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トップ > 特集 人とテクノロジーが支え合う AIが活躍する時代 > P4
社会や産業のさまざまな分野でAI(人工知能)の本格的な活用が進んでいる。この画期的なテクノロジーへの期待が高まる一方、危惧の念も依然しばしばささやかれる。
AIによって何が可能になるのか。AIの進化が進んだ後も人間固有の営みとして残っていくものは何なのか──。AIの最前線で活躍するキーパーソンとAI実用の最新事例の取材を通じて、AIが持つ力の本質を探る!
人の仕事をサポートし、生産性を高めるツールとしてのAIの働きが、社会のさまざまな領域に広がっている。
農業とメディアにおけるAI活用の最新事例を見ながら、「人と協働するAI」の可能性を探る。
キヤノンのネットワークカメラとAIの組み合わせで、イチゴの収量の自動予測が可能に
九州大学と、大分県でイチゴ栽培を手掛けるアクトいちごファーム、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループが共同で「イチゴ栽培IT化」の実験プロジェクトに乗り出したのは2014年のことだ。主に防犯・防災用途などで使われてきたキヤノンのネットワークカメラをイチゴのハウスに設置し、ハウス内の約80カ所を2時間おきに撮影。その画像をクラウド上にアップし、AIの画像解析技術によって花の数や開花の度合い、葉の大きさ、実の色などを数値化する。それによって、過去の同時期の生育状況との定量的比較を実現する──。それがこの実験の狙いだ。数値比較の結果、例年より生育が遅れていることが分かれば、施肥の量、温度や湿度のコントロールといった対策を行い、生育を安定させることができる。
生育状況の把握は、これまでは、目視による確認とベテラン農家の経験知に依存してきた。その作業をAIが担うことによって、深刻な問題となりつつある農業の人手不足を補い、属人化していたスキルを共有可能な形式知とすることが可能になる。
そればかりではない。実や花の時系列推移を分析し、未来の収穫量を予測するのが、この仕組みにおけるAIの重要な役割である。現在の花の生育状況から、何日後にどの程度の収穫量が得られるかが明らかになれば、農家にとってより有利な条件で販売契約を結ぶことができる。結果、農家の経営が安定するだけでなく、安定生産が実現し、イチゴのブランド価値向上も期待できる。
現在プロジェクトは実証段階にある。生育に関するデータの量をさらに増やし、AIによる予測の精度を上げていくことが現在の課題として残っているが、ハードウエアとソフトウエアを組み合わせたパッケージサービスとしての提供もすでに視野に入っている。