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その道は、「デジタルトランスフォーメーション」へと続く! データドリブン社会の進み方

ビッグデータの発展に伴い、ビジネスのあらゆる局面で、データに基づく判断やアクション(データドリブン)が求められるようになった。こうしたデータ活用は、次代の合言葉である「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、すなわち「デジタル時代に対応した企業変革」に欠かせないアプローチである。しかし、実際どのようにデータを生かせばいいのか、途方に暮れている企業も少なくない。本特集では、ビジネスと学問、それぞれの現場におけるデータ活用の最前線に迫る。

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  • 2019.12.01

その道は、「デジタルトランスフォーメーション」へと続く!
データドリブン社会の進み方

general remarks1「データドリブン経営」の成否を分けるポイントとは?

デジタル化の波の中、あらゆるビジネスで「ゲームチェンジ」が起きている。この波に対応するカギの一つが「データドリブン経営」だ。しかし、さまざまな企業がデータを経営に活用しようと取り組んでいるにもかかわらず、成功している企業はわずかだと話すのは、多摩大学大学院 客員教授の前田英志さん。データドリブン経営の「成否」は、どのようにして決まるのだろうか。

データドリブン経営はあらゆる企業に必要

写真: 前田英志さん 前田 英志(まえだ ひでし)
多摩大学大学院 客員教授
東京大学大学院修了(機械工学)、一橋大学国際企業戦略科修了(MBA)。専門は技術戦略とビジネスアナリティクス。日本アイ・ビー・エムの戦略コンサルティンググループにおいても、データ戦略策定やデータ活用型組織変革などを通じ、企業の変革を包括的に支援。著書に『IBMを強くした「アナリティクス」』(共著、日経BP社)

「データドリブン経営」とは、従来の「KKD(勘・経験・度胸)経営」に対し、勘と経験の代わりに「データ」と「アルゴリズム」を用いて客観性の高い経営判断を行うことだ。

「最初に断っておきたいのですが、これはKKD経営よりもデータドリブン経営の方が優れているという話ではありません。新しいビジネスに挑戦するような局面では、経営者のひらめきによって事業が一気に拡大するといったこともよくあります。ただ、伸び悩んでいるときにひたすら勘と経験に頼っていても打破するのは難しい。今の日本企業は『KKD』に偏り過ぎているため、今後5~10年はデータドリブン経営に注力し、両者のバランスを取っていく必要があると考えています」

これは、規模や業種に関係なく、あらゆる業界・企業に対していえることだという。

「既存産業の中では現在、小売業が最もデータドリブン経営に積極的な姿勢を見せています。しかし、遅かれ早かれ、どの業界のどの企業も取り組まざるを得なくなるでしょう。同じ業界の中にデータドリブン経営を行っている企業があれば、そうでないライバル企業の勝ち目は少ないからです」

画像:「KKD経営」と「データドリブン経営」の概念

「KKD経営」と「データドリブン経営」の概念
「KKD経営」と「データドリブン経営」は対立する概念だが、どちらかが優れているというわけではない。経営状況や局面によっては、暗黙知に頼る必要性もあるため、その時々でどちらを重視するかというバランスが大切になる。

日本企業の約6割は「入門レベル」で停滞

しかしながら、多くの企業がデータドリブン経営の導入に「挫折」しているのは冒頭で述べた通り。

「最大の壁は『組織の縦割り』です。データドリブン経営を推進するには、システムの整備、プロジェクトの策定、人材の育成など、複数の取り組みを同時に行わなければなりません。この際、システムはシステム部門が担い、プロジェクトは経営企画部門が進めるといった具合に、組織の中に『壁』のある状態で進めても、なかなか成果は出せません」

データドリブン経営の肝である「データ(データ管理)」と「アルゴリズム(データ分析)」について、それぞれにどの程度熟練しているかを2軸に取ってマッピングすると、データドリブン経営のレベルが分かる(下図参照)。目指すべきは、どちらの軸でも熟練した「変革レベル」だが、日本企業の約6割は残念ながら「入門レベル」にとどまっているのが現状だと、前田さんは指摘する。

「変革レベルのイメージは、"アルゴリズム"の軸でいうと、組織の中枢に近い位置で優秀なデータサイエンティストたちが配置されており、経営者が彼らに課題を相談すれば、データを基に高度なレベルで素早くその課題を解いてくれる状態です。また、"データ"の軸で考えると、非公表データも含めて全社でデータが統合されている状態。例えば飲食業界の企業で、粗利益率が1ポイント落ちたとき、データを見れば『ホタテが値上がりしたからだ』と、原因特定までを一気にできるイメージです。そのようなレベルの企業に、エクセルでデータを管理していたり、データサイエンティストがいるのかも分からなかったりする企業が太刀打ちできるかは、言うまでもないでしょう」

日本企業の「データドリブン経営」の現状

画像:日本企業の「データドリブン経営」の現状

※データレイク:さまざまなデータソースから集められたデータを管理・格納し、活用するための前処理を行える環境

データドリブン経営で進む「2つのルート」

前出のマッピングで変革レベルを目指すには、データとアルゴリズムのどちらを先に伸ばすかで、2つのルートに分かれる。先にアルゴリズム(データ分析)の熟練を目指す場合は、「個別深化ルート」だ。

「個別のプロジェクトでデータ分析を実施し、ある程度成果が出た段階で、全社的なデータ管理を進めていきます。初期費用が低く抑えられるというメリットがあるため、日本企業の大半はこのルートを選択しています」

しかし、個別深化ルートには思わぬ落とし穴があるという。

「ある程度成果が上がると、自分の業績だけを伸ばす手段として、データを囲い込もうと考える人間が必ず出てくるのです。それを回避するには、データは会社全体の資産であり、皆で使えば使うほど価値が出るのだということを、全ての社員に周知させた上で進めていく必要があります」

一方、先に全社のデータ管理基盤の構築を目指すのが、「統合管理ルート」だ。

「実は、個別深化ルートは最初の一歩を踏み出すのが大変なのです。いろいろな所からデータをかき集めてこなければならず、そのデータには異常値も混じっている。それならまず、きれいなデータが使える環境を先につくっておこうという発想ですね」

ただし、統合管理ルートにも落とし穴がある。

「システムを作ってデータを集めただけでは何も起こりません。統合管理ルートの成否の分かれ目は、どれだけ骨太な課題を設定して、ビジネス価値の高いユースケースを実現できるかという点にあります。とりあえずシステムを作れば誰かが使ってくれるだろうという安易な発想では、コストがかかる割にほとんど成果が出ないため、その先に進むことは難しいでしょう」

データサイエンスは「スポーツ」である

個別深化ルートと統合管理ルートについても、どちらが優れているという話ではない。

「何よりも重要なのは、変革レベルに到達した自社の姿をどう描くのか。まずは何年後にどうなっていたいかというマイルストーンを想定。そして、それを実現するために、自分の会社ならどちらのルートを選択して進むのが現実的なのかを考えるべきです」

社内にデータドリブン経営を根付かせるには、「データサイエンスは学問というより、むしろスポーツであるという考え方もポイントになる」と、前田さんは続ける。

「データドリブン経営とは、データサイエンスを活用してビジネス課題を解くという営みの繰り返しです。日本人は勉強が好きなので、講座に参加しただけで満足してしまうところがあります。しかし、スポーツの成長に必要なのは、座学ではなく実戦の『試合』。社内でデータサイエンティストを育成するには、経営者が候補者に対し、リアルな課題を与えて本気でデータ分析に取り組める場を、積極的につくる必要があるでしょう」

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