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トップ > 特集 最新技術とヒューマンパワーが融合するプライシング新時代 その価値、今の値は? > P5
江戸時代に普及して以降、「定価」がスタンダードだった「価格」の世界が今、変革期を迎えている。
キーワードは「ダイナミックプライシング」と「サブスクリプション」。
これらを支えるのは、「AIによるビッグデータ解析」などのデジタル時代の技術と、「人の感覚で需要を読む」という昔ながらのストラテジーだ。革新と伝統が共存する「新時代の価格のセオリー」を読み解く。
今や、さまざまな業界で展開されているサブスクリプション型のビジネスモデル。しかし、早々に撤退を余儀なくされるサービスも少なくない。明暗を分ける要素とは一体何か? デロイト トーマツ コンサルティングの根岸弘光さんに聞いた。
「サブスクリプションというと『定額』課金のイメージが強いのですが、その第一義は『顧客との接点を継続的に持つ』ということにあります。利用者が伸びなかったり、減ってしまったりしたときに、顧客の情報や利用状況を踏まえて『次の一手』を打つ。それをAIによる分析なども活用しながら高速に回していくのが、サブスクリプションの本質といえます」
単なる定額サービスでは、飽きられれば早々にユーザーは離れていってしまう。ユーザーからのフィードバックを基に、料金やサービス内容を逐次見直すといったプロセスが欠かせないのだ。
「サブスクリプションをこれから始めようとする企業が、まず考えなくてはならないのは、『顧客のデータをきちんと取れるか』ということ。単に名前や住所が登録されているだけでは意味がなく、頻度や数量、料金などのサービス利用状況を細かくトラッキングする仕組みが必要です。しかしメーカーなど、マス向けにモノを売っていた企業の場合、顧客との直接的な接点がないため、まずはデータを取りにいく仕組みから作らなくてはなりません」
こうしたプロセスを省いてサービスを始めても、失敗は目に見えている。
「サブスクリプションは片手間で始めてうまくいくものではありません。データ管理はエクセルで行っている、といった例も聞きますが、エクセルで扱える程度のデータ量では、『次の一手』の分析には足りません」
「次の一手」を打つには、サービスの内容ばかりでなく、組織の在り方まで見直す必要があるという。
「いわゆるPDCAサイクルにおいて、日本企業の多くが苦手としているのが、『C(チェック)』と『A(アクション)』の部分です。サブスクリプションのポイントは、データを基にいかに早く『次の一手』を検討し、新たなサービスとして提供できるかです。これは、社内に迅速な分析と企画のカルチャーなくしては成り立ちません」
スタートの段階で「想定ユーザーをマスで捉えない」ことも重要だという。実際、好調なサブスクリプションビジネスは、高級家具のレンタルや高級レストランの定額サービスなど、ある程度限られた市場を対象にしているものが多い。
「『一般消費者』や『何十代女性』といった乱暴な区分ではなく、『こんな嗜好を持っている人』のように、ユーザーはニッチに絞り込むのがよいでしょう。そうしないと、意図した通りのユーザーに、実際に届いているかどうかの検証が困難になります。まずはスコープを小さくして、仮説が正しいか否か検証しながら、ダメだったら次のサービスを考える。『1回で当てよう』などと思わず、徐々にブラッシュアップしていくことが、成功のポイントといえます」