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5Gではじまるゲームチェンジ

昨今、さまざまなメディアで頻繁に目にする「5G」。「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」などを実現する次世代の移動通信システムとして注目を浴びており、世の中に与えるインパクトは、通信のみならず、ビジネスや社会の在り方までも変えてしまうと予測されている。5Gがもたらすであろう変化をいち早く捉え、新たな取り組みを進めるキーパーソンに話を聞き、5Gの本質を読み解く。

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  • 2019.09.01

5Gではじまるゲームチェンジ

インタビュー2 「5G×地方創生」
完全自動化ではなく、人間ドリブンの5G活用を
野村総合研究所

高齢化が進む地方では、都市部にいながらにして地場産業を「遠隔制御」で運営するための手段として、5Gに期待が寄せられている。果たして5Gは地方創生の突破口になり得るのか? 福島県会津若松市をフィールドとした、野村総合研究所による実証プロジェクトの全貌に迫る。

複雑な酒造りの状態変化を遠隔からモニタリング

写真: 亀井卓也さん 亀井 卓也(かめい たくや)
野村総合研究所
ICTメディア・サービス産業
コンサルティング部
テレコム・メディアグループマネージャー
東京大学大学院工学系研究科修了後、2005年に野村総合研究所入社。現在は情報通信業界における経営管理、事業戦略・技術戦略の立案、および中央官庁の制度設計支援に従事。著書に『5Gビジネス』(日本経済新聞出版社)。

「福島県は日本有数の酒どころとして知られ、数十もの蔵元がしのぎを削るエリアです。しかし近年では、高齢化と後継者不足に苦しんできました。酒造りの工程では、醸造所に日々朝早く通う必要がありますが、職人さんが住んでいるのは会津若松市内。高齢になるほど遠くの職場に行くことが負担になりますし、まして若い人は当然ながら都市部で働きたい。そこで、5GとIoTによる遠隔制御をソリューションとして提供できないかというアイデアが浮上したのです」

そう話すのは、会津若松市での酒造りプロジェクトを主導した野村総合研究所の亀井卓也さん。実証実験は、市内から車で約30分の距離にある「榮川(えいせん)酒造」(磐梯町)の協力を得て行われた。

「遠隔制御による酒造りのポイントは『動画』。伝統産業では、数値データに加えて、職人による暗黙知で管理が行われています。酒造りの場合も、発酵の進み具合を泡の様子で確認するなど、『状態の変化を視認する』というプロセスが欠かせません。そのために、杜氏(とうじ)さんが早朝に出勤して、毎日欠かさず状態をチェックしているわけです。しかし、それを高解像度の動画で確認することができれば、毎日蔵に張り付く必要はなくなります。また、酒造りに使われる米も、今は種の膨らみなどの生育状況を人の目で見て判断していますが、いずれはドローンによる遠隔監視と画像解析などを通じて、適切な収穫時期を通知してくれるようなシステムをつくりたいと思っています」

人とテクノロジーの共存が地方創生のカギ

もっとも、当初は職人の多くがテクノロジーの導入に難色を示したという。

「会津若松市には杜氏を育成する『清酒アカデミー』があるのですが、そこの責任者と最初に実証内容をお話しした時も『昔、醸造工程を撮影してみたことはあるが、動画では全然発酵の進み具合が分からなかった』とおっしゃっていました。そこで、ひとまず『遠隔制御はさておき、次世代にノウハウを残すために動画撮影だけでもさせてください』というアプローチでスタートしたのです。結果、4Kの高解像度なら十分に状態監視に使えることが分かり、現地の方々にも理解を得られるようになりました。今後、5Gに対応する4Kカメラが登場すれば、より安定した映像伝達が可能になります」

技術が進歩すれば、AIに映像を解析させ、しかるべきタイミングでかき混ぜたり割水を加えたり……という具合に全ての工程を自動化することも可能だ。とはいえ、「それはプロジェクトの目的ではない」と亀井さんは話す。

「全てを自動化してしまうと、ブランドバリューのない画一化された商品になってしまいます。伝統産業においては、『造り手のストーリーを、販売員が自信を持って語れること』が非常に重要。私たちが意識したのも『人をどのように生かすか』という点でした」

  • 画像: 発酵させる過程 発酵させる過程では、もろみの表面にできる「筋泡」や「岩泡」といった泡の状態を見極めることが重要になる。"杜氏の目"を4K動画でいかに補えるかが検証のポイントとなる
  • 画像: ドローンを使った遠隔監視と画像解析ドローンを使い、遠隔監視と画像解析を行うことで、生育状況や施肥の最適なタイミングの把握、収穫時期の早期検知などが検証された

VRによるプロモーションが5Gを活性化させる

写真: VRによる酒造ツアー 製造現場とそこに携わる人を、その場で見ることができる一般的な酒造ツアーでは、お土産として商品を買っていく人が多い。VRを使えば、遠隔地にいる消費者にも同様の体験をリアルタイムで提供できる

自動化といえば「人の仕事を奪うもの」というイメージが先行しているが、「自動化によって時間に余裕が生まれることで、これまで携わる機会のなかった新しい仕事に触れるチャンスが増える」と亀井さんは考えている。

「これまでは造り手でしかなかった職人さんが、今後は販売の現場に立って、お客さまを相手にプロダクトへの熱い想いを存分に語ることもできます。単に造り手の作業を楽にするためのテクノロジーではなく、造り手が最終的な商品にまで責任を持ち、顧客との接点にリソースを使えるようになるためのテクノロジーでありたい。やはり、人とのやりとりは人間にしかできない仕事ですから」

そんな「販売」の現場でも、5Gが大いに活用されることになるだろう。

「私たちが構想しているのは、VRによる試飲会です。よくある試飲会では、造り手による説明動画をモニターで流したりするのですが、やはり説明員が直接お客さまに説明した方がよく売れる。実験ではVRカメラにマイクを付けインターネット電話に接続し、試飲会場にいるお客さまが遠い福島にいる榮川酒造の経営者と、あたかもその場で話しているような感覚になれる仕掛けを用意しました。これは最先端の試みだと思います。結果、やはり『インタラクティブ』がカギなのだと確信できました。インタラクティブかつリアルタイムなプロモーションを行う上でも、高速で安定している5Gの活用はベストだと実感しましたね」

地方に住む人々が全国の試飲会に出向くのには限界があるが、VRなら1日に日本中の何カ所でも同時に試飲会が開催できる。また、360度カメラで工場の様子を撮影するだけで立派なコンテンツになるため、中小の生産者でもさほどコストを掛けずにPRが可能だ。

「5Gを盛り上げ、人口の少ない所に需要をつくっていく。そうするとさらに5Gの通信環境が充実し、新たな需要が生まれる。この好循環をつくることができれば、地方創生は実現されると思います。デジタルで地方を活性化させたい。その力が5Gにはあると考えています」

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    インタビュー1 「5G×ビジネス」
    「動画」が主導する5G時代の「マーケティングの未来」
    「NewsTV」
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    インタビュー3 「5G×物流」
    人手不足解消の決め手は、5Gを活用した「自動運転」
    「先進モビリティ」

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