケーションを図っている

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    だからこそ、
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