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トップ > Cのキセキ Episode.19 「PIXUS XKシリーズ」 > P4
毎年、各社から家庭用インクジェットプリンターの新製品が発表されるのは、年賀状印刷のニーズが高まる秋のことだ。家電店の店頭に各社の新製品が並ぶおなじみの風景。しかしその背後からは業界の未来を左右しかねない、変革の足音が聞こえてくる。キヤノンが「プレミアムシリーズ」として新たに発売した「PIXUS XK70」を通してその今を見ていく。
ランニングコストは抑えても、画質は「プレミアムシリーズ」の名に恥じぬ高いものでなければならない。そのため、「PIXUS XK70」には新開発「プレミアム6色ハイブリッドインク」が採用された。
この新しいインクのアイデアを生み出したのは、キヤノンで画像設計を担当する矢野史子だ。矢野はコストを抑えつつ画質を高めるという難題を実現するため、家庭向けモデルで使われていたグレーインクの代わりに、「フォトブルー」と名付けられた新色を使うことを考えた。
「グレーインクを使用すると無彩色の表現はより安定するのですが、より自然で鮮やかな表現には、何か違う手があるはずだと考えました」
この従来にはない発想は、ユーザーのプリントを見ることから生まれたという。
「新しいインクの使命は、お客さまにたくさんプリントして楽しんでもらうこと。ならば、お客さまがどんな写真をプリントするのか、そのサンプルをたくさん見てみようと考えたのです」
世界各国から取り寄せた写真を眺めているうちに、ある傾向に気が付いた。
「予想していた以上に、人物と風景、特に海や空を撮影した写真が多かったのです。では、人や風景が写った写真をプリントするのに効果的なインクはどんな色か。そう考えて、人肌を表現する際に多く使われるマゼンタと、空や海を鮮やかにプリントするために効果的なシアンの間にある、ブルー、特に淡い色調のブルーを加えてみるというアイデアにたどり着きました」
従来、主にシアンやマゼンタの組み合わせで表現される人肌や風景の色を、より滑らかに見せる方法の一つとして、淡いシアン、淡いマゼンタのインク2種類が用いられてきた。しかし、今回「フォトブルー」と名付けた淡い色調のブルーインク1色を加えることでも同様の効果を得られることが分かった。
矢野は「これは使える」と確信を持ったが、そこからも長い道のりだったという。一口にブルーといってもいろいろなブルーがある。どんなブルーが最も効果的なのかといった研究と検証に加え、インク材料の選定や細かなコスト計算に膨大な時間を費やしたという。
「フォトブルーインク」が写真に加えた繊細さ
「プレミアム6色ハイブリッドインク」は、新発想から生み出された画期的なインク。その特長は、マゼンタインクを刷新したことによって赤領域の発色がより鮮やかになったこと、そして新色の「フォトブルーインク」を採用したことでより繊細な描写が可能になったことにある。「フォトブルーインク」は、シアンインクとマゼンタインクを組み合わせて再現するような領域での色彩の表現力を高めると同時に、青色から白色の領域の粒状感を抑えて、より繊細に見せる働きをする。風景や人肌、さらには淡い色がより滑らかに美しく見えるという。