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人とテクノロジーが支え合う AIが活躍する時代

社会や産業のさまざまな分野でAI(人工知能)の本格的な活用が進んでいる。この画期的なテクノロジーへの期待が高まる一方、危惧の念も依然しばしばささやかれる。
AIによって何が可能になるのか。AIの進化が進んだ後も人間固有の営みとして残っていくものは何なのか──。AIの最前線で活躍するキーパーソンとAI実用の最新事例の取材を通じて、AIが持つ力の本質を探る!

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  • 2017.06.01

人とテクノロジーが支え合う
AIが活躍する時代

インタビュー3 AIで味を数値化し「おいしさ」を向上させる

鈴木隆一さん
AISSY株式会社 代表取締役社長

これまで客観的に測られることのなかった、食べ物や飲み物の「おいしさ」。これをセンサーとAIの組み合わせで数値化することに成功したのが、ベンチャー企業AISSYだ。
300社以上のメーカーと共に味の数値化に取り組んできた同社の代表取締役社長 鈴木隆一さんが「AI×食」について語った。

味を感じる仕組みをAIで再現する

写真:鈴木隆一さん 写真:AI搭載の味覚センサー「レオ」 鈴木さんが開発したAI搭載の味覚センサー「レオ」。食品を液化し、味を分析する。名称は社員の飼い猫の名にちなんでいる

「味博士」の呼び名で知られる鈴木隆一さん。2008年にAISSYを設立し、AIとセンサーを組み合わせて味覚を数値化する独自のマシン「レオ」を開発した。

「食品・飲料業界には、二つの課題があります。“おいしさ”をいかに作り出すか。そして、その“おいしさ”をいかに世の中に伝えていくかということです」と鈴木さんは説明する。

「AIで味を数値化する技術によっておいしい商品を作り出す商品開発。併せて、パッケージングや宣伝戦略などを提案するマーケティングやコンサルティング。これら両方を提供するのが私たちの主な事業です」

人間には、甘味、うま味、塩味、苦味、酸味の5つの基本的な味覚がある。人間が感じる味は、それらの味覚の相互作用によって生まれる。鈴木さんらは、それぞれの味覚と相互作用を数値化することに成功した。

「味覚の組み合わせが単純ならば、あえてAIを活用する必要はありません。しかし、組み合わせが複雑になればなるほど数値化は難しくなります。そこで、AIで人間の神経系を模したシステムを構築し、人間が味を感じる仕組みに近い環境で味を“見える化”したわけです」

同社の仕事でよく知られているのが、キリンビバレッジの「生茶」のリニューアルだ。味を数値化・分析し、改めて顧客の求める味を追求。苦味とうま味のバランスは従来のままとしながら、全体のコクをより深めた。新装パッケージの効果などもあって、昨年の売り上げは前年比で1.8倍に達したという。

「ロングセラー商品をリニューアルする際、社内での取り組みだけでは思い切った手を打てない場合があります。私たちのような第三者が、AIを使って客観的な視点を示すことができれば、大胆なリニューアルが可能になるケースが少なくありません」

他にも京都の日本酒メーカー、玉乃光酒造が販売している焼酎「29(にじゅうきゅう)」の仕事も有名だ。“肉に合う焼酎”として売り出したこの製品がどれだけ肉と合うのかを、明確に数値化して見せた。

食品や飲料の商品開発で難しいのは、「おいしさ」が時代と共に移ろいゆく点だと鈴木さんは話す。

「食品の商品開発は、大体半年後から1年後を見通して行われます。売れる商品を作るには、“半年後においしいと思ってもらえる味”を見極めなければならないわけです。それは一種の未来予測なのですが、未来を予測するためには、過去のデータが必要になります。これまでおいしいとされていた味の推移を10年、20年とさかのぼって検証し、それを基に未来の傾向を読み解くわけです。その時間軸に沿ったデータがまだまだ足りていないのが現状です」

味には「飽き」がある。「飽きない味」は原則的にはなく、定番のロングセラー商品でも、実は微妙に味を変えているケースが多い。そのような変化にいかに対応していくかが、今後の「AI×食」の取り組みの課題であると鈴木さんは言う。

味が数値化されればよりおいしく感じられる

写真:鈴木 隆一さん 大学院修了後に起業した鈴木さん。5人の社員を束ねながら、メディア対応やWebでの情報発信なども担っている

AIの活用により味覚を数値化し、分析することで、各メーカーの商品開発の精度が上がり、「おいしい商品」が世の中に増えることになる。それが鈴木さんらの取り組みが社会にもたらす大きなベネフィットだが、それだけではない。

「食事は基本的に“組み合わせ”です。食べ物と食べ物、食べ物と飲み物。その相性の良さを数値化することで、食事をより楽しめるようになります」

鈴木さんによれば、食事には「情報を食べる」という側面がある。事前に「この料理はおいしい」「この組み合わせはおいしい」という情報を数値的に与えられると、人はよりおいしく感じる。そんな研究結果もあるという。

「一種の錯覚ですが、錯覚が快感につながることもあるわけです」

今後の目標は、AIを使って食文化全体の底上げをしていくことだ。さらにその先には、味覚にとどまらない、人間の生活全般の「心地よさ」を向上させる取り組みにチャレンジしていくビジョンもある。「味博士」から「心地よさ博士」へ──。これからもやはりAIが力を発揮しそうだ。

AI × 食

  • ・人間の感覚である「味」を、AIを使って客観的に数値化する。
  • ・商品開発やマーケティングに、AIによる分析結果を活用。
  • ・過去の「おいしさ」のデータを収集・分析することで、味のトレンド予測が可能に。
写真:鈴木隆一さん

鈴木 隆一(すずき りゅういち)
2008年、慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、同大学からの出資によってAISSY株式会社を設立。著書に『「味覚力」を鍛えれば病気にならない』 (講談社+α新書)、『日本人の味覚は世界一』(廣済堂新書)がある。

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