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手のひらに収まる小さなカメラから複合機や医療機器、さらには大型の産業機器に至るまで、多様な製品を世に送り出すキヤノン。ユーザーも用途も異なるそれら製品だが、そこには「キヤノンらしさ」とも呼ぶべき何かが込められている。その「キヤノンらしさ」とはどこから生まれ、そしてどのように引き継がれているのか。「デザイン」の観点から紐解いてみたい。

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  • 2018.09.01

Episode.22 「キヤノンのデザイン」

ユーザーを深く知ることでアイデアが生まれる

写真:今井信之 キヤノン(株)総合デザインセンターでデザイン企画部を統括する今井信之

こうしたメンタルモデルを探る取り組みや製品の評価を専門に行う部門もある。それがデザイン企画部だ。統括する今井信之はその目的をこう話す。

「ひとくちに『使いやすい』といっても、その基準を設けるのはとても難しい。製品を利用するユーザー、目的、環境。それらの違いによって、基準から変わってしまうためです。それを見いだすには、ユーザーの多角的な分析が必要となります。そこでデザイン企画部には、デザイナーだけでなく、『人間工学』や『リサーチ』『ユーザーエクスペリエンス(UX)(※1)』の専門家やエンジニア、さらには認知心理学者などが在籍しています」

そうした多様な専門知識を持つスタッフが、ユーザーにとって最適な製品を日々探っている。その手段の一つが、ユーザーが製品をどう使っているかの調査・分析や、製品が利用されている現場の調査など、いわゆるユーザー調査だ。

「製品がターゲットとする層の方々に集まってもらい、そこで製品をどんなふうに操作するのかを観察したり、使った感想を聞いたりすることもあります。また、医療や商業印刷などの専門家がユーザーとなる領域では、実際に利用されている現場を見学させてもらいます」

こうしたリサーチの結果が反映された事例として、一眼レフカメラ「EOS Kiss X9i」やミラーレスカメラ「EOS Kiss M」の操作画面がある。

「レンズ交換式カメラを初めて手にするユーザーにとっては、撮りたい写真のイメージはあるけれど『何をどうすればいいか分からない』『カメラ用語の意味が分からない』という根本的な課題があることが分かりました。そこで従来型の『Av(絞り優先)』などのカメラ用語や文章での説明主体の操作画面だけでなく、『ぼかす』『くっきり』といった一般的な用語を使い、設定の結果を画像やイラストで分かりやすく見せる操作画面にも切り替えられるようにしました」

医療機器の分野では、製品使用状況の実態調査がX線撮影装置のデジタルラジオグラフィに生かされたという。

「実際に医療の現場を見学させてもらい、医療に従事する方に感想を聞きました。例えばデジタルラジオグラフィでは、持ち歩く際に指を掛けるくぼみの深さや患者さんの体に触れる製品の角の丸みなど、ほんの少しの差が看護師さんや患者さんにとって重要な要素だと分かりました」

こうした現場での気付きから課題を解決するアイデアが生み出され、プロトタイプの製作や検証と評価を重ねることで、製品へと反映されていく。

※1 ユーザーエクスペリエンス(UX):「ユーザー経験」「ユーザー体験」などと訳される製品やサービスの利用を通じてユーザーが得る経験の総称。ユーザビリティの「使いやすさ」「使い勝手」だけでなく、「楽しさ」「心地よさ」なども含まれる。

  • 画像:メンタルモデル 重要なのは「メンタルモデル」の把握
    ユーザーに集まってもらい、製品の操作風景を観察したり、使用感を聞いたりすることもあるほか、ユーザーが製品をどう使っているかの調査・分析や、製品が利用されている現場の調査なども、「デザイン」の領域に含まれる。
  • 画像:X線撮影装置 製品に生かされる現場での調査
    X線撮影装置のデジタルラジオグラフィでは、実際の医療現場での調査・分析によって得られた知見が、持ち歩く際に指を掛けるくぼみの深さや製品の角の丸みなどに生かされている。
画像:「EOS Kiss X9i」の操作画面

躊躇せずユーザーの声を反映する
一眼レフカメラ「EOS Kiss X9i」の操作画面は、「カメラ用語の意味が分からない」といったユーザー調査の結果を反映し、「ぼかす」「くっきり」といった一般的な用語を用い、画像やイラストを多用した操作画面も用意した。

画像:「ユーザー調査」と「操作性評価」

重要な「ユーザー調査」と「操作性評価」
「デザイン企画部」には人間工学やリサーチ、ユーザーエクスペリエンスの専門家や、エンジニア、認知心理学者など多様な人材が在籍し、大きく「ユーザー調査」と「操作性評価」の2分野について活動をしている。

画像:デザイン思考プロセス

「デザイン思考プロセス」の概要
調査からユーザーをより深く知り、新しいアイデアを生み出し、プロトタイプの創作とそれを利用した検証によって、より良い製品を生み出すサイクルをつくるため、「デザイン思考プロセス」の浸透を推進している。

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