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トップ > 特集 変革を実現する人材の育て方 人が会社を変えていく > P3
この予測不可能な時代に企業の方向性を担うのはAIでもデータでも設備装置でもない。それを使いこなす人間だ。人が変わらなければ変革は実現しない。しかし、多くの企業が変革を進められていないのが現状だ。では、変革を実現できる人材をどう見極め、育てれば、企業の成長へと結び付けられるのか。イノベーティブな変化をもたらす人材の条件、それを育む仕組みづくりとは――。識者インタビューと事例から読み解いていく。
キリンホールディングス(キリンHD)は2019年に発表した長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)」において、「価値創造を加速するICT」の実現を掲げた。その方針の一環として2020年に、キリンHD内に「DX戦略推進室」を設置し、DX人材育成に取り組んでいる。経営企画部 DX戦略推進室 主幹の近藤龍介さんに話を聞いた。
「デジタルマーケティングやERP(企業資源計画)導入など、業務をデジタル化する取り組みは、これまでも時代に即して行ってきました。ただ、グループ全体でのDX推進にはそれだけでは足りない」と、DX戦略推進室の近藤龍介さんは話す。
2020年に発足したDX戦略推進室は、グループ各社から選ばれた約20人で構成された経営企画部直下の組織。組織横断的に動きながら、食・医・ヘルスサイエンス領域において、デジタル技術を活用して事業プロセスの変革を進めるとともに、価値創造を加速することが役割だ。
「やってみて分かったのは、私たちが主導していては、課題を見つけ変革に取り掛かるまでに時間がかかってしまうことでした。経営課題の解決といった切り口では有効ですが、お客さまや現場の課題を解決するには、スピード感が足りないのです。そこで、製造や営業の現場で自ら改革を進めていく手法に変更しました」
一方で、現場のDXに関するリテラシーが高くなければ、課題に気付いたとしても解決する施策は出てこない。そこで、社員のDXリテラシーを向上させるため、「キリンDX道場」(以下、DX道場)という仕掛けをつくった。
対象となるのはグループ企業の全社員で、自ら手を挙げ参加する。これまでの受講者数は約1200人(一年間)に上る。プログラム内容は独自色が強く、キリングループ内の実務事例や現場で起こりうるリアルな課題を題材にしている。
「業務を知り尽くした社員が、現場で課題を発見することがまずは重要だと考えています。そしてデジタルスキルがないからと諦めるのではなく、現状を変えるためにはどのような技術が必要か、技術を活用して変革を実現していくにはどうすべきかを構想する力を磨いてほしい。そのためにリアルな事例を題材にしています。また、業務プロセスを単純にデジタル化するだけでなく、現状のやり方でいいのかと疑問を抱くことも大切です」
DX道場には、白帯(初級)、黒帯(中級)、師範(上級)という3種類のコースがあり、データ分析の基礎をはじめ、AI・機械学習、ノーコードアプリの活用方法などが学べる。"事業課題を解決する人材になるという意思と覚悟"を持った上で、「道場」の門を叩いてほしいという想いが名前に込められている。最終的な目標は、各自がデジタルテクノロジーを活用しながら、現場で変革を構想し、新たな価値を創造する人材になることだ。
一方で、グループ内での人材育成だけでなく、新卒・キャリアともに、デジタル人材の採用も強化している。キャリア採用では、前職でのテクノロジーを用いた変革経験や実績を評価ポイントに置いている。
「私たちのDX戦略は常に現場に紐付いており、お客さまに新たな価値を提供するためのものです。何をやるかは現場の人たちが考え、目的を実現するためにグループ内外の知恵を借りるのです。DXリテラシーの底上げを進め、課題発見の経験が増えることにより、現場で自発的なDXが起きる状況をつくっていきたいですね。そして、改革に成功したら、みんなと自社製品で乾杯したいです」
DX推進において「事業の課題を見つけ出し、ICTを活用した課題解決策を企画・設計し推進できる人材」が欠かせないと考えており、DX道場などの取り組みを通じて優先的に育成しようとしている