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トップ > 特集 オムニチャネル最前線 > ケーススタディー1
この2年ほどの間に、「オムニチャネル」という言葉が新聞や雑誌などでしばしば取り上げられるようになった。
直訳すれば「全ての顧客接点」といった意味の言葉だが、その本質は必ずしも広く共有されているわけではない。
オムニチャネルとは何か。なぜ今必要とされているのか──。いくつかの事例を取り上げながら、その現状と可能性を掘り下げていく。
銀行利用に関するユーザーの行動やニーズは一様ではない。移動中に口座の残高を確認したいときはスマートフォンを利用し、夜中に振り込みを行う場合はパソコンでネットバンキングを使うのが便利だ。口座開設や、ローンを組む場合は、店頭で専門家の話を聞きたい。
「お客さまのニーズに応じて、適切なタイミングで、適切な内容を、適切なチャネルでご案内する。それが私たちにとっての多チャネル活用の在り方です」
そう話すのは、みずほフィナンシャルグループで新規サービス開発を担当する西本聡さんだ。みずほ銀行の主なチャネルは、有人店舗、ATM、パソコン、スマートフォンなど。
いずれから取引してもUX(ユーザーエクスペリエンス=顧客体験)が大きく変わらないようにする一方で、それぞれのチャネルの特性を生かしている。
例えば、モバイル用サイトでは最寄りの店舗を位置情報サービスで案内。パソコン用サイトでは一定時間滞在している閲覧者にチャットの招待画面を自動表示し、オペレーターが対応する。
そのチャネルに新たに加わったのが、2015年7月から東京中央支店など5店舗に導入しているパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」だ。現在、店頭における簡単な保険相談のほか、窓口対応の順番を待つ顧客に対して落語調の金融入門講義などを行い、ムードメーカーとしても一役買っている。新規サービス開発に携わる井原理博さんは説明する。
「ペッパーは、窓口などの対面チャネルとWebなどの非対面チャネルの両方の性質を兼ね備えたハイブリッドチャネルであると捉えています。深い知識を備えてお客さまの相談にお答えできる可能性も持っていますし、お客さまにとっては、人には聞きづらいことをペッパーに質問できたり、ご自身のペースで対話を進められたり、というメリットがあります」
また、以前から重要なチャネルと位置づけられているのが、コールセンターである。IBM社が開発したシステム「IBM Watsonテクノロジー」を今年導入。顧客からの質問を音声分析して、最適な答えがオペレーターの画面に表示されるシステムを構築した。これにより、全スタッフが迅速かつ適切に回答できることを目指している。
他業種に比べて商品やサービスで差別化を図りにくい金融業界にあって、他行に先駆けてオムニチャネル化を進めているみずほフィナンシャルグループだが、「ライバルは必ずしも他の銀行ではない」と西本さんは話す。
「お客さまのご要望に応えるためにチャネル間の連携を最適化していく。その視点は、どの業界にも共通していると思います。他業界のリーディングカンパニーやスタートアップ企業の動向を注視し、時には連携を図りながら、さらにサービスを進化させていきたいと考えています」