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ITのチカラ Vol.17 広域自然災害による被災者支援の迅速化にITはどう貢献するのか

日本は自然災害が多く、1985~2018年までの自然災害被害額合計のうち、アジアでは約3分の1、全世界でも15%弱が日本で発生したものによるという調査結果もある。防災・減災や自然災害発生後の被災者支援への取り組みに関する課題と、その解消のためにITが果たす役割について、関西大学の永松伸吾さんに聞いた。

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  • 2020.06.24

[Vol.17]広域自然災害による被災者支援の迅速化にITはどう貢献するのか

現在の自然災害対策はハードとソフトの組み合わせが重視される

写真:永松伸吾 さん 「被災者支援のための自治体の共通情報システム構築には、官民やベンダーの利害を超えた議論が必要です。」 関西大学
社会安全学部/社会安全研究科
教授
永松伸吾 さん
専門は公共政策(防災・減災・危機管理)・地域経済復興。大阪大学大学院国際公共政策研究科助手、防災科学技術研究所 特別研究員、人と防災未来センター 研究副主幹、関西大学社会安全学部 准教授などを経て、2015年より現職。防災科学技術研究所 災害過程研究部門長も兼任する。著書に『減災政策論入門』(弘文堂)、『キャッシュ・フォー・ワーク ― 震災復興の新しいしくみ』(岩波書店)がある。

――近年の日本における自然災害の傾向と、防災・減災のための取り組みについて教えてください。

自然災害の発生件数や被害額は増加傾向にあり、特に日本を含む先進国では近年、災害の経済的リスクが強く認識されるようになってきています。特定の地域で起きた災害がサプライチェーンの断絶を引き起こし、世界の裏側にまで影響が波及するケースもあるためです。

また、近年のトレンドとしては、平均的に人的被害は減少傾向にある一方で、日本でいえば首都直下型地震や南海トラフ巨大地震のように、発生頻度は低いが一度で数万人が亡くなるような甚大な被害が生じる「低頻度巨大災害」のリスクへの関心が高まっています。南海トラフ地震は約80年前にも起きていますが、現在とは社会の姿が大きく異なりますから、当時の知見で役に立つものは少ないでしょう。グローバル化と近代化によって、災害リスクの質そのものが変わってきているといえます。

防災・減災については、1980年代までは河川の堤防強化や建物の耐震化など、ハード面で災害リスクを抑え込む取り組みが主流でした。しかし、日本の財政状況が厳しくなる中、いつ起きるか分からない災害のために、どれだけコストを掛けるべきなのかについても議論されるようになりました。現実問題として、例えば東日本大震災規模の津波への備えを万全にするのは難しく、いざ発生した場合には避難以外の選択肢は取れないでしょう。

足元では、さらに議論が進んでいます。令和元年台風第19号では、阿武隈(あぶくま)川や千曲(ちくま)川など国土交通省が直轄管理する一級河川を含む多くの河川で同時多発的に堤防が決壊して、甚大な浸水被害が発生しました。

近年、多く発生するようになった想定外の集中豪雨や台風の接近を、堤防などのハードでどこまで守れるのか、そしてその維持や改修にどこまで予算を投じ続けるべきなのか。そうした極めて難しい判断を迫られる局面を迎えているといえます。

残念ながら、自然災害の被害をゼロにすることはできません。そこで、ハードだけでなくITなどのソフトも組み合わせた対策が重視されるようになってきました。例えば、災害が起きたときに迅速に避難できるようにする、あるいは台風のように事前にある程度の予測ができる場合には、災害情報をスピーディーに広く伝えるといった取り組みです。

今後、身を守るための正確な情報をいち早く伝え、人々がより適切な行動を判断できる社会にしていく取り組みの中で、ITはより重要な役割を担っていくことになるでしょう。

国や地方公共団体の被災者支援制度は拡充し、ボランティアの連携も進む

――自然災害による被害が発生した場合の、被災者の生活再建支援の動向について教えてください。

阪神・淡路大震災の発生を契機に、被災者が支援金を受給できる「被災者生活再建支援制度」ができ、東日本大震災後は被災事業者に対して復旧資金を支援する、いわゆる「グループ補助」という枠組みもできました。独自の再建支援制度を持つ地方公共団体も増えており、被災者支援の仕組みは拡充しつつあるといえます。

その一方、さまざまな制度ができたことで、一人ひとりの被災者が具体的にどのような支援を受けられるのかが分かりにくくなっている面もあります。これについては、被災者がワンストップで必要な支援を受けられるようにすることを目的に、内閣府に設置された被災者生活支援チームが横断的に被災者支援情報を収集してWebサイトに掲載したり、各自治体が情報をまとめたパンフレットを制作・配布したりといった取り組みが進んでいます。

災害ボランティアに関しては、ここ数年で飛躍的に状況が改善しています。もともとボランティアは小規模なボランティア団体が、多様な信念の下、異なる財源で活動してきました。それが2016年に「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」(以下、JVOAD)という団体が設立されたことで、各団体が連携したり、活動で得た情報を共有したりできるようになったのです。

また、JVOADは、政府や自治体がボランティア団体に相談するときの窓口にもなるため、政府・自治体とボランティア団体がパートナーシップの下に議論できる環境が整い、今後災害ボランティアが活躍する場面が増えることが期待されています。

世界と日本における自然災害による被害と被災者の生活再建支援策の現状

画像:世界と日本における自然災害による被害と被災者の生活再建支援策の現状
  • ① 世界における自然災害の被害額と被害額の割合

    ルーバン・カトリック大学疫学研究所災害データベースによると、1985~2018年の間に発生した自然災害による被害の総額3兆1707億ドルのうち、日本で発生した被害額は世界全体の14.3%を占め、被害額は4546億ドルにのぼる(※1)
  • ② 日本の自然災害発生件数と被害額の推移

    日本における「死者が10人以上」「被災者が100人以上」「緊急事態宣言の発令」「国際救援の要請」のいずれかに該当する自然災害の発生件数は、ルーバン・カトリック大学疫学研究所災害データベースによると増加傾向にあり、阪神・淡路大震災、東日本大震災の発生時には大規模な被害を記録している(※1)
  • ③ 被災者生活再建支援制度による支援金の支給

    地震や台風、集中豪雨などの被災者の生活再建支援と被災地復興のために支援金を支給する被災者生活再建支援制度は、開始された1999年から2019年までの間に約27.8万世帯に対して総額約4883億円が支給されている(※2)
  • ④ 日本に接近した台風の数と風水災等による保険金支払額

    毎年複数の台風が接近するだけでなく近年は集中豪雨による被害も増加傾向にある。自然災害による損害を補償する損害保険会社の火災保険の保険金支払額は、台風21号、24号、西日本豪雨などが発生した2018年度は1兆5000億円を超えた(※3)
  • ⑤ 迅速な生活再建支援や被災地復興のためのICT導入状況

    自治体の被害認定調査や被災者生活再建支援制度の迅速化・効率化にはICTの活用が効果的だが、全国の自治体を対象とした調査では、ICTを導入している取り組みのうち最も導入率の高い罹災証明書発行でも「実施している」は28.0%、「検討中である」を含めても40.2%に留まっている(※4)
  • ⑥ 地震保険による保険金支払例

    損害保険会社の地震保険による保険金支払額は、近年に発生した地震では増える傾向にあり、2018年の北海道胆振東部地震では387億円、大阪府北部地震では1072億円、2016年の熊本地震では3859億円、2011年の東日本大震災では1兆2833億円にのぼる(※3)
  • ※1 中小企業庁/「2019年版小規模企業白書」より作成
  • ※2 内閣府/「被災者生活再建支援制度に係る支援金の支給について(令和元年12月31日現在)」より作成
  • ※3 一般社団法人日本損害保険協会/「ファクトブック2019 日本の損害保険」より作成
  • ※4 内閣府/平成30年度被災者生活再建支援法関連調査報告書より作成

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「広域災害迅速対応ソリューション」の
「立会最適マッチングシステム」

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    地震リスクに対する保険での備えが進む一方で、
    風水災は国の支えが課題
    ITを活用した「被災者台帳」の
    整備で状況に応じた支援が可能に

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