カテゴリーを選択

トップ > 特集 変革を実現する人材の育て方 人が会社を変えていく > P5

変革を実現する人材の育て方 人が会社を変えていく

この予測不可能な時代に企業の方向性を担うのはAIでもデータでも設備装置でもない。それを使いこなす人間だ。人が変わらなければ変革は実現しない。しかし、多くの企業が変革を進められていないのが現状だ。では、変革を実現できる人材をどう見極め、育てれば、企業の成長へと結び付けられるのか。イノベーティブな変化をもたらす人材の条件、それを育む仕組みづくりとは――。識者インタビューと事例から読み解いていく。

  • Twitter
  • Facebook
  • 特集
  • 2022.09.01

変革を実現する人材の育て方
人が会社を変えていく

コラム1環境を整え、模倣困難な戦略とイノベーションを生み出す

テレワークが普及したことなどで、人事マネジメントの巧拙(こうせつ)が鮮明になった2022年。勤務管理を強めるのではなく、社員を信頼し業務を任せることで成果を上げている企業の方がイノベーションが起こりやすいと語るのは、法政大学大学院 政策創造研究科 教授の石山恒貴さんだ。人の力で会社を変えるために、企業は何をすべきかを聞いた。

写真:石山 恒貴さん 石山 恒貴(いしやま のぶたか)
法政大学大学院
政策創造研究科 教授

パンデミックの経験を通じて、企業内ではさまざまな課題が顕在化した。例えば、組織や人事の観点では、勤務管理の強度が上がったというトピックスに注目が集まっている。

「テレワークが広がったことで、上司にとっては社員一人ひとりの仕事の進め方や業務の進捗などが見えにくくなりました。そのため、頻繁にチャットツールなどで部下の業務状況を確認する上司もいるようです。部下たちは、こうしたマネジメントに対して息苦しさを感じているのではないでしょうか」

こうした厳しいマネジメント手法においての人材育成は、これまで短期的には一定の成果を得られてきたかもしれないが、現在では懐疑的だ。石山さんは「マネジメントする立場からすると似たタイプの社員は管理・育成しやすいが、中長期的に見ればイノベーションからは遠ざかってしまう」と語る。

「企業が本気でイノベーションを求めるなら、人材の多様性は欠かせません。厳しい勤務管理により社員から自由を奪うのではなく、性善説に基づき、社員一人ひとりの個性を尊重し、社員をステークホルダーの一員として捉えることが重要になります。つまり社員を信頼することがカギになるのです。社員への信頼が職場での自由な発想を促し、アイデアを形にする人材を育てます。また自由な企業風土は採用希望の増加にもつながり、外部から人材を招くことで企業活動に幅と深みができます。その過程でイノベーションが起こり、企業価値が高まっていくのです」

イノベーションは起こすのではなく、起こるのを待つ姿勢が重要

石山さんが描くのは、人材の多様性を確保することで、イノベーションが起こる可能性が広がり、実現すれば企業価値が高まるというストーリーだ。その土台となるのは社員への信頼であり、屋台骨となるのは人材となる。

「ただし、企業がイノベーションを起こすような人材を計画的に育成することは困難です。なぜならイノベーターとは、計画や管理の枠から外れる人材だからです。これからはイノベーションが起こりやすい職場環境を用意できるかどうかが、企業にとっては重要になってきます」

では、イノベーションによって企業価値が高まるとはどういうことなのか。

「世界的には、他社から簡単に模倣できない部分を持つ企業が評価されます。ビジネスモデル、製品・サービス、企業文化、人事戦略……さまざまなオリジナリティーがある中で、今もっとも着目されているのが『人的資本』という考え方です。なぜなら、多様な個人というのは模倣できない部分の最たるものだから。ゆえに多様な個人、個性が求められているのです」

多様な人材が集まる場からイノベーションは生まれる

人的資本とは、人材を「資本」として捉え、経営資源の一つに据えること。そして人的資本経営とは、人材の価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方だ。

「人材が多様であればあるほど企業価値が高まるので、一企業の中で育った人材だけでなく、越境つまり領域を横断的に学んだ人材の価値が見直され始めています。例えば、専門的な知識や経験を持った人材と、異業種および海外からの転職人材、出戻り人材などが集まれば、イノベーションのきっかけをつかむ可能性が高まります。変化の激しい時代だからこそ、変化に適応していく人材と土壌が欠かせません」

一方で、積極的に社外の"知"を探索する仕組みづくりも、変化に適応する人材を育てるために欠かせない要素といえる。つまり、多様性が意味することは、内製化されていない"知"と出合うことだ。

「会社そのものを"個の才能が集い出合うプラットフォーム"として捉え直すことができれば、会社の役割も変わっていきます。その結果、垣根を越えたイノベーションも実現させることができるのではないでしょうか」

  • 前のページ

    ケーススタディ3
    ものづくり一辺倒からの脱皮。"越境"と"共創"で社員の意識が変わった
    「岡野バルブ製造」
  • 次のページ

    コラム2
    イノベーション人材を育成し、新たな価値を創造する

C-magazine サイト トップページに戻る

PDFで閲覧する場合は、デジタルアーカイブスへ

このページのトップへ