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トップ > Cのキセキ Episode.33 「インスペクション EYE for インフラ」 > P4
培った技術を活用し社会課題を解決する。そうした考え方の元、キヤノンは新たな事業の創出に取り組んでいる。その一つに「インフラ構造物点検」の分野がある。全く新しい事業領域へ、キヤノンはどう挑んでいるのだろうか。
穴吹は、「インスペクション EYE for インフラ」のひび割れ検知には、キヤノン独自のAI技術が使われていると話す。
「キヤノンにはカメラの開発で培った画像解析に適したAI技術があります。AIは、コンクリートを撮影した画像と土木技術者がトレースした正解となる検知結果から、どれがひび割れで、どれがただの汚れなのかなどを"学習"し、より精度の高い判定ができるようになります。ここでポイントになるのは、学習のさせ方によって、AIが変状検知を行う際の判断基準が変わってくるという点です。キヤノンでは、点検を担当する土木技術者にとっていかに使いやすいものにするかを重視しました」
穴吹は、「インスペクション EYE for インフラ」の強みは、現場の技術者に寄り添っている点だと話す。
「近年、AI関連技術が一般化していることもあり、ひび割れを検知するサービスは他社からも登場しています。『インスペクション EYE for インフラ』の『変状検知サービス』がそれらと異なるのは、点検に携わるプロフェッショナルたちから"これなら使える"といってもらえるレベルを目指している点です」
現場の技術者は、単にひび割れの幅だけで構造物の状態を判断しているのではないという。
「例えば、ひび割れの幅は一定ではなく、途中で広くなったり狭くなったりします。狭い部分は画像に写らないこともあるため、単純にAIで判定すると広い部分だけを検知し、狭い部分ではひび割れが途切れているという結果になることもあります。ところが土木技術者は、目に見える広い部分だけではなく、見えにくい狭い部分にもひび割れがあると想定し、途切れのない1本の長いひび割れがあると判断して、構造物の状態としてリスクが高いと判定することがあります。こうした技術者の経験を基にした判断もAIによる検知結果に盛り込まなければ、どんなに高度な技術を使っていても"使えないサービス"にしかなりません」
穴吹は、こうした土木技術者の感覚を再現することに「キヤノンの技術者は徹底的にこだわる」と話す。
各分野のプロフェッショナルと正面から向き合い、その声に耳を傾け、彼らを納得させるまでつくり込むという開発手法は、プロの写真家向けに開発し続けているレンズ交換式カメラの「EOS」シリーズなどで長年培ってきたキヤノンらしいものだといえる。
「パートナーである東設土木コンサルタントの皆さんは、インフラ構造物の課題に強い使命感を持って向き合っています。50年先、100年先の社会インフラのあるべき姿を見据え、何をすべきかを考えている。その姿勢に強く共感しています。キヤノンもその姿勢に寄り添い、将来を見据えて開発を進めました」
「インスペクション EYE for インフラ」をさらに"使えるサービス"にする活動も継続中だ。穴吹と一緒に事業開発を担当するキヤノンの雨貝祐輔は話す。
「事業開発の担当ではありますが、キヤノンMJと一緒に現場に赴き、橋脚などの撮影を行うこともあります。元になる画像がブレていたりピントがズレていたりすると検知精度に影響します。現場の方々は点検のプロであっても撮影のプロではありません。19年の法改正で法定点検でも画像を用いた点検が実施可能になったのですが、撮影の部分で経験豊かな人材が不在なままでは十分な画像点検は実現できません。カメラやドローンに詳しい人でなくても問題なく撮影ができるようにするには、機材や技術を提供するわれわれも現場に足を運び、その場の状況を知り、そこに合った撮影作業の標準化を提案していく必要があるのです。現場で実際に利用する方たちの要望に耳を傾け、製品やサービスを改善しながら将来を見据えて技術を進化させていく。キヤノンの技術者が自然と身に付けているこうした手法は、『インスペクション EYE for インフラ』の開発でも変わりません」
目視とほぼ同様のひび割れ検知が可能
「インスペクション EYE for インフラ」の「変状検知サービス」でひび割れを検知した結果(右)と、技術者が目視して検知した結果(左)を比較してみると、ほぼ人による検知と遜色ないことが分かる。検知対象によって「橋梁用」「トンネル用」など最適なAIモデルを用意することで精度を高めている。