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その道は、「デジタルトランスフォーメーション」へと続く! データドリブン社会の進み方

ビッグデータの発展に伴い、ビジネスのあらゆる局面で、データに基づく判断やアクション(データドリブン)が求められるようになった。こうしたデータ活用は、次代の合言葉である「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、すなわち「デジタル時代に対応した企業変革」に欠かせないアプローチである。しかし、実際どのようにデータを生かせばいいのか、途方に暮れている企業も少なくない。本特集では、ビジネスと学問、それぞれの現場におけるデータ活用の最前線に迫る。

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  • 2019.12.01

その道は、「デジタルトランスフォーメーション」へと続く!
データドリブン社会の進み方

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データサイエンティストの育成と彼らを活躍させる組織の在り方

遅かれ早かれ、あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を迫られることになる。そんな時代にあって、データサイエンティストの育成は急務といえるだろう。企業で長らくデータ分析を主導し、現在は滋賀大学 データサイエンス学部の教授として人材育成に取り組む 河本 薫さんに、最前線の取り組みを聞いた。

実際のビジネス課題に触れ、問題解決力を磨く

写真: 河本薫さん 河本 薫(かわもと かおる)
滋賀大学 データサイエンス学部教授
兼 データサイエンス教育研究センター
副センター長
京都大学応用システム科学専攻修了。大阪ガスに入社し、データ分析による業務改革を推進。2011年からデータ分析組織であるビジネスアナリシスセンターの所長を務めた。13年には日経情報ストラテジーが選ぶ「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」を受賞。18年4月より現職。著書に『最強のデータ分析組織』(日経BP)など

データサイエンス教育のアプローチとして、河本さんが最も重視しているのは「早い段階からビジネスを意識させること」だ。

「目指しているのは、研究者を出すことではなく、将来"データサイエンスが得意なビジネスパーソン"として、実務で力を発揮できるような人材を輩出することです。"分かる"ということと"役立つ"ということは全くの別物。知識が"役立つ"感覚を実感してもらうには、ビジネス上の課題をデータ分析によって解き、実際に解決まで至らせるというプロセスを一気通貫で体験できる場をつくらなくてはなりません。医学部における附属病院に相当する実習の場が、データサイエンスにも必要なのです」

そのために、河本さんのゼミでは企業と連携した体験型プロジェクトを積極的に取り入れている。

「2019年の上期は、自動車メーカーと組んで、車のデータ計測から燃費を分析する授業を行いました。まずは彦根城の周辺で実車を走らせて各種のデータを取得。その分析によって、最も燃費が良い走り方を導き出して競い合うというものです。学生たちは、どんなデータを取り分析するのかということから自分たちで考えなくてはなりません。データサイエンティストに求められるのは"正解"のない問題を解く能力です。小学校から高校まで、正解を解くための教育を中心に学習してきた学生たちの価値観を覆すためにも、早い段階からこうした実際のビジネス課題に触れてもらう機会が欠かせないのです」

画像:河本さんが取り組むデータサイエンス教育のアプローチ

河本さんが取り組むデータサイエンス教育のアプローチ
データサイエンス学部では、実務経験を積める医学部のように、産学連携によりデータ分析を駆使して、リアルなビジネス課題を学生たちに解決させるプログラムを実施。これを通じて、「企業が本当に求めている人材=データサイエンスが得意なビジネスパーソン」の育成を目指している。

視野を広げるために多種多様な分野に触れる

実務で力を発揮できるデータサイエンティストの条件として、河本さんが筆頭に挙げるのは「一般教養」だ。

「高校で物理、化学、地理といった科目をどれだけ勉強してきたかで大きく差がつきます。データ分析を行うには、課題解決までのプロセスでさまざまな仮説を立てる必要があり、そのためには一般教養が不可欠。無機質な数字だけを見ていても、あらゆる可能性を探り、多方面からの仮説を立てることはできません」

もう一つ、狭義でのスキルとして、「プログラミング」の知識は大学で身に付けておいた方がよいと話す。

「できない人はお金を出して外注しなくてはいけませんが、自分でプログラミングができれば、スピーディーにいろいろな分析を試すことができます。これによって、データ活用の幅が大きく変わってくるのです」

データサイエンティストというと理系のイメージが強いが、河本さんのゼミには文系入試で入学した学生も多い。

「数学は苦手だが分析は得意だという人はいるものです。とりわけマーケティングの分野では、数学ができなくても成果を出せる人が多い。データサイエンスが活用できる分野も、個人の得意分野も多様。ですからデータサイエンティストという職種も、もっと多義的に捉えるべきだと考えています」

多様性を学生に示すのも、大学にしかできない役割だと河本さんは話す。

「マーケティングを志望する学生に、マーケティングだけを勉強してもらいたくはないのです。そういう学生にこそ、製造や金融などの志望外のジャンルのデータにも触れてもらい、『同じデータ分析でもこうも違うのか』と視野を広げてほしい。そのような経験があれば、マーケティングの世界に飛び込んだ際に、より俯瞰した視点を持つことができると思うのです」

トップと若手をつなぐミドル世代の役割は重要

昨今、企業ではデータ部門を新設する動きも増えてきた。学生時代の記憶も薄れつつある40~50代のミドル世代は、この流れとどう向き合っていくべきなのだろうか。

「40代以降の人が今から本格的にプログラミングを学ぶのは、現実的に難しいものだと思います。ですから、若い世代が心置きなく会社の課題解決に取り組める環境を積極的に整え、サポートに徹するべきです。会社組織の中でデータ活用を推進するのに、中間管理職の役割は非常に大切です。というのも、今の日本企業では経営者と現場のデータサイエンティストが分断されていることが多く、企業変革につながる提案がなかなかトップまで上がらないからです。ミドル世代には、若手の提案をトップに向けてプレゼンテーションするトランスレーターの役割を積極的に担ってほしいですね」

優秀なデータサイエンティストを生かすも殺すも組織次第。これまで以上に組織マネジメントの在り方が問われているといえるだろう。

「デジタル時代はゲームチェンジの時代です。何が正解か分からない時代に、従来の管理型のマネジメントは通用しません。経営者には、全てを自分でハンドリングすることは不可能だと自覚した上で、ある程度は治外法権的に社員の自律性を重んじる度量が求められます。今後、避けては通れないDXを実現していく上で、最終的にカギになるのは"人"なのです。自律的に動ける環境と、自由な発想を受け入れる社内風土が人を育て、ひいては業務プロセスの変革や、新たなビジネスモデルの創出にもつながっていくのです」

各方面から熱い注目を浴びるデータサイエンスだが、「AI」や「IoT」などと同様、バズワードとして独り歩きしていることを河本さんは懸念する。

「データサイエンスもAIも、デジタル時代を生き延びるていくための、いくつもある『手段』の一つにすぎません。本来の目的は"DXの実現"である、ということを忘れずに、データ活用の取り組みを進めることが最も重要だといえるでしょう」

  • 写真:データサイエンティストを生かす組織構造のイメージ

    データサイエンティストを生かす組織構造のイメージ

    企業組織の中では、データサイエンティストはボトムに位置しており、基本的にはすでに顕在化されている課題を解決する。ミドルに位置する中間管理職が、ボトム層の提案をきちんとトップの経営層に伝えることができれば、経営に直結する潜在課題を解決することも可能になるだろう。
  • 写真:DXとテクノロジーの関係性

    DXとテクノロジーの関係性

    昨今は「AI」や「IoT」といった、テクノロジーに関するキーワードが浸透しているが、そのキーワードが"目的"となっている企業も少なくない。これらはあくまで、「DX」という目的を達成するための"手段"なのである。
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