カテゴリーを選択

トップ > 特集 DXの実現へ データドリブンが生み出す新たな価値 > P6

DXの実現へ データドリブンが生み出す新たな価値

デジタル時代の今、データはヒト、モノ、カネに続く重要な経営資源といわれている。自社に蓄積するデータを有効に活用すればビジネスに新たな価値を生み出し、競争優位性も高められるはずだ。データに基づいた意思決定を行うデータドリブン経営の重要性への理解は深まる一方で、データ活用がうまく進まない企業も少なくないようだ。どうすればデータドリブン経営を実装し変革を実現することができるのか。取り組みを進める企業や識者インタビューから読み解く。

  • Twitter
  • Facebook
  • 特集
  • 2023.06.01

DXの実現へ
データドリブンが生み出す新たな価値

コラム2自らが培った成功メソッドで、お客さまのデジタル変革を支援

キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)は、データドリブン経営のステップを着実に進めている。この取り組みをリードするのが、「デジタル戦略部」だ。自社の営業DXを推進し、その技術とノウハウで顧客の変革も支援している。データドリブン経営を実現に導く極意に迫る。

写真:高木悠一 高木悠一(たかぎ ゆういち)
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
デジタル戦略部
デジタル変革推進課 課長

ビジネス環境の変化に柔軟かつ迅速に対応し、事業の成長と収益向上を目指しながら、顧客のデジタル変革にも貢献する。これが、キヤノンMJのIT本部内に設置されたデジタル戦略部のミッションである。

「"データドリブンによる課題形成・解決"、"デジタルによる既存事業の効率化"、"デジタルによる新しい価値提供の創出"という3つのテーマを掲げ、事業部門と協働してアジャイル型の攻めのDXを推進しています」とデジタル戦略部デジタル変革推進課の高木悠一は語る。

この一環として取り組んだのが、自社の「BtoB営業DX」である。データとデジタル基盤を活用して対象顧客を抽出し、最適な営業シナリオを提案するというものだ。そのために独自のデータベースの構築や、データの可視化・活用を支える営業向けダッシュボードも整備し、実行・評価・改善を繰り返していく。

「データに基づく営業スタイルが徐々に浸透し、成果も着実に上がっています。従来の営業スタイルに比べ、商談に至る確率も約1.7倍高くなっています」と高木は説明する。

しかし、成果が出るまでには、一筋縄ではいかなかった。デジタルシフトを進める際、変化に難色を示す人が組織内には少なからず存在するからだ。そこでデジタル戦略部では、企業文化・風土の変革を目指し、人材育成に着手した。全社員向けにデータリテラシー教育を実施するとともに、デジタル人材の職種と必要なスキルを再定義し、ワークショップなどによる階層別教育も実施。データアナリストやデータサイエンティストの育成にも注力している。

これらの取り組みは事業部門と連携しており、デジタル戦略部から事業部門にデータアナリストを派遣したり、逆に事業部門からデータ活用ノウハウを学びにきたりといった交流も行っている。

社内の営業DXをサービス化、顧客のデジタル変革を支援

これらの取り組みによって蓄積したノウハウやスキルをベースに、顧客のデジタル変革を支援するサービス提供も開始した。それが「BtoB営業DX支援・構築サービス」と「BtoC EC構築・運営受託サービス」だ。

前者は営業DXの仕組みの提供に加え、社員の意識変革まで幅広くサポートする。後者はECサイトの構築・運営をキヤノンMJが一貫して行うというものだ。いずれも導入実績がある。

今後は自社のBtoB営業DXにAIを活用し、より高度なデータ活用を目指す。すでに検証を進めており、顧客向けサービスへの展開も計画している。さらに自社で取り組んでいる人材育成や企業文化・風土の変革を支援する教育プログラムの提供も考えているという。

「データドリブン組織への変革は、経営と事業部門が一体となること、すなわちトップダウンとボトムアップの両輪の取り組みが不可欠です。当社は自らの経験によって、そのノウハウやスキルを豊富に有しています」と高木は力を込める。キヤノンMJはこの強みを生かして顧客のデジタル変革に貢献し、データ活用による価値最大化を加速させていく。

図:3つのテーマの実現

3つのテーマの実現にはデジタル基盤となるITシステムの整備、人材育成、そして企業文化・風土の変革が欠かせない。これらを同時かつ継続的に推進し、四半期単位で実行・評価・改善を繰り返していくことで、攻めのDXを拡大させている

ビジネスパーソンが今読みたいこの1冊

DXを成功に導くデータマネジメント ―データ資産価値向上と問題解決のための実務プロセス75 (株)データ総研 小川康二・伊藤洋一 著

実務に役立つ成功法則を解説
書影:DXを成功に導くデータマネジメント

DXを成功に導くデータマネジメント
―データ資産価値向上と問題解決のための実務プロセス75

(株)データ総研 小川康二・伊藤洋一 著
翔泳社

本書は、データマネジメントの専門会社であるデータ総研が長年蓄積してきたノウハウと、データマネジメントが普及してきたこの10年間コンサルタントとして現場を支援してきた著者らの経験を基に、データマネジメントを進めるための組織づくりや実践方法など、75のRULE(成功法則)を3部11章の構成でまとめている。

著者は、企業が取り組むべきDXのポイントとして、顧客中心のビジネスモデルへの変革を挙げる。どのような顧客がどんな商品・サービスを求めているのか、利用のタイミングや頻度といった詳細な顧客のデータを取得、分析、仮説、検証していく。このプロセスに必要なデータを適切に管理するのがデータマネジメントである。

まず、「データマネジメントの対象と活動を理解」(RULE5)することがポイントとなるが、対象データには、顧客データや商品データ、販売データ、SNSなどのビジネスデータがある。中でも、顧客が発信するSNSデータは、顧客の動向を把握する上で重要性を増している。

データマネジメントを始めると、現場の業務部門から「何のために行うのか」といった疑問の声が上がり、進まなくなる場合があるという。そこで、「対象領域を絞ったスモールスタートで始める」(RULE15)方法を提案する。例えば、マーケティングに絞って顧客データや商品データの統合などを行い、そこから企業全体に成功体験を広げると、業務部門にもデータマネジメントの意義が理解されやすくなる。

データ活用がうまく進まない企業の参考になりそうなのが、「データ活用をテコに業務上の課題を解決する」(RULE33)だ。業務部門は「欲しいデータをすぐに取得できない」、IT部門はオンプレミスやクラウドなどに「データが分散して一元管理できない」といった課題がある。こうした課題に対して「整合性のあるデータをあらかじめ用意する」といった解決策を例示しており、読者には理解が進むはずだ。

本書は図版を多用しながら具体的な実務プロセスを分かりやすく説明。著者は「誰もが気軽に読めるように、旅のガイドブックのような構成で仕上げている」と記している。目的地であるDXの成功に向け、本書を携えながらデータマネジメントの取り組みに出発してはどうだろうか。

(評・テクノライト 山崎俊明)

  • 前のページ

    コラム1
    データマネジメントの推進が、データドリブン経営の肝

C-magazine サイト トップページに戻る

PDFで閲覧する場合は、デジタルアーカイブスへ

このページのトップへ