カテゴリーを選択
トップ > 特集 特別対談「人を活かす」栗山英樹さん×坂田正弘 > P1
2012年に北海道日本ハムファイターズの監督に就任し個性あふれる選手たちを率いながら、2度のリーグ優勝と1度の日本一へとチームを導いてきた栗山英樹監督。彼が実践してきた、選手たちの個性をプロデュースする方法、そして、強いチームをつくる方法とは? キヤノンマーケティングジャパン代表取締役社長、坂田正弘と語り合った。
坂田
北海道日本ハムファイターズの監督に就任されて丸6年がたちましたが、この6年間の監督経験をどう感じていらっしゃいますか。
栗山
会社の社長は組織の中でいろいろな経験を積み重ねた上で抜擢されると思うのですが、僕は監督の経験もコーチの経験もなしに外から呼ばれた立場だったので、就任した時は本当に何も分かりませんでした。しかも、やればやるほど自分が何も分からないということを痛感するようになりました。周囲の人たちに支えられて6年間がむしゃらに突っ走ってきて、何が分からないかがようやく分かってきた。そんな感じです。
坂田
しかし6年間でリーグ優勝2回、日本一1回ですから、素晴らしい実績だと思います。昨シーズンは残念ながらリーグ5位という結果でしたが、負けたことから学んだものはありましたか。
栗山
6年間で初めて「勝てる」という手応えを持って入ったシーズンだったのですが、4月からつまずいてしまい、ファンの皆さんには本当に申し訳なかったと感じています。しかし、負けたシーズンこそが重要だと僕は思っています。2016年の日本一は、最下位だった13年の時の課題に取り組んだからこそ達成できたものでした。17年を意味あるシーズンだったと言えるようになるかどうか。それはこれからの戦いに懸かっています。
坂田
プロ野球チームの監督には、いろいろなタイプの方がいらっしゃいますよね。ご自身の監督としての特徴はどこにあるとお考えですか。
栗山
特徴がないのが最大の特徴ですね(笑)。うちのチームは、選手や球団のスタッフたちが自分たちの能力を全て発揮できれば間違いなく優勝できると僕は思っています。「人を活かす」ということ。そのための環境をつくるということ。僕にできるのはそれだけです。
坂田
一人ひとりに能力を100%発揮してもらう。そのためのサポートをするのが監督の役割ということですね。
栗山
ええ。選手一人ひとりが能力を発揮できて、一人ひとりの人生が最良のものになれば、チームは強くなる。僕はそう信じています。よく、「チームが勝つ」ことと「選手を育てる」ことは相反するといわれます。しかし、僕のこの6年間の経験では、その二つが相反することはないですね。勝つためには選手が成長しなければならない。選手が成長すれば勝つ。そう思っています。
坂田
一人ひとりの社員が成長してくれれば、組織も成長する。それは会社も同じですね。問題は「時間」です。人を育てるのには時間がかかります。一方、企業は目の前の課題に取り組み、毎年利益を出していかなければなりません。そのバランスをどう取るか。これは常に悩むところです。
栗山
プロ野球の場合、フロント、監督、コーチ、選手、それぞれの立場で時間軸が違います。フロントは5年から10年、監督は数年という時間軸で物事を考えます。一方、選手は1年1年、結果が残せるかが勝負です。どの時間軸を重視すべきか。僕はやはり選手の時間軸が一番大切にされるべきだと思っています。本当は3年くらい時間をかけてじっくり選手を育てたいのですが、それでは選手の時間軸に合わない。だから1年スパンで物事を見ていくようにしています。
坂田
なるほど。私は会社の未来を考えなければならない立場ですが、10年後までを見通すのはなかなか難しくなっています。経済やビジネス環境の変化のスピードがあまりにも速いからです。しかし、5年後くらいまでのビジョンは確実に持っていなければなりません。ただし、そのビジョンは柔軟に変えていいと考えています。環境の変化に合わせてビジョンを修正しつつも、目標に向かう道筋を誤らないように常に注視する。それが社長の役割なのだと思います。