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トップ > 特集 5Gではじまるゲームチェンジ > P5
昨今、さまざまなメディアで頻繁に目にする「5G」。「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」などを実現する次世代の移動通信システムとして注目を浴びており、世の中に与えるインパクトは、通信のみならず、ビジネスや社会の在り方までも変えてしまうと予測されている。5Gがもたらすであろう変化をいち早く捉え、新たな取り組みを進めるキーパーソンに話を聞き、5Gの本質を読み解く。
従来では考えられなかったさまざまな形式で、データのやりとりが可能になる5G時代。その中で「人の体の感覚や動きを遠隔から伝える」という試みが注目されている。 H2L社が開発したこの新たな技術はどんな未来をもたらすのだろうか?
映像では「視覚」と「聴覚」による情報を伝えられるが、ここに「第3の感覚」として「触感」を加えれば、さらにリアルな体験を伝えることができる。そんな発想で誕生したのが、H2Lが開発する「BodySharing」技術だ。
「現状は、手の感覚を中心に研究を進めています。仕組みとしては、筋変位センサーで筋肉の動きを読み取り、データ化して送受信するというもの。受け取る側は、腕に巻いたデバイスを通して筋肉に電気刺激を受けることで、送る側の手の動きや重み、圧力といった感覚を追体験できます。同様に、人の手の繊細な動きをロボットに正確に伝えることも可能になります」
こう説明するのは、H2Lの代表取締役である岩崎健一郎さん。この技術の活用が想定されるシーンは、主に三つあるという。一つ目は、「人とバーチャルをつなぐシーン」だ。
「現状のVRやARでは、見聞きはできても触ることはできません。BodySharing技術によって、バーチャルの中でも"手応え"を感じられるようになれば、例えばゲームの世界などでよりリアルな体感ができるようになります」
二つ目は「人とロボットをつなぐシーン」。同社では、その具体的な一例として、BodySharing技術を活用したカヤック体験の開発を行っている。
「これは遠隔地からのオール操作によって、実際に沖縄にあるカヤックを、ロボットを通じて動かそうというものです。現状の4G環境下でも、万が一タイムラグが生じても問題のない比較的スローな作業でロボット遠隔操作は活用されています。ただ、4Gの場合、例えば急に波が来て、操縦者がとっさにカヤックの向きを変えても、その反応がカヤックに伝わる前に転覆してしまいます。その点、超低遅延の5Gなら、人間のアクティブな反応にも時差なく対応することが可能です。今後は、これに限らず活用の幅が大きく広がっていくでしょう」
最後が「人と人をつなぐシーン」だ。
「人から人への動きの伝達が可能になる場合、考えられる応用例としてスポーツがあります。例えばゴルフなら、BodySharing技術で『パターを振る強さ』や『クラブを握る力加減』といった情報まで伝えることができます。これまで『手取り足取り』で教えていた情報をデータで伝達できれば、ゴルフ教室やスポーツジムなども、土地に縛られずにビジネスを展開できると思います」
5Gの波に乗って技術が普及し、より多くのデータが集められるようになれば、さらに精緻な動作の再現を行うことが可能になるという。いつか"神の手"を持つ医師のメスさばきや、天才ピアニストの指遣いを万人が身に付けられる日が到来するかもしれない。
2016年、一般向けに販売された触感型ゲームローラー「UnlimitedHand」(左・PC対応)と「FirstVR」(右・スマートフォン対応)。いずれもBodySharing技術によって手の動きやジェスチャーをVRコンテンツやロボット操作に反映させるもの。まずはエンターテインメントの分野から、技術の普及を目指している
ロボットアームを動かしたり(左)、沖縄にあるカヤックを東京で漕いだり(右)と、さまざまな遠隔操作が可能に。手の筋肉や神経の構造は、人体の中でも複雑なため、手の技術が完成すれば全身への応用も期待できるという