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5Gではじまるゲームチェンジ

昨今、さまざまなメディアで頻繁に目にする「5G」。「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」などを実現する次世代の移動通信システムとして注目を浴びており、世の中に与えるインパクトは、通信のみならず、ビジネスや社会の在り方までも変えてしまうと予測されている。5Gがもたらすであろう変化をいち早く捉え、新たな取り組みを進めるキーパーソンに話を聞き、5Gの本質を読み解く。

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  • 2019.09.01

5Gではじまるゲームチェンジ

general remarks従来の社会を変革し、新たなフェーズへと導く「5G」林哲史さん
日経BP総研 コンサルティング局長

2019年、いよいよ日本でもプレサービスが開始される、次世代の移動通信システム「5G」。本格的な商用化に向けて期待が高まるが、「結局、5Gで何ができるのか?」という素朴な疑問を抱えている人も少なくないだろう。今なぜ5Gが注目され、今後社会をどのように変えるのか。日経BP総研 コンサルティング局長の林 哲史さんに聞いた。

5Gは「モノ」とつながることで真価を発揮する

写真: 林哲史さん 林 哲史(はやし てつし)
日経BP総研 コンサルティング局長
1985年東北大学工学部卒業。同年日経BPに入社。『日経バイト』『日経NETWORK』『日経コミュニケーション』の編集長、『ITpro』『日経テクノロジーオンライン』『日経Automotive』の発行人を経て、2014年海外事業本部長に。15年9月より現職。

通信の規格は、およそ10年単位で変わっています。アナログ携帯電話(1G)→デジタル携帯電話(2G)→デジタル携帯電話によるデータ通信(3G)→スマートフォンによるデータ通信(4G)にそれぞれ対応するよう、規格は進化を遂げてきました。2019年に5Gが登場したということは、2030年に6Gが来るのは既定路線であり、すでにその開発も始まっています。毎回、「次の世代はどうしようか?」といった具合で、10年も前から次の規格の準備をしているのです。

5Gの開発がスタートしたのは、時代が4Gに突入した頃。4Gは、スマートフォンのようなデバイスの普及を見越して、「携帯電話でも動画や音楽などのリッチなコンテンツが楽しめればいいのでは?」という発想でつくられました。では、次の5Gはどんな未来を見据えて開発されたのか。今、IoT(Internet of Things)という言葉がありますが、「スマートフォンに限らず、あらゆるモノで通信ができるようになるといいよね」という発想で始まったのが5Gです。

5Gのメリットの筆頭に挙げられるのは、4Gと比較して「10倍以上の超高速・大容量通信」や「10分の1以下となる超低遅延」ですが、これらは、つながる先が「人」ではなく「機械」であるからこそ生きるスペックです。一般のユーザーがスマートフォンで動画を楽しんだりする分には、今以上の高速通信は絶対に必要というわけではありません。しかし、機械であれば、人間が感知できる以上の情報やスピードに対応できます。

5G通信が生きる分野の代表が、自動車です。自動運転システムでは、緻密なデジタル地図を受信しながら走行する一方で、車載のカメラやセンサーから得た情報をクラウドに送信してフィードバックを行います。膨大な量のデータがやりとりされるため、通信はより大容量で、より高速であるほど望ましいというわけです。

工場などでは、生産ラインを制御する回線を有線から5Gにしようという動きが見られます。これにより、ラインの組み立てが変わるたびに有線を引き直すという手間が解消され、「低遅延で途切れにくい」という5Gの特性を生かすことができます。

もう一つ、5Gで忘れてはならない特長が「多数同時接続」です。5Gで同時接続できる端末数は、4Gの実に100倍。この性能を生かせば、例えばスポーツ観戦やコンサートなどでは、自分の席とは違う角度や特定のポジション・人物に寄った映像を手元のデバイスで確認するなど、「別視点の動画配信」を組み合わせることでリアルな場の価値を高めることができます。スタジアムなどの大規模な施設で数万人の観客が同時に接続しても持ちこたえられるのは、5Gならではの強みといえるでしょう。

「ローカル5G」が5Gブレークの起爆剤

留意しておきたいのは、前出で紹介したような5Gの機能が、必ずしも全て同時に実現するわけではないという点です。フルスペックを追求するとコストが掛かり過ぎるため、用途に応じて「このネットワークは超高速だけ」「こちらは低遅延だけ」というように使い分ける形になるでしょう。

総務省は大手通信キャリアに5Gの電波を割り当てていますが、その際の条件として、「全都道府県で5Gのサービスを提供すること」を義務付けています。しかし、全基地局がフルスペックになるとは考えにくいため、大半の基地局では一般ユーザー向けに「超高速・大容量」の機能のみを実装することになるのではないでしょうか。

そこで注目されるのが、「ローカル5G」というアイデアです。これは、一般の企業などが限られたエリア内で5Gの電波の割り当てを受け、自営無線として利用できるというもの。ローカル5Gでは施設の用途に応じて、「工場内のネットワークに使用するので、大容量は必要ないが低遅延はマスト」といった具合に回線のスペックをカスタマイズすることも可能になるでしょう。工場に限らず、テーマパークやスタジアム、商業施設や病院など、個別の5G環境が求められる施設は多く、ローカル5Gこそが5Gブレークの起爆剤になると見る動きも少なくありません。

モバイル通信の変遷と「5G」の特長

写真:モバイル通信の変遷と「5G」の特長

「ローカル5G」とは?
工場、建設現場、商業施設など、限られたエリアの中で5Gの通信環境を構築し、各施設が自前で運用すること。施設や産業ごとのニーズに細かく対応できるといわれる。また、土砂災害の多い特定地域の土壌を、5Gによるセンサーでリアルタイムに監視するといった防災を目的とした活用も期待されている。

「データ」を活用した新たなビジネスが続々登場

5G時代のキーワードとして、近年耳にするのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉です。あらゆるモノがインターネットでつながる5G時代には、モノに搭載されたセンサーから、膨大なデータを取得することが可能になります。

例えば、自動車などの分野で注目されている「デジタルツイン」というテクノロジーがあります。10台の新車があれば、走り方次第で10通りの経年変化があるもの。その変化を自動車に搭載したセンサーによってトラッキングし、デジタル空間上にリアルタイムでその状態を再現。そのデータから、さまざまな状況把握や予測を行うのがデジタルツインです。これにより、「1年たったから何々を交換してください」といったアバウトなアラートを出す代わりに、1台1台の今の状況に応じたきめ細かいメンテナンスを、サブスクリプションサービスとして提供することが可能になります。

このように、「従来は存在しなかったデータ」を活用した新しいビジネスが続々と登場するのがDXであり、5Gとはその高度な機能により、制約なしにDXを考えることができる環境を提供するものです。ただ単に「新しい通信規格」ということではなく、データを活用するさまざまなマーケットを底上げし、社会を新たなフェーズへと押し上げる原動力としての役割が、5Gには期待されているのです。

新しい規格がスタートしたからといって、すぐに世の中が変わるわけではありません。ただ、10年かけて5Gが普及していく中で、モノやサービスの「ルール」が大きく変わるのは必至。急がずとも、そこに参加するための準備をしておくことが重要なのです。

「デジタルツイン」の活用例

画像:「デジタルツイン」の活用例

文字通り、そのモノの"双子"をコンピューター上にデジタルで再現する「デジタルツイン」。現実世界のモノに搭載した各種センサーから得た劣化状況などのデータを、リアルタイムにデジタル空間のモノへ伝達。そこから必要なメンテナンス等を予測して、適切なサービスを提供するといった、新たなビジネスモデルの構築が期待されている。

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    インタビュー1 「5G×ビジネス」
    「動画」が主導する5G時代の「マーケティングの未来」
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