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トップ > Cのキセキ Episode.22 「キヤノンのデザイン」 > P5
手のひらに収まる小さなカメラから複合機や医療機器、さらには大型の産業機器に至るまで、多様な製品を世に送り出すキヤノン。ユーザーも用途も異なるそれら製品だが、そこには「キヤノンらしさ」とも呼ぶべき何かが込められている。その「キヤノンらしさ」とはどこから生まれ、そしてどのように引き継がれているのか。「デザイン」の観点から紐解いてみたい。
製品としての機能、操作の分かりやすさや確実性の追求、さらにユーザーや利用方法、使用環境への深い理解。こうした取り組みの結果として、キヤノンの製品は生み出される。キヤノンの「総合デザインセンター」というデザイン全般を統括する組織には数多くのデザイナーが所属し、カメラからプリンター、複合機、商業印刷機器、医療機器、半導体製造装置のような産業機器まで、多様な製品のデザインを行っている。多くの人が関わりながら、キヤノンの製品に一見して「キヤノン」と分かる何かがあるのはなぜだろうか。
その疑問に答えてくれたのは、同センターの所長を務める石川慶文だ。石川は「キヤノンらしさ」において同センターが果たす役割を、「縦軸」と「横軸」で説明する。
「『縦軸』は製品開発のより上流部分でデザインの力を生かすことです。調査や発想、創作、検証といった総合デザインセンターの活動で得た知見は、製品開発においてデザイナーたちが関わるタイミングが後になればなるほど、盛り込める範囲が狭くなります。ですから、キヤノンでは製品企画がスタートした段階から、デザイナーが深く関わる体制になっているのです」
こうしたデザイナーの関わり方が「キヤノンらしさ」を生み出すのだ。だが、それだけでは「キヤノンらしさ」は引き継がれていかないと石川は話す。
「デザイナーの交流を生む環境。それが『横軸』です。例えば、『デザイン審議会』という仕組みです。普段は別々の領域に携わっているデザイナーが一堂に会し、これから世に出る製品のデザインを審議する場です。想定されるユーザーの操作やそれに対するアイデアなどさまざまな項目について審議しますが、最終的に議論がたどり着くのは、このデザインは『キヤノンらしい』かどうかです」
検証と評価、そしてこうした議論の結果が反映されたものだけが、キヤノンの製品として世に出ていくのだ。では、デザイナーの数だけ「キヤノンらしさ」があるのだろうか。石川は答える。
「『デザイン審議会』で『キヤノンらしさ』について議論しても、参加者の中で『キヤノンらしさ』そのものが違うと感じることはありません。そして、どんなカテゴリーの製品であっても、全員が『キヤノンらしさ』という共通のイメージを大切にしてデザインしています。デザイン機能が集約された総合デザインセンターという環境で、デザイナーの交流が日常的に生まれます。だからこそ、これまで担当したことがない製品や領域のデザインに携わることになっても、例えばカメラで得た知見を医療機器に生かす、複合機の取り組みを産業機器に反映させるといったことが起きるのです。そして、各領域で得られた知見が共有され、拡散していくことで『キヤノンらしさ』が浸透し、受け継がれていくわけです」