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トップ > 特集 注目のキーワードから次の一手を読み解く! マーケティングトレンド2021 > P3
新型コロナウイルス感染症の影響で、社会のトレンドや消費者の価値観が大きく変化した2020年。いまだに不確実な情勢は続くが、2021年はどのようなトレンドが予測され、それに対してどのようなマーケティングを行っていくべきなのか。次の一手も見据えつつ、注目のキーワードとそれにまつわる先進事例、有識者へのインタビューを通じて読み解いていく。
オーダーメードスーツの製造・販売を、「D2C」のビジネスモデルで展開するFABRIC TOKYO。D2Cの先駆的存在といわれる同社では、どのような想いでビジネスに取り組んでいるのか。取締役執行役員CFOの三嶋憲一郎さんに話を聞いた。
新規顧客はまず来店して採寸し、サイズデータを登録。その後、ECでオーダーメードスーツを購入するのが、FABRIC TOKYOのビジネスモデルだ。アパレル業界は従来、メーカーが百貨店や専門店などに商品を卸すのが一般的。商品を自ら製造し、かつECで販売も行うD2Cというスタイルは、それほど普及していない。取締役執行役員CFOの三嶋憲一郎さんは、同社のビジネスが始まった経緯をこう語る。
「大柄で、自分にフィットする服を見つけられない悩みがあった当社の代表が、Webでオーダーメード服の販売を広めようとしたのがきっかけです」
当初はECのみの展開で、サイズを測るのは顧客自身だったが、起業2年目にリアル店舗を出してスタッフによる採寸を始めると、顧客リピート率が約2倍に。以降はECとリアル店舗の両輪で展開している。
「サービスを開始した2014年当時は、D2Cという言葉を意識していませんでした。ただ、17年頃からアメリカでのD2Cの盛り上がりを知り、自分たちの取り組みがそれだと気付きました。当社のビジョンは、『誰もが自分らしいライフスタイルを自由にデザインできるオープンな社会をつくる』。これに沿ってベストな顧客価値を追求した結果が、D2Cだったのです」
あくまでビジョンを追い求める取り組みが、多様化した価値観やライフスタイルとフィットし、同社ならではのD2Cのスタイルが花開いた。
そんなFABRIC TOKYOのスタイルの特徴は、デジタルとリアル、双方の良さの融合にある。基軸となるのはECで、そこで得たさまざまなデータを、サービス品質を保つことなどに活用。リアル店舗は自社の魅力を発信するメディアと位置付け、売り上げを重視するのではなく、顧客満足度を高めるコミュニケーションの場とすることで、リピーター数の拡大を図っているという。デジタルの活用と聞くと、顧客接点が合理化されていくイメージがあるが、"商売の原点"である顧客との体験も大切にしているのだ。
19年秋には、店舗内で完全無人の3Dスキャンによる採寸を行い、オーダーメードの服を購入できるテックアパレルブランド「STAMP」をスタート。新たな施策も展開しているが、ここでもデジタルとリアルの良さを融合させ、新しい顧客体験を実現している。
「D2Cのビジネスでは、利便性だけでなく、感動やエンターテインメント性を追求することで、商いとしての深みが出ます。今後は既存顧客に向けたコーディネート提案や、メンテナンスなどのサポートを拡充し、顧客の体験価値を上げるRaaS※にチャレンジしていきます」
※ RaaS:「Retail as a Service」の頭文字をとった略称。小売りのサービス化を意味する。
従来店舗では、スタッフが丁寧に採寸してオーダーメードをつくり上げる。これに対し2019年にオープンした「STAMP」では、3Dスキャナーを使って素早く採寸。低価格帯のカジュアルラインの商品も展開して裾野を広げ、顧客価値向上を目指している。20年8月からは、体験型ストア「b8ta(ベータ)」にも出店