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その道は、「デジタルトランスフォーメーション」へと続く! データドリブン社会の進み方

ビッグデータの発展に伴い、ビジネスのあらゆる局面で、データに基づく判断やアクション(データドリブン)が求められるようになった。こうしたデータ活用は、次代の合言葉である「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、すなわち「デジタル時代に対応した企業変革」に欠かせないアプローチである。しかし、実際どのようにデータを生かせばいいのか、途方に暮れている企業も少なくない。本特集では、ビジネスと学問、それぞれの現場におけるデータ活用の最前線に迫る。

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  • 2019.12.01

その道は、「デジタルトランスフォーメーション」へと続く!
データドリブン社会の進み方

ケーススタディ1
「入門ツール」からデータ分析の裾野を広げる
Agoop

ビッグデータという言葉が世に浸透して久しいが、データを活用しきれている日本企業はまだまだ少ない。そんな現状を打破するため、データ活用のハードルを下げようと取り組むのが、ソフトバンクのグループ会社であるAgoop(アグープ)だ。同社が提供している、「人流データ」を用いたサービスについて話を聞いた。

データ分析の可能性を広げる「人流データ」

写真: 柴山和久さん 柴山 和久(しばやま かずひさ)
株式会社 Agoop
代表取締役社長 兼 CEO

「大小さまざまですが、企業であればどこでも、何かしらのデータというものを持っているでしょう。しかし、各企業が抱えているデータだけで分析を行うには限界があります」と話すのは、Agoopの代表取締役社長 兼 CEOの柴山和久さんだ。

例えば、コンビニなどの小売事業者はPOSレジのデータを持っているだろう。それを使って売り上げの変化の原因を分析する際、そもそも店舗の周辺に、売り上げを形成する客となり得る人の往来が多いのか、少ないのかという比較対象条件のデータがなければ、正確な解は得られない。そこでカギとなってくるのが「位置情報データ」、とりわけ人の移動情報を捉えた「人流データ」だ。

Agoopはスマートフォン向けアプリを通じて、世界249の国と地域における2000万人のユーザーの承諾を得て、スマートフォン端末から直に、その位置情報を取得している。集まってくるデータは月間でおよそ210億件。

「端末から得られるデータは、携帯電話の基地局から得られるデータと比べて、ユーザーの位置情報が誤差数メートルのポイントで取得できるのが強み。また、どちらの方向に向かって移動しているのかという"人の流れ"まで、リアルタイムで把握できます」

つまり、「駅の北口と南口を利用する人の数や流れ」といった細かいレベルで人の動きを比較して、出店場所の判断材料にしたり、郊外のアウトレットモールで客がどのエリアから来店しているのかを把握したり、新聞の折り込みチラシなどを効率的に挟み込んだりすることが可能になるのだ。

防災・観光・都市計画と幅広い用途に期待

写真: 人流データ 「人流データ」の基となるスマートフォンの対象アプリは約50種類ある。そのユーザーは日本だけで150万人以上、世界では2000万人以上。ここから全世界の人の流れを把握し、データ化している

人流データの活用は、先に挙げた商圏分析のほか、公共政策の場面でも大いに期待されている。

「その筆頭が防災計画です。スマートフォンはセンサー情報の塊(かたまり)なので、GPSによる位置情報に加え、加速度センサーの情報から移動手段も絞り込める。例えば、災害が発生した際に『電車が止まって人が徒歩で移動を始めた』ということまでリアルタイムで分かるのです。過去の災害発生時の状況を踏まえれば、『帰宅難民が多く通るルートのコンビニでは水の在庫を万全にする』といった具合に、次の災害への対策を打つことも可能。また、『高速道路が渋滞して旧道が迂回路に使われているが、近くのダムが決壊すれば二次災害に発展する恐れがあるため、通行止めにする』という判断を即時に下すこともできます」

さらに、人流データは汎用性が高く、観光政策や都市計画などにも広く活用できるという。

「普段取得しているデータを選別し、該当エリア内で生活している人と、毎日通っている人(通勤・通学者)を除けば、観光客を抽出できます。海外在住のユーザーのデータから、インバウンドの傾向を見ることも可能。同じ京都でも、アジア人は清水寺や伏見稲荷大社などのランドマークを好みますが、欧米人は祇園四条や錦市場などカルチャーを体験できる場所を好みます。こうした傾向を把握しておくことは、有効な観光政策を立てる上でも重要になるでしょう」

データ分析の「ハードル」を下げたい

2019年秋、Agoopは「Papilio(パピリオ)」というサービスをリリースした。これは、簡易的な解析ツールに同社の位置情報データを組み込んだダッシュボードシステムで、年間30万円~という低コストで提供するものだ。

「訓練を受けたデータサイエンティストは、ごく限られた組織にしか在籍していないのが実情です。ほとんどの自治体や企業では、データ提供会社からデータを購入しても、扱い方が分からない。すると、データに多額のコストをかけたにもかかわらず、何の成果も上げられないことになり、そのうち誰も使わなくなってしまうのです」

そこで、データ分析の入り口のハードルを下げようというのが「パピリオ」の狙いだ。BIツール(※)などを勉強したことがない人でも、ワンクリックで統計解析を行い、レポートを作成できる。入門編だけに、何でも解析できるわけではないが、「ある時期、ある場所にどのくらいの人がいたか」「その人たちはどこから来たのか」など、位置情報から解析できる汎用的なパターンはおおむね網羅されている。また、エリアや時間の範囲、分析対象の条件(居住者、観光客など)も、細かく絞り込むことが可能だ。

「データ分析のノウハウがなくても、何かしらの課題意識を持っている人であれば、それに即した解析がある程度はできるようになっています。いろいろと触ってみて、条件を変えて分析してみることで、何らかの気付きが生まれることもあるでしょう。そこで、『こういう使い方ができるかもしれない』というイメージを持ってもらうのがわれわれの狙い。それを入り口に、専門的な分析にシフトしていくという道筋を提示したいのです」

現場レベルで入門ツールを"お試し"してみて、使い方のイメージがつかめてから、それを説得材料に本格的なシステムの導入を進言するのも、上層部を説得する術としては有効だろう。

「データサイエンスをバズワードで終わらせず、きちんと社会に浸透させていくのが、当社の使命だと考えています」

  • ※ BIツール(Business Intelligence tools):企業に日々蓄積されていく膨大なデータを集めて分析し、その結果を経営の意思決定に役立てるシステムの総称
画像:パピリオ

「パピリオ」は、人の流れをグラフで可視化する統計解析の定型レポートサービス。任意のエリアの時間帯別人口推移や移動導線、Origin Destination(どこから来たか)などのデータが定期配信される。条件を設定すれば、知りたい統計情報を簡単に確認することが可能。観光振興や新規出店計画、イベント分析などでの定量的な指標として、誰でも活用できる

画像:Kompreno

Agoopでは「Kompreno®(コンプレノ)」というサービスも提供している。これは、世界の200以上の国と地域における、3分前から2週間前までの「流動人口データ」を、地図やグラフなどで可視化。Webブラウザでいつでも簡単に確認・分析できるシステムだ

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    顧客の行動履歴を分析し、購買につながる情報を届ける
    「日本航空」

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