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トップ > 特集 DXの実現へ データドリブンが生み出す新たな価値 > P3
デジタル時代の今、データはヒト、モノ、カネに続く重要な経営資源といわれている。自社に蓄積するデータを有効に活用すればビジネスに新たな価値を生み出し、競争優位性も高められるはずだ。データに基づいた意思決定を行うデータドリブン経営の重要性への理解は深まる一方で、データ活用がうまく進まない企業も少なくないようだ。どうすればデータドリブン経営を実装し変革を実現することができるのか。取り組みを進める企業や識者インタビューから読み解く。
ゑびやは、伊勢神宮のおひざ元のおはらい町で、150年以上続く老舗飲食店。経営危機を契機に、データドリブン経営に移行し、2023年の売り上げは12年前の6倍となる見通しだ。コロナ禍においても過去最高の業績を達成している。飛躍的な業績向上を可能にしたデータ活用による事業変革について、代表取締役社長の小田島 春樹さんに聞いた。
多くの観光客が訪れる伊勢神宮内宮に続く参道で飲食店と土産物店を営んできたゑびや。小田島さんがゑびやに入社し経営に着手した2012年には、まだ昔ながらのそろばんと手切りの食券で会計をしていたという。そのころ経営状況は思わしくなく、テナント化の話もあったがうまくいかず、店舗の再建に切り替えた。
「街に観光客は来ており、マーケットニーズがあるにもかかわらず、やり方が時代に合っていないためうまくいかないという状況でした。そこで、業務のやり方を時代に合った方法につくり替えることにしました」と小田島さんは振り返る。
まず、PC購入やタイムカードのクラウド化などを進めることから始めた。また、POSレジも導入し売り上げを把握。商品開発やブランディングに注力する時間も生まれ変革のスピードも加速した。
「デジタル活用による事業変革は、結局は経営者自身の"決め"の問題です。意思決定する人間がいかに推進力になれるかどうかが重要です」
加えて、小田島さんが遠方にいても、遠隔で店舗をマネジメントできるよう、データを自動収集できる仕組みを構築し、属人化していたエクセルでの管理から脱却。さらにデータを生かした需要予測にも取り組み始めた。また、社内のデータ活用の促進にも工夫を凝らす。
「デジタル化で新たな作業が加わると、社員は抵抗を感じ浸透しません。そこで、社員が意識することなく自然とデジタル活用ができる仕組みを採用しています。例えば、全社員が使用するコミュニケーションツールの『Slack』では、自らアクセスしなくても、自動で実績や分析などが通知されるようにしています」
2017年にはデータ解析AIとPOSデータを活用して、来店客と購入客の属性分析による集客施策や商品開発を行い、売れ行きの検証を始めた。その結果、1年後には売り上げが1.8倍に伸びた。
「コロナ禍も同じ方法で検証を続けたところ、客層が大きく変化し、街が"巣鴨から原宿になった"といっていいほど若年層が増えたことがデータから明らかになりました。そこで、SNS映えする商品の開発や、比較的低価格帯の商品も展開するようにしました。さらに関東圏からの観光客が減ったことも分かったため、早急にWeb広告を取り止め販促費を削減した結果、業績は予想を上回り、人流減少にもかかわらず、過去最高の売り上げと利益を達成することができました」
現在は、データ分析により商品価格の値上げがどれほどマーケットに影響するかを計測し、価格を上げながら利益を確保できる値上げ幅はどこかを探っている。これにより物価高騰による仕入れ原価の上昇を商品価格に転嫁でき、利益を確保している。2023年には、飲食と小売の売り上げが6億円にまで拡大する見通しだ。
「かつてのシステムは高価だったため、導入には覚悟が必要でしたが、今は1アカウント1~2万円程度のものもあります。まずはいろいろ試してみて、その中から最適なツールを選び、データ活用することで、事業変革と継続的な成長を実現することが可能になると思います」
客層データを解析したところ、コロナ禍前とコロナ禍では客層や居住地域が大きく異なることが分かった。急速に変化する自社を取り巻く現状に対応するためには、データ活用による顧客変化の察知とアジャイル型の施策が必要になるという