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DX実現へのカギを探る

デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むことの重要性への理解は深まっているが、戦略にまで落とし込めている企業はまだまだ多くない。どうすれば単なるデジタル化、業務効率化にとどまらない真のDXを実現できるのか。企業規模や業種により課題はさまざまだが、共通していえるのは、DXの本質を理解し全社で変革に取り組まなければ、道はひらかれない。そして、そこには"人"のチカラが不可欠だということだ。変革し続けるためのポイントについて、先進企業やキーパーソンに詳しく聞いた。

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  • 2021.12.01

DX実現へのカギを探る

ケーススタディ1
ヒト起点の新たな価値創造へと転換し、モビリティを変えるDXに取り組む
東日本旅客鉄道

経済産業省・東京証券取引所の「DX銘柄」に継続して選ばれている東日本旅客鉄道(JR東日本)。同社の核となる交通インフラ事業は生活の根幹に関わるものであるだけに、そのDXは必然的に私たちの暮らしへ大きな影響を及ぼす。「モビリティの変革」を目指す同社のDXの考え方と取り組みの現在地、そして具体的な施策について聞いた。

DX銘柄に7年連続で選定

写真: 東日本旅客鉄道

JR東日本は「DX銘柄2021」に選定された。前身である「攻めのIT経営銘柄」から数えると、7年連続でDX推進企業として認められたことになる。

人々の生活に密着し、なくてはならないインフラを担う同社が、変革の先駆者として高く評価されているのはなぜか。それは、自分たちの役割を「鉄道起点のサービス提供」から「ヒト起点の新たな価値提供」へと広げて捉えなおし、事業転換していく方針を示したからである。そして、その経営ビジョンをまとめたのが「変革2027」だ。加えて、MaaS(Mobility as a Service)実現に向けたプラットフォームの構築や、新幹線におけるチケットレス化推進など、具体的な取り組みも選定理由となっている。

同社は会社発足以降、鉄道システムにおける新たな価値・サービス創造のための研究開発を推進してきた。「変革2027」ではこれまでの鉄道の進化を通じたサービスのレベルアップから視野を広げ、"信頼"というブランドを基盤に、「輸送」サービスの進化・成長と「生活」「IT・Suica」サービスの拡大に注力し、技術革新や移動・購入・決済のデータ融合に基づく新たな価値を社会に提供することを目指している。

具体的には、前述のMaaS実現に向けた施策や新幹線のチケットレス化をはじめ、AI・ロボットを活用したサービス向上、さらには、社会課題や次世代公共交通について国内外企業や大学・研究機関など多様な関係者と連携し、オープンイノベーションによるモビリティ変革を目指す「モビリティ変革コンソーシアム」の設立などを進めている。積極的なデジタル化による事業変革により、新たな価値を創造し、その成果を社会に還元するために取り組んでいるというのが同社のDXの現在地だ。

モビリティの変革こそが同社が描くDXの中核にあるものだが、一方では新型コロナウイルス感染症拡大の影響で鉄道の利用者が大きく減るなど、新たな課題も生まれている。いわゆるポストコロナ社会に向け、今後さらに集中から分散、マスからパーソナルへの動きが加速し新しい生活様式が定着していくと同社は想定。リアルな拠点・ネットワークにデジタル技術を掛け合わせることで、新たな社会に対応した"ヒト"起点のビジネスモデルへと進化させていく考えだ。

「変革2027」の基本方針

画像:「変革2027」の基本方針

「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していく

モビリティの変革で生活が大きく変わる

同社ではMaaS実現に向けて、タクシーやバスなどの二次交通と鉄道の連携を強化し、利用者が目的地までの全交通手段の検索・手配・決済をオールインワンで行える「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」の構築を進めている。

同プラットフォームは、リアルな拠点・ネットワークとデジタルサービスの融合により、利用者が移動のための情報を得るところから、手配・購入までに至る一連の利便性をさらに高め、目的地までシームレスで短時間かつストレスフリーな移動を可能とするもの。まさに"ヒト"を起点とした発想であり、これが実現すれば生活におけるモビリティ体験はさらに大きく変わることが予想される。

この施策の一環として、鉄道だけでなくタクシーやシェアサイクルなども含めたモビリティサービスを一つのアプリでスムーズに利用できる「Ringo Pass」を提供。その開発では、変化するユーザーニーズに迅速に応えるため、最初に全体の設計・計画を決定して進める従来のウォーターフォール型ではなく、プロトタイプ制作とフィードバックを繰り返すアジャイル型の手法で取り組んだ。

サービス現場と連携しつつ開発工程を繰り返すという、従来とは大きく異なるプロセスだったため、最初は手探りの部分が多かったが、開発途中でさまざまな変更を行うことができ、素早い修正対応が可能になったという。例えば、開発中に一部機能を搭載しなくてもサービスを開始することができると判明した際には、仕様などを柔軟に変更。その結果、β版開発にも早く着手できるようになった。

新たな開発手法を経験したことで、常に現場の要望に応えながら素早くサービスを提供していくという柔軟なマインドも育ったという。

JR東日本が構築した「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」

画像:モビリティ・リンケージ・プラットフォームの概念図

利用者が移動のための検索・手配・決済をオールインワンで行える「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」。
同社はこのプラットフォームで「シームレスな移動」「総移動時間の短縮」「ストレスフリーな移動」の実現を目指している

人材の採用・育成にも注力

DX推進において最も重要なリソースはやはり人材だ。JR東日本では、同社固有の鉄道知識とデジタル技術の両方を身に付け、社内業務や顧客サービスの改革を進められる人材をDX人材と考える。デジタルのスキルはもちろん、顧客のニーズを把握しそれに試行錯誤しながら応えるアジャイル型思考も必須であり、さらにはこれまで同社が取り組んできた鉄道事業・サービスへの理解も大切な要素となっている。

この視点から新卒と中途の双方でAI・データ分析といったITスキルを有する人材の採用を進めるとともに、社内でも研修を実施してDX人材育成に取り組んでいる。

同社に限らず多くの企業がコロナ禍を経て、新たな生活様式の定着は今後間違いなく進んでいくと認識している。その中でも移動・交通というモビリティ分野は、人々の価値観の激変を受け、より根本的な変革が求められていくだろう。同社は顧客とのリアルな接点を大切にしながら、今後もDXを進め、多様なニーズに応える施策にスピード感を持って取り組んでいく。

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