カテゴリーを選択
トップ > 特集 注目のキーワードから次の一手を読み解く! マーケティングトレンド2021 > P2
新型コロナウイルス感染症の影響で、社会のトレンドや消費者の価値観が大きく変化した2020年。いまだに不確実な情勢は続くが、2021年はどのようなトレンドが予測され、それに対してどのようなマーケティングを行っていくべきなのか。次の一手も見据えつつ、注目のキーワードとそれにまつわる先進事例、有識者へのインタビューを通じて読み解いていく。
クラウドの名刺管理サービスを提供するSansanは、「カスタマーサクセス」の手法で事業を成長・拡大させている。同社カスタマーサクセス部のマネジャーを務める山田ひさのりさんに、その成功ポイントと今後の展望について話を聞いた。
約7000社で導入され、84%のシェア率を誇る法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」。2007年の創業と同時に開始したサービスだが、当時は名刺を紙で管理する習慣がまだ根強く、名刺データをクラウド管理する価値が理解されずに、利用は全く進まなかった。カスタマーサクセス部 シニアカスタマーマーケティングマネジャーの山田ひさのりさんいわく、「当然ながら解約が多く、危機感しかなかった」という。
「そもそも、サービスが認知されていなければ利用もないので、カスタマーサポート組織を用意しても機能しません。そこで08年に設立したのが、カスタマーサクセス部の前身であるサービス部でした」
SaaS※1ビジネスでは、「売り上げ÷解約率」で出される顧客生涯価値(LTV)を上げることが重要で、解約率を年間10%以下に抑えることが目安とされる。これを実現する施策が、顧客からの問い合わせを受動的に待つカスタマーサポートではなく、能動的な提案で顧客の行動変容を促し、サービスの長期間継続を目的とするカスタマーサクセスだ。
同社のサービス部は12年にカスタマーサクセス部へと改称。「Sansan」で名刺をデジタル管理する価値を訴求するため、まずは"使われること"を目的に、オンボーディング※2施策を徹底。顧客に対しリアルとオンラインでの説明会を行うなど、人間的な温かみを意識した能動的なアプローチに力を入れた。
同社では個人向けサービスである「Eight」も提供しているが、法人向けと個人向けでは、カスタマーサクセスで留意すべきポイントは異なるという。「法人向けサービスの場合、契約は会社が行います。そのため、社員一人ひとりに『購入したからには、使わなければもったいない』という気持ちは起こりません。まずは使ってみようというモチベーションを起こすことが大前提です」
カスタマーサクセスの推進により、「Sansan」の解約率は10%を下回り、事業の成長へとつながった。20年11月末時点の直近12カ月平均月次解約率は0.65%。コロナ禍で対面の名刺交換が減った中でも、「Sansan」をDXの入り口とする提案が功を奏し、LTVも上昇しているという。
また、18年には技術基盤を整備し、データ活用も積極的に開始。使用状況をはじめとする大量のデータを基盤に、顧客ごとの施策に濃淡を付けられることが、同社の強みになっている。
「カスタマーサクセスで重要なのは、営業やマーケティング、プロダクトなど各部門との接続を考慮し、全社的な視点で取り組んでいくことです。今後は、『Sansan』以外のサービスも提案しながら、顧客と当社、双方のさらなる成功に結び付ける新たなカスタマーサクセスの方向性を見据えています」
※1 SaaS:「Software as a Service」の頭文字をとった略称。ソフトウエアを、パッケージ製品としてではなく、インターネット経由のサービスとして提供・利用する形態を示す。
※2 オンボーディング:ソフトウエアやインターネットサービスにおいて、ユーザーがいち早く使い方に慣れ、習慣的に利用できるよう導くためのプロセス。