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トップ > 特集 最新技術とヒューマンパワーが融合するプライシング新時代 その価値、今の値は? > P3
江戸時代に普及して以降、「定価」がスタンダードだった「価格」の世界が今、変革期を迎えている。
キーワードは「ダイナミックプライシング」と「サブスクリプション」。
これらを支えるのは、「AIによるビッグデータ解析」などのデジタル時代の技術と、「人の感覚で需要を読む」という昔ながらのストラテジーだ。革新と伝統が共存する「新時代の価格のセオリー」を読み解く。
駐車場シェアリングサービスを提供する「akippa(アキッパ)」では、AIを活用したダイナミックプライシングを導入している。近隣で大型イベントがあれば、平常時の10倍の価格でも埋まるという「駐車場」の世界。そこでどのような成果を上げているのだろうか。
「akippa」は、全国の空いている月極や個人の駐車場を一時利用できるサービス。ユーザーはWeb上で予約と精算を行うが、同社の田中大貴さんによれば、このシステムはダイナミックプライシングと非常に相性が良いという。
「現地に精算機や料金パネルがある従来の駐車場では、料金を柔軟に設定することが困難でした。しかし、Webで手続きを進める当社のシステムなら、簡単に料金が変えられます。また、事前予約のため、お客さまは料金に納得した上で利用できる。イベントなどの影響で高めの料金設定になっている場合でも、『高い』というクレームはほとんどなく、むしろ早朝から駐車場の確保に動く必要がないことで、ゆとりを持って行動できるという点が評価されています」
同社では5年前からダイナミックプライシングを導入しているが、2018年秋に甲子園球場付近のエリアでAIを活用したプライシングを試験導入したところ、予想以上に収益が伸びたという。
「客単価と稼働率がそれぞれ110%になり、結果的に収益が120%になりました。AIがこれほどの結果を残すことができたのは、試験を行ったエリアについて、当社がもともと豊富なデータを持っていたという背景があります。需要にはエリア特性があり、今回のロジックがそのまま全国で通用するわけではありません。そのため、土地ごとのデータをいかに増やしていくかが今後の課題ですが、システム自体には自信を持つことができました」
そのシステムで価格を決めるには、駐車場の需要を左右する「変数(条件)」が鍵になってくる。そこで同社が重視している要素は130項目以上あるという。
「駅や施設からの距離などは、容易に想像できますが、高さ制限や止めやすさなど、駐車場のスペックも重要です。大型バンやワゴン車が入る駐車場の需要も予想以上に高い。加えて、天気のような外部要因も影響します。こうした変数を、現在進行形で増やしている状況です」
ここで忘れてはならないのが、駐車場オーナーからのフィードバックだ。
「われわれに土地勘がない地方では、オーナーさまの意見が非常に参考になります。『この神社で夏祭りがあると路上駐車が増えるから、この駐車場の需要は高い』『ここが一方通行だから、あっちの駐車場の方が使いやすい』といった、現地にいなければ分からない"生の情報"がプライシングに生きてくるんです。もちろん、それらを活用してより適した価格設定を行えば稼働率や収益も上がり、情報をくれたオーナーさまにも還元できます」
akippaの料金レンジは300円~5000円。ダイナミックに動く価格をコントロールし、駐車場利用客とオーナーの双方が満足するサービスを提供できるのも、人から得たきめ細かいデータがあればこそだ。