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ITのチカラ Vol.21 業務デジタル化最後の関門「契約業務」

業務の効率化を図るためにテレワークの導入を進める企業が増加する中、請求書や契約書などへの押印が、ビジネスプロセスの電子化のボトルネックになっているケースは少なくない。今後、日本の生産性向上や業務効率化を見据えて契約業務をどのように変革していくべきなのかについて、京都大学 公共政策大学院 教授の岩下直行さんに聞いた。

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  • 2021.09.01

[Vol.21]業務デジタル化最後の関門「契約業務」

日本ならではの過剰な「作法」が生産性向上を遅らせている

写真:岩下直行 さん 「業務の電子化は、全ての働く人のためになるもの。現場から経営層まで一丸となって進めていくべきです。」 京都大学
公共政策大学院
教授
岩下直行 さん
慶應義塾大学経済学部卒業後、日本銀行入行。金融研究所・情報技術研究センター長、下関支店長、金融機構局審議役・金融高度化センター長等を経て、2016年に新設されたFinTechセンターの初代センター長に就任。17年4月より現職。

――日本企業の労働生産性と業務の効率化の現状についてどう見ていますか。

労働生産性については統計の取り方によって変わる面もあり、日本の労働生産性が必ずしも低いとはいえません。平均的には、日本の労働者は仕事が早く、クオリティーも高いのではないかと感じます。何より、かつての日本は高い生産性を誇り、「メイド・イン・ジャパン」の素晴らしい製品を数多く世界に送り出し、1980~90年代前半まで、日本人の働き方や日本企業の経営は「世界の模範」とされていたのです。

しかし残念ながら、「失われた30年」という言葉もあるように、現在の日本は世界経済の劣等生のように表現されることがあります。このような状況になった要因にはさまざまなものがありますが、一つには業務でのインターネットの利用が忌避されがちだったことが挙げられるでしょう。1995年に「Windows 95」が発売され、個人でのインターネットの利用が急速に普及していく中、多くの日本企業は業務でのインターネット利用に後ろ向きで、積極的に利用するようになったのは、2000年代に入ってからのことでした。

背景には、インターネットが普及する前から公的機関や銀行など多くの大企業が自社内でコンピューターなどの資源を持ち、独自の経理システムなどを構築して合理化を進めていたという事情があります。デジタル化のプロセスにおいて、日本では現在でいうレガシーシステムと呼ばれる仕組みがすでに入っていて一定の省力化に成功していたため、その後インターネットが普及した際にも、従来どおり企業内システムを利用し続けることが好まれたのです。

また、日本には華道、茶道、剣道、柔道など、さまざまなものを「道」にする文化があり、職場においても、「道」として「こうあるべきだ」というこだわりを持つことや、先人から受け継いだ「作法」を引き継ぐことが正しいとされる傾向があると感じます。これにより、業務においても、"整える"ことに重きが置かれ、ビジネスプロセスの中で改善されるべきことも過剰な「作法」として残ってしまっている面があります。いまだに、「パソコンは書類を作成してプリントして押印するための道具であり、仕事とは立派な決裁文書を作成して承認を得ることだ」と考えている人もいるのではないでしょうか。

しかし本来、仕事は「プロジェクトでどれだけ収益を上げられるか」「ビジネスをいかに活性化させて成長していくか」といった観点で評価されるべきであるのはいうまでもありません。古い「作法」は日本の生産性向上の足を引っ張り、経済成長を遅らせているのではと感じますし、これを非常に残念に思います。

コロナ禍でテレワーク導入が加速、働き方改革は不可逆的に進む

――働き方改革の進展状況、特にテレワークの導入についてはいかがですか。

多くの人は、古い「作法」が残る合理的ではない業務の進め方に不満を感じていたのではないかと思います。その声が高まったことが、近年の働き方改革推進につながったのでしょう。

以前から働き方改革の必要性が叫ばれてはいましたが、古い考え方はなかなか払拭されず、残業や深夜まで続く飲み会などが当たり前とされる職場は少なくありませんでした。それが、コロナ禍で状況は一変し、テレワークの導入が一気に進みました。感染拡大防止の観点から、出社して対面で話し込んだり、取引先にあいさつに行って直接会話をしたりといった機会も大幅に減ったはずです。日本ではビジネスシーンにおいて「とりあえず会ってあいさつする」「飲み会で腹を割って話す」といったウエットな対人関係が重視される傾向がありましたが、業務をドライに進めることを余儀なくされたことにより、「テレワークで効率的に業務が進む」「会社訪問して世間話をしなくても、メールやコミュニケーションツールを活用すれば良好な関係性を築くことができる」といった気付きを得た人も多いのではないでしょうか。

このような気付きは、コロナ禍が収束した後の日本企業や社会に大きな変化をもたらすでしょう。対面でのコミュニケーションが復活する中でも、テレワーク等を活用した働き方改革は不可逆的に進むはずです。

労働生産性と業務のデジタル化の現状

画像:労働生産性と業務のデジタル化の現状
  • ① G7諸国の就業者1人当たりの労働生産性

    日本の1人当たりの労働生産性は8万1183ドルとG7各国の中で最も低く、OECD加盟諸国の平均10万158ドルを下回る数値で、加盟37カ国中26位と下位に付けている。このことからも日本の労働生産性が世界に比べて低いことが分かる(※1)
  • ② 日本企業の特に電子化したい業務プロセス

    業務の効率化を目指しテレワークやITシステムの導入が進んでいるが、電子化が進んでいない業務も残っている。「契約書の締結、保管」は37.2%と、「経費精算(旅費、交通費)」(38.5%)に次ぐ2位になっている(※2)
  • ③ 日本企業の電子契約の利用状況

    多くの企業が導入したいと考えている電子契約だが、その利用状況は2020年の43.3%から2021年には67.2%へと大きく伸びている。日本でも電子契約の導入が進みはじめたことで、導入していないことが今後の企業の競争力へ影響する可能性が考えられる(※2)(※3)
  • ④ 日本企業の働き方改革への取組状況

    労働生産性を高めるために多くの企業が働き方改革を進める中、テレワークを導入している企業は2020年1月の27.6%から2021年1月の45.6%に伸びている。働き方改革を進めることを目的としたITシステムの導入も2020年1月の27.6%から2021年1月の40.3%に拡大している(※2)
  • ※1 公益財団法人日本生産性本部/「労働生産性の国際比較2020」より作成
  • ※2 一般財団法人日本情報経済社会推進協会/「企業IT利活用動向調査2021」より作成
  • ※3 一般財団法人日本情報経済社会推進協会/「企業IT利活用動向調査2020」より作成

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