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トップ > Cのキセキ Episode.33 「インスペクション EYE for インフラ」 > P1
培った技術を活用し社会課題を解決する。そうした考え方の元、キヤノンは新たな事業の創出に取り組んでいる。その一つに「インフラ構造物点検」の分野がある。全く新しい事業領域へ、キヤノンはどう挑んでいるのだろうか。
橋梁やトンネル、鉄道、高速道路などの社会インフラは、暮らしを支える大切な財産だが、そうした日本のインフラ構造物に危機が訪れようとしている。
「日本の社会インフラの多くは、1950年代から70年代までの高度経済成長期に整備されました。今後、その多くが老朽化することが問題となっています」
そう話すのはキヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)の武田知樹だ。キヤノンと社会インフラの組み合わせを不思議に思う人も多いだろう。実は、キヤノンは構造物の計測・調査・診断などを行う建設コンサルタントの東設土木コンサルタントとの共同研究を通じて、画像ベースインフラ構造物点検サービス「インスペクション EYE for インフラ」を開発し、2019年にインフラ構造物の点検事業に参入したのだ。
「中でも問題となるのはコンクリートによる構造物です。その寿命は海岸部など環境条件の悪い場所では50年程度といわれ、適切なメンテナンスを行わないと事故につながる危険性があるのです」
武田と同じチームの森川泰久は、問題の深刻さは「数」からも分かると話す。
「日本には現在約70万の橋がありますが、国土交通省によると、建設後50年を経過するものの割合は、23年に39%、33年には63%になるといわれ、急ぎ対策を進める必要があるのです」
しかし、こうした構造物の建て替えは、コストや人材の面からも容易ではない。そこで国土交通省は「インフラ長寿命化基本計画」を策定。施設の維持管理に力を注ぐ方針を定めている。維持管理の現状をキヤノンMJの新田敏之が説明する。
「14年に定められた定期点検要領では、トンネルや2メートル以上の道路橋には5年ごとの点検が義務付けられました。補修や補強を行う必要のある設備を早期に見つけ出し、安全性を確保していこうというわけです」
さらに、インフラ構造物の点検は手間やコストがかかるだけでなく、業務経験が求められる難しい作業でもあるという。
建設後50年以上経過する施設
国土交通省によると、今後、建設後50年以上経過する社会インフラが加速度的に増加する。2033年には道路橋の約63%、トンネルの42%が建築後50年を超えるなど老朽化が進むため、計画的かつ適切な維持管理や更新を進める必要がある。
キヤノンで「インスペクション EYE for インフラ」の事業開発リーダーを務める穴吹まほろは、点検のポイントはコンクリートの状況把握にあると話す。
「鉄筋コンクリートを利用した構造物は、例えば内部の鉄筋に錆が生じることで鉄筋が膨れ上がり、内部から負荷がかかり劣化が進行します。鉄筋の錆はコンクリートの表面に生じたひび割れを通って水が内部に浸透することで発生するため、インフラ構造物の点検ではこの"水が通る幅のひび割れ"を見つけ出し、補修や補強につなげることが大切です」
水が内部まで浸透するようなひび割れは、幅が0.2ミリ以上のものだという。つまり、構造物の表面に見える0.2ミリ幅以上のひび割れを見つける必要があるのだ。一般的な名刺の厚みは約0.18ミリ、官製はがきは約0.22ミリといわれている。適切な補修や補強には、この微妙な差を見分ける必要があるのだ。