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トップ > 特集 オムニチャネル最前線 > ケーススタディー2
この2年ほどの間に、「オムニチャネル」という言葉が新聞や雑誌などでしばしば取り上げられるようになった。
直訳すれば「全ての顧客接点」といった意味の言葉だが、その本質は必ずしも広く共有されているわけではない。
オムニチャネルとは何か。なぜ今必要とされているのか──。いくつかの事例を取り上げながら、その現状と可能性を掘り下げていく。
「オムニチャネル」という言葉は、米国の百貨店業界から広まったといわれる。EC(eコマース)事業者が売り上げを伸ばす中で、百貨店はリアル店舗を本拠とするプレーヤーとしていかに顧客に価値を提供できるか──。
背景にはそんな課題があった。日本において「買い物体験」というキーワードを基軸にその課題に取り組んでいるのが、松屋銀座である。
ITベンチャーのtab社が開発したプラットホームを活用して、松屋銀座がWeb上の拡張店舗「tabモール」をスタートさせたのは2014年11月。
Web上といっても、いわゆるECサイトではない。モール上から商品を選んで取り寄せ、それを松屋銀座の店舗で受け取るというのがこのサービスの仕組みだ。ユーザーにとっては、時間の制約なく商品が選べて、店舗にない商品も購入できるという大きなメリットがある。
実物の商品を見て気に入らなければ購買を取りやめることもできるし、店舗にある他の商品と比較して、そちらを購入することも可能だ。同じ靴の複数サイズをまとめて取り寄せるといったこともできる。
しかし、なぜサイト上に販売の機能を設けなかったのだろうか。
「商品を本当に気に入って買っていただくには、店頭での“接客”という行為を通じて販売するのが最もふさわしいと考えました」
販売促進部の服部延弘さんはそう説明する。ECには「注文をした商品が実際にはイメージ通りではなかった」というリスクが常に付きまとう。商品の交換・返品が可能でも、実際は手間と時間がかかるために諦めてしまうケースが少なくない。それに対してtabモールは、あたかも売り場の棚から商品を手に取るような感覚でWeb上で気軽に商品を選び、店員とのフェーストゥフェースのコミュニケーションの中で商品を購入するかどうかを決めることができる。
「“接客”は百貨店が最も得意とするサービスです。商品というモノだけを販売するのではなく、接客というコトをご提供することで、買い物体験の楽しさを最大化する。それが私たちの考え方です」
サービス開始後、以前は松屋銀座で買い物をしたことがなかった若年層がtabモール経由で来店するようになったほか、銀座で買い物をする外国人客が事前に本国で注文し、利用する需要があるという。オムニチャネル戦略が新規顧客の獲得にも功を奏しているということだ。
「現在、社内の各部署がアイデアを出しながら、取扱商品の拡充を図っています。営業本部長も兼ねる店長のもと、担当部署や担当商品を超えて、組織が一丸となってお客さまにご提供できる価値をより大きくしていこうと考えています」
オムニチャネル戦略には、組織の「オムニ化」も欠かせないということだ。