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既成概念を超えてゆけ! 働き方の未来

労働力人口の減少による人手不足は、今や多くの企業の喫緊の経営課題となっている。
少子高齢化や価値観の変化など、時代の流れは止められない。
ならばその流れに乗り、テクノロジーを駆使して、新しい発想で会社の在り方を再構築することが重要だ。
すでに改革は始まっている。人材を生かす職場環境づくりの現場に溢れるヒントを探ってみる。

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  • 2018.09.01

既成概念を超えてゆけ!
働き方の未来

インタビュー
人々が自律的に働き、自律的に生きる時代に
―東大・柳川範之教授が語る「働き方の未来」

人口減少とテクノロジーの進化は働き方をどう変えていくのだろうか。
厚生労働省が主催する「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会の事務局長を務め、提言をまとめた、東京大学大学院 教授の柳川範之さんに話を聞いた。

日本の生産年齢人口の推移

生産活動の中心となる15歳以上、64歳以下の「生産年齢人口」は、1995年をピークに減少の一途をたどる

図:日本の生産年齢人口の推移

(出典)
2015年まで:総務省「国勢調査」、「人口推計(各年10月1日現在)」、
2016年以降:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2017年4月)」(出生中位・死亡中位推計)

「時間」と「場所」から解放された働き方

私が提言作成に携わった「働き方の未来2035」で特に強調したことの一つは、「時間」と「場所」にとらわれない働き方をいかに実現するか、ということです。同じ時間、同じ場所に集まって仕事をするのがこれまでの会社の形であり、基本的な働き方のスタイルでした。しかし、技術革新によって、そのスタイルが大きく変わりつつあります。ICT、とりわけモバイルテクノロジーが「時間」と「場所」から働く人を解放することを可能にしたからです。

例えば、これまで育児や介護で仕事を辞めなければならなかった人の多くは、決まった勤務時間に会社で仕事をすることができないために離職するしかありませんでした。もし、時間の使い方を自分でコントロールでき、かつ自宅で働くことができれば、育児や介護と仕事を両立できる人は少なくないはずです。インターネット環境とモバイルデバイス、そして働き方の新しいルールがあれば、それが可能なのです。

リモートワークとフレックスタイムは、将来的にはスタンダードな働き方になっていくでしょう。好きな場所を選び、好きな時間に働く。場合によっては、海外に住んで日本の会社の仕事をする。そんなことも夢ではなくなるのではないでしょうか。

「働く」という概念が変化していく

それにともなって、会社の形も大きく変わっていくはずです。元来、会社は一つの組織体であって、場所や建物が会社なのではありません。人が集まるセンター的な機能はこれからも必要とされると思いますが、これまでのように会社の機能が場所や建物に依存することはなくなるでしょう。

一方、組織の在り方自体も、もっと柔軟な、アメーバ的なものに変わっていく可能性があります。永続的な枠組みではなく、時限的組織、あるいはプロジェクト型組織を基礎とする会社が、今後増えていくかもしれません。

その先にあるのは、「働く」という概念自体の変化です。人々の多くが農業に従事していた時代、「労働」と「余暇」の境界は極めてあいまいでした。必要なときに働き、季節やその時々の天候などに応じて休みを取るのが普通でした。また、本業と副業の区別も明確にはありませんでした。農作業をしながら、鍛冶をやったり、工芸品を作ったりする農家が非常に多かったのです。もちろん、農業には定年もありません。

これからの時代の働き方は、ある意味でその時代に再び近づいていくのではないかと私は考えています。いくつかの種類の仕事に携わりながら、地域コミュニティーでの活動に従事し、ごく当たり前に社会に貢献する。いわば、仕事とそれ以外の活動が混然一体となっていく。そのような働き方が広がっていけば、「会社が人生の全て」という昭和的感覚は完全に過去のものとなるでしょう。

「お金を稼ぐ」という仕事の根源的なモチベーション自体がなくなることはもちろんないですし、お金を稼がなければ生きられないという事実は、これからも変わらないでしょう。しかし、「お金を稼ぐことだけが人生の中心的な活動ではない」という考え方が広まり、人々の人生はより多様になっていく。そんなビジョンを私は持っています。

ただし、このビジョンはネガティブな方向に反転する可能性もあります。労働と余暇の境界があいまいになることによって、全ての活動が"仕事"になってしまう。定年がなくなることで、死ぬまで働き続けなければならなくなる――。そんな暗いビジョンです。

あるいは、個人の責任が増大することを危惧する意見もあるかもしれません。これまで会社が与えてくれていたキャリアビジョンを一人ひとりが自ら考え、自分のキャリアを自ら構築していかなければならなくなるからです。

労働と余暇の境目があいまいになり、自らキャリアをつくっていかなければならない未来は、果たして明るい未来でしょうか、暗い未来でしょうか。私は、間違いなく明るい未来であると考えています。

私たちがこれから生きていくことになるのは、自分の働き方を自分でマネジメントする社会であり、自分の人生を自分でプロデュースする社会です。もちろん、そのような生き方を支える新しい社会保障の仕組みは必須でしょう。それさえあれば、人々が自律的に働き、自律的に暮らす社会を生きることは圧倒的に面白い。そう私は思うのです。

「人」のために「技術」を使う

人々が自律的に生きていく、そのような社会では、働いている人に満足感や充実感をどれだけ与えられるかが、企業の価値となっていくでしょう。そうしなければ意欲ある人材を採用することができないからであり、生産性高く働いてもらうことができないからです。

今後、企業におけるAIやRPAの活用はごく当たり前のことになっていくでしょう。それらのテクノロジーは、働く人たちの負荷を下げ、働くことの満足度と充実度を高めるという視点で活用されるべきだと、私は思います。「人」のために「技術」を使うことで、持続的な活動を続けていく。それがこれからの企業の在り方といえるのではないでしょうか。

写真:柳川範之さん

柳川 範之(やながわ のりゆき)
東京大学大学院経済学研究科 教授
1963年生まれ。中学卒業後、父親の海外勤務の都合でブラジルへ。慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業後、93年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。最近の主な関心分野は、法と経済学、働き方改革、AIと働き方、フィンテック、バブルと経済成長など。政府の審議会・研究会メンバーとして政策立案などにも参加。新聞・雑誌への寄稿やテレビへの出演も多数。著書は『40歳からの会社に頼らない働き方』(筑摩書房)、『東大柳川ゼミで経済と人生を学ぶ』(日本経済新聞出版社)など多数。

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