カテゴリーを選択
トップ > ITのチカラ [Vol.21] 業務デジタル化最後の関門「契約業務」 > P2
業務の効率化を図るためにテレワークの導入を進める企業が増加する中、請求書や契約書などへの押印が、ビジネスプロセスの電子化のボトルネックになっているケースは少なくない。今後、日本の生産性向上や業務効率化を見据えて契約業務をどのように変革していくべきなのかについて、京都大学 公共政策大学院 教授の岩下直行さんに聞いた。
今回のポイント
ソリューションレポート
――テレワークの導入が進む中、電子契約の活用も増えています。
そもそも契約は口頭でも成立するものであり、契約書に押印することは必須ではありません。契約時に社長同士が対面して押印したり、契約書を高級紙で作成して大事に扱ったりするのは、ウエットな対人関係を重視する日本社会の象徴的なセレモニーの一つだったといえるでしょう。しかし紙の契約書を取り交わそうとすると、どうしても押印や郵送などのアナログな作業が発生するため、業務の効率性は下がってしまいます。コロナ禍によってそのことが浮き彫りになったいま、電子契約が広がっているのは必然です。
――押印が減少し業務の電子化が進む流れは確定的なのでしょうか。
押印については以前から議論が重ねられてきました。民間企業同士の契約以上に問題だったのが、公的機関と民間企業との書類のやりとりにおける押印です。個人向けや士業向けの手続きでは一部電子化が進んでいましたが、民間企業向けに関してはほとんど進んでおらず、公的機関に提出する書類の多くで押印が必要でした。
しかしコロナ禍により「脱ハンコ」の議論がクローズアップされ、行政手続きにおける押印の義務付けに対する風当たりが強まりました。2020年11月には、ハンコが必要とされてきた1万5000種類以上の行政手続きのうち、99%について押印義務を廃止することが発表されました。この政府の動きにより、「空気」ががらりと変わったと感じます。今後は、これまで押印が必要とされていた業務の見直しが進み、電子化が大きく進展するでしょう。
従来は「国の制度で押印が求められているから」「社内で権限を持っている人がデジタル化に消極的だから」といった理由で電子化が進まなかった面があったように思います。しかし、世の中は急速に変化しています。紙で書類を作成して倉庫に保管する場合と、電子化してサーバーやクラウドに保存しておく場合のコスト効率の差を考えても、電子化を進めない理由はありません。
今後、従来のビジネスプロセスにこだわる企業は、業務効率の点で競合企業との間に差が生まれ、競争に競り負ける可能性があります。厳しい競争の中にある企業にとって電子化の遅れは命取りになりかねません。また、電子化は優秀な人材の獲得という観点でも積極的に進める必要があります。デジタルネイティブと呼ばれるこれからの社会を担う世代は、時代の変化に対応できていない企業を選ばないでしょう。新たな業務プロセスに違和感を覚える人もいるかもしれませんが、電子化は結果的に、働く全ての人のためになるものです。契約プロセスをサポートするサービスの導入やベンダーの活用で、契約業務の電子化をよりスムーズに進めることもできます。現場も経営層も、全員が一丸となって「電子化でビジネスプロセスを変革していくのだ」という意識を持つことが必要です。